2020.03.05
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大橋 真友子さん/アイビー (看護師+ファシリティドッグ・ハンドラー/ファシリティドッグ)

+αで活躍する医療従事者 vol.5

医療従事者の中には「+α」の技能を生かしながら病院以外の多彩なフィールドで活躍する人も少なくありません。こうした人たちは、どのような経緯で「+α」を学び、仕事に生かしているのでしょうか。今回は、小児病棟などでの臨床看護経験を生かしながら、国内で3人目の「ファシリティドッグ・ハンドラー」として活躍する大橋真友子さんと相棒であるファシリティドッグのアイビーを取材しました。ファシリティドッグが”常勤”で病院に勤務するという、日本ではまだ数少ない本プログラム。入院中の子どもたちの心のケアを通してストレス軽減をはかる効果が得られていますが、取材中アイビーとすれ違う病院の職員の皆さんも笑顔になり、病院全体を明るくさせる効果もあるように感じました。

取材・文/河村 武志・中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/穴沢 拓也(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

+αで活躍する医療従事者 vol.4 久保 さやかさん(看護師・保健師+人材育成・組織開発コンサルタント)

  

+αで活躍する医療従事者  vol.5 大橋 真友子さん (看護師+ファシリティドッグ・ハンドラー)画像1

プロフィール

大橋 真友子(おおはし まゆこ)

国立病院の看護師として成人・小児領域で約16年間の臨床経験を積んだ後、森田優子氏(国内初のファシリティドッグ・ハンドラー)の活動に興味を引かれ、同じ道を志す。認定NPO法人シャイン・オン・キッズに所属する国内3人目のファシリティドッグ・ハンドラーとして、2019年8月より東京都立小児総合医療センター(東京都府中市)で本格的に活動をスタート。現在、子育て中の4児の母でもある。

 

アイビー(あいびー)

2017年1月22日にアメリカで生まれた、ラブラドールレトリーバーの女の子。生後2か月からシアトルのトレーニングセンターに入り、「ハワイ留学」を経て卒業。ハンドラーである大橋さんと一緒に暮らしながら、東京都立小児総合医療センターで「フルタイム勤務」している。特技は添い寝。

 

◆思いがけず拓かれたファシリティドッグ・ハンドラーへの道

 

――小児科の看護師として勤務していた大橋さんが、ファシリティドッグに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

 

私は学生時代から子ども好きでしたが、だからこそ子どもが苦しんでいる姿に耐えられないと思い、新卒時は小児看護ではなく成人看護の道を選択しました。しかし、3年ほどたって自分のキャリアを見つめ直したとき、やはり小児医療に挑戦したいという思いが蘇ってきたのです。勤めていた国立病院の系列院が小児専門病院に転換したタイミングで、そこへ異動することにしました。以来、外科病棟や脳外科病棟、脳外科整形病棟などで13年ほど働きましたが、常に意識していたのは「わが子のように患児をかわいがる」こと。業務の間に童謡を歌ったり、母親のように抱きしめたりと、あまり他の看護師がしないような関わり方も積極的にやっていました。

 

脳外科整形病棟に入院していた女の子のことは、今でも強く印象に残っています。院長先生に手紙を書いているというので、どんな内容か聞いてみると「ここに犬がいたらいいなと思って、お願いするの」と教えてくれたのです。「患児のためにできることはやるつもりだけれど、犬を連れてきてあげることはできないなあ」と残念に思ったのを覚えています。今になって思えば、病院と犬との関わりを初めて意識させられた経験だったかもしれません。

 

+αで活躍する医療従事者  vol.5 大橋 真友子さん (看護師+ファシリティドッグ・ハンドラー)画像2

 

ファシリティドッグ・ハンドラーを仕事にしようと考え始めたのは、それから数年後のことでした。直接的なきっかけは、私が育児休業に入ったタイミングで退職した後輩が、ファシリティドッグ関係の仕事に就いたと知ったこと。実は、その後輩こそ国内初のファシリティドッグ・ハンドラーである森田優子です。末っ子が小学生になったタイミングで、私にも何がお手伝いできないかと森田に連絡してみることにしました。

 

すると、それから数週間後、偶然にも新たなハンドラーの募集が始まったのです。安定した看護師の仕事を辞めてまで挑戦するかどうか悩みましたが、家族とも話し合いを重ねて決断しました。応募してすぐに書類選考通過の連絡を受け取り、翌日から面接がスタート。たまたま休暇を取っていたタイミングと面接が重なり、選考プロセスをスムーズに進められたことは運命としか思えませんでした。

 

――ファシリティドッグ・ハンドラーの選考では、どのような点が重視されるのでしょうか。

 

医療従事者としての経験とマルチタスク能力があることに加え、ファシリティドッグを幸せにできるかといった点が見られていたと思います。ハンドラーにとってファシリティドッグは、活動のパートナーであると同時に、家族の一員ともなるからです。私は犬を飼った経験がなかったのですが、飼い主としての癖がついていないことで、素直にトレーニングにのぞめたことは逆に良かったようです。

 

無事にハンドラーとして選ばれたときはうれしかったですが、一息つく間もなくアイビーとの研修が始まりました。犬の生態学や管理方法などに加えて、60種類以上のコマンド(指示)を学ぶ内容でした。

 

+αで活躍する医療従事者  vol.5 大橋 真友子さん (看護師+ファシリティドッグ・ハンドラー)画像3

インタビュー中も時折アイビーが大橋さんのもとへ「今何してるの?」と言わんばかりに確認しに来る

患児の不安を和らげ、笑顔を増やすアイビーの力

 

――今では一緒に暮らす家族となったアイビーですが、初対面のときの印象はどうでしたか。

 

初めて会ったばかりの私の指示にも素直に従ってくれて、とても賢い犬だとすぐに分かりました。基本的な性格としては、真面目で穏やかないい子です。ただ、賢いだけに「納得できなければ動きたくない」という強い意志を感じることもあります。もちろんアイビーの気持ちを察することは大切ですが、仕事中にはわがままを言ってはならないシーンも少なくありません。そうした兼ね合いを考えて指示を出せるかどうかも、ハンドラーの力量が問われるところですね。

 

2019年4月からアイビーを自宅に迎え、東京都立小児総合医療センターで試験的に業務を始めました。1つの病棟に限定し、週3日くらいのペースで患児のベッドサイドを訪問しながら少しずつ病院の環境に慣れていき、同年8月からはフルタイムで勤務しています。アイビーは大柄な犬ということもあり、当初は怖がって近付かない子もいましたが、何度か訪問を重ねるうちに穏やかな性格が伝わり、次第に笑顔で受け入れてくれるようになりました。

 

+αで活躍する医療従事者  vol.5 大橋 真友子さん (看護師+ファシリティドッグ・ハンドラー)画像4

 

――医療現場でアイビーが必要とされるのは、どのような場面が多いのですか。

 

日常的に最も多くの時間を割いているのが、患児とのふれあいです。プレイルームなどで一緒に遊んだり、ベッドで添い寝したりして信頼関係を育みます。そうしたプロセスがあってこそ、つらい処置のときに寄り添うことで、患児の恐怖心を和らげることができるのです。

 

アイビーが必要とされる場面はたくさんありますが、中でも鎮静前の待ち時間に呼ばれることが多いです。当院では髄注(抗がん剤を脊髄腔に注入する治療のこと)などの前に鎮静をかけるのですが、意識を失う間際は怖い夢を見る患児もいます。そこで、処置の予定時間の少し前からアイビーがベッドサイドを訪れ、眠りに就くまで添い寝します。

 

侵襲的な処置を受ける患児の精神的な負担は大きく、医療従事者がベッドに近付くだけで泣き叫んでしまうようなケースも少なくありません。そうしたときもアイビーは、背中をグリグリ押し付けるような仕草をしながら「ここにいるよ、大丈夫だよ」とその子を一生懸命に励ましています。麻酔で意識が遠のきながらも「アイビー……」と呼ぶ子もいるほど、彼女は患児にとって大きな心の支えになっているのです。

 

+αで活躍する医療従事者  vol.5 大橋 真友子さん (看護師+ファシリティドッグ・ハンドラー)画像5 アイビー

「今は仕事の時間ではない」とわかると静かに待つアイビー

チャンスをつかむために着実な準備をしておこう

 

――ファシリティドッグ・ハンドラーとして感じる、仕事のやりがいや難しさについて教えてください。

 

現在は、長期入院になるケースが多い上、外出や遊びに制限がかけられてしまう小児がんの患児を中心に、2病棟の約50人に対してアイビーが関わっています。どの患児を対象とするかは医師の指示により決まりますが、訪問日時や訪問時にやることはハンドラーに一任されます。カルテを見ながら、病棟の看護師とも相談しつつ、ベストな動き方を考えています。

 

ファシリティドッグを扱うにあたっては「1時間活動させたら1時間休憩させる」という国際基準があるため、半日に4人程度のペースで会いにいくことが多いです。アイビーを求める声は引きも切らず、介入の優先度を決めることは簡単ではありませんが、人数をこなすことよりも質の高い関わりを実現したいと考えています。患児が大変な思いをしているときこそ、「いつもそばにいるアイビーが応援に来てくれた!」という状況を作れるようにベストな調整をすることが、難しくもやりがいを感じる部分です。

 

――最後に、大橋さんの今後の目標と、「+α」をめざす医療職の皆さんへのメッセージをお願いします。

 

私とアイビーは、最初はお互いに緊張気味でしたが、今ではほどよくリラックスした関係性が築けていると思います。これから2〜3年かけて、すべての病棟に関われるよう活動の幅を広げていきたいですね。また、ありがたいことに当院での取り組みはモデル事例として注目していただいているので、ファシリティドッグを全国に広めるきっかけとなれるように心して活動していきたいと思っています。

 

私のハンドラーとしての道は、偶然が偶然を呼んで拓けていきました。ただ、チャンスをつかもうとしたことは確かで、それをしなかったらずっと後悔が残ったに違いありません。私の場合、看護師として臨床経験があることはもちろんですが、「ハンドラーになるにあたって不安なこと」を徹底的に書き出し、1つずつクリアにしていったことが自信につながりました。訪れたチャンスを逃さないためには、根拠のない自信をよりどころにするのではなく、着実な準備をしておくことが必要なのだと思います。

 

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大橋さんとアイビーお互いが信頼している証

 

認定 特定営利活動法人シャイン・オン・キッズ

認定 特定非営利活動法人 シャイン・オン・キッズ

 

■住所:〒103-0023 東京都中央区日本橋本町3-3-6ワカ末ビル 7階

■TEL: 03-6202-7262

■URL:http://sokids.org/ja/

 

2006年7月:日本の法律の下に特定非営利活動法人タイラー基金として発足

2012年12月7日:東京都より「認定」を取得したことを機に、団体名称を「特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズ」と変更

日本の小児がんや重い病気を患っている子どもたちとそのご家族の生活が楽になるよう支えることを目標に、以下の活動を行っている。

1.小児がんや重い病気の子どもたちとそのご家族を力づける活動

2.医療チームと治療の充実のための活動:医療スタッフの増員、医療チームのコラボレーション、研究開発への支援

3.小児がんの認知を高める活動:学会の参加、ボランティア活動、スポンサー企業との連携

 

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