竹中:エレベーターからフロアに出た瞬間に、「きれい!」「おしゃれ!」と驚きました。この幅広い年代の方に居心地の良さを感じてもらえるようなユニバーサルデザインのアイデアは、どこから生まれたのでしょうか?
蔵書約400冊のライブラリースペースは代官山 蔦屋書店がプロデュース
飯村誠一郎さん(以下、飯村):ここは開設から14年経った2015年、居心地がいい空間を目指してリニューアルオープンしました。改装前も利便性の高い医療モールとして地域の人々に親しまれていましたが、さらに進化させるためにどうしたらいいか考えた結果、ユニバーサルデザインの店舗設計という結論に至りました。薬局は単に便利な立地にあるだけでなく、選んでもらえる場所にならないといけないと思っています。親しみやすい空間デザインに居心地のよさを感じてもらう、そういう感覚的な部分も大切にしています。アイセイ薬局はデザインに非常にこだわりがあります。店舗内で目にするさまざまなデザインから、「アイセイ薬局ってなんだかいいよね」と思ってもらいたいですね。グリーンを配したり木製の机やいすを並べたり、自然を感じさせる要素を取り入れたことで、年配の方から、身体の不自由な方やお子さんまで幅広い方から好評を得ています。「ここに来ると気持ちがいいな」と思ってもらえていたらうれしいですね。
「選ばれる薬局になるには心地よい空間づくりが大切」と話す飯村誠一郎部長
案内板はクリニックエリアを5色で表し、天井の色付き導線をたどると目的エリアに着ける
竹中:この医療モールには、デイサービスや居宅支援事業所など、介護関連の施設もあるんですね。一般的な医療モールとは違う点だと思います。
飯村:そうですね。実は、この下総中山クリニックファームは、アイセイ薬局が関わっている医療モールの中でも先進的なタイプです。改装した2015年当時、薬局が介護系の事業所と連携できたのも地域に貢献できる意欲的な取り組みだったと思います。最近、弊社は「地域のコミュニティーをつくる」ということを非常に意識しています。コミュニティーを活発にするため、地域の人向けにさまざまなイベントも行なっています。例えば、薬局の仕事を子どもたちに体験してもらう「こども薬局」というプログラムは、この薬局の設備を実際に使ってしばしば開催しています。地域の人が集まるためのイベントを開くことも含めて、空間づくりだと考えています。
「こども薬局」の様子。大勢の子どもたちが参加している(アイセイ薬局提供)
竹中:このライブラリースペースはカフェのようにおしゃれですが、実際の反響はいかがですか?
子どもが遊べる専用スペースも
伊藤誠一さん(以下、伊藤):季節や診療科によっては、待ち時間がものすごく長くなってしまうことがあります。そういうときに、ここで本を読んで待ち時間を過ごされている方はとても多いですね。混雑時でも広いスペースで過ごせるので、お子さんを連れている方や年配の方から特に「落ち着いて待てるのがいい」と好評です。本は健康関連のものから趣味嗜好に関するものまでいろんなものをそろえているので、診察がなくても、買い物ついでにふらっと立ち寄られる人も結構いますよ。
「薬のことを幅広く学べるのが医療モール内薬局の特長です」と話す薬剤師の伊藤さん
竹中:確かに、近くにこんな場所があったら通いたいです。お子さんが遊べるスペース(通称「こどもガレリア」)もあって、長居したくなる子どももいそうですね(笑)
伊藤:「もっと遊びたい!」と泣いてしまうお子さんもいらっしゃいますね(笑)。お薬を受け取った後にまた戻って遊んでいるお子さんもいます。遊びに夢中でなかなかお薬を取りに来られない場合には、部屋内の放送で番号の呼び出しを行なったり、直接声をかけに行ったりすることもあります。部屋の中では、お子さんが声を上げたり走り回ったりしても大丈夫なので、親御さんは安心ですよね。小児科を受診されるほとんどの方がこちらのスペースを利用されています。
子ども向けの絵本やアニメーションなどが充実している「こどもガレリア」
竹中:さまざまな科の処方箋を扱い、多様な薬に触れられるのは薬剤師としてやりがいがありそうですね。病院の薬剤部のようなイメージに近いのですが、先生からの問い合わせも多いのではないでしょうか?
伊藤:問い合わせは多いですね。薬の服用の回数や年齢の制限といったことから、個別の薬剤の特性のことまでいろいろあります。製薬メーカーに問い合わせても分からないようなものは、ある程度こちらで調べ、判断をしてから医師に伝える場合もあります。診療科が多いと重複処方もありうるので、あらかじめコンピュータに登録しておき、注意しています。医師とは、電話だけだとなかなか詳しい話が聞けないので定期的に面会しています。そこで、薬の処方意図や最近の治療トレンドなど先生の考えを聞き、そこで得られた情報をスタッフ間で共有しています。そうすると、疑義照会の問い合わせ件数は減ってくるので、薬局にとっても医療機関にとってもいいですよね。病院薬剤師から転職した社員がいるんですが、「さまざまな科の薬を扱えることが魅力的。とても勉強になる」と話しています。大学病院など医療モール以外の医療機関からの処方もあるので、薬について学ぶ機会は多いですね。広く学びたいという薬剤師にとっていい職場だと思います。
医療モール内の薬局のため取り扱う薬の数は多い
竹中:調剤についてお聞きしたいんですが、機械の導入など調剤を効率化させるためのシステムや工夫はありますか?
伊藤:小児科があるので、水剤、散剤の調剤が多いですね。散剤の分包機は3台あって、短い服用期間専用が2台、長い期間専用が1台と使い分けています。自動水剤の分注機も置いています。コンピュータで登録するとデータが流れ、容器をセットすると自動で調剤してくれます。うちは使用頻度がかなり高く、最近ますます稼働率が高まっています。あと、皮膚科もあるので、軟膏ミックスの機械も置いていますね。今期はさらに効率を上げるために、監査システムも稼働予定です。また、自動調剤機械の導入も予定してます。
小児科があるため大活躍だという自動水剤の分注機
デジタルサイネージの内容も充実
竹中:待合室のデジタルサイネージで、漫才の動画を見たのですが、最後まで見入ってしまうとても面白い内容でした。デジタルサイネージはどのような目的で設置しているのですか?
飯村:弊社のほとんどの店舗で、デジタルサイネージを導入しています。内容は医療やヘルスケア情報からアイセイ薬局からのお知らせ、そして、楽しんでもらえるような医療系エンタメコンテンツまで含めたもので、毎月1回番組構成を更新しています。店舗ごとに一部のコンテンツを変えています。先ほどご覧いただいた動画は、「薬局あるある漫才」というオリジナル漫才のシリーズです。お笑い芸人の「三拍子」さんにお願いして、かかりつけ薬剤師や薬局の機能を面白く分かりやすく紹介しています。
デジタルサイネージの内容をきっかけに会話をすることもあるという
竹中:ちょっと話が戻りますが、居宅支援事業所もあるということは在宅もやられているのですか?
伊藤:やっています。直接ケアマネージャの方がお見えになるので、連携しやすいです。デイサービスもあるので、通われている方のスケジュールに合わせてお薬を管理することもあります。
竹中:地域サービスの充実度が非常に高いですよね。医療介護モールという印象です。医療の一つの理想を実現されているように思うのですが、今後目指される姿はどのようなものですか?
飯村:やはり「コミュニティ」は一つのキーワードですかね。日常からかけ離れたところに医療や薬剤による治療があるのは、ちょっと違うなと思っています。社会の中に生活があって、生活の中に医療と介護がある。そして、必要であれば自然に治療やサービスが受けられるイメージです。サービスをする方もされる方も日常の中に自然に存在しているのが理想ですね。その中で薬剤師が一番身近な相談相手であってほしい。そういう意味でコミュニティを作り出したり、地域に入っていったりするのを意識しています。
アイセイ薬局の季刊誌「ヘルス・グラフィックマガジン」との連動コーナーも
竹中:伊藤先生、飯村さん、お忙しい中、取材にご協力いただきありがとうございました。
株式会社アイセイ薬局
下総中山クリニックファーム
住所:千葉県船橋市本中山2丁目10-1
URL: TEL:047-302-3821
1984年創業、全国に362店舗を展開。調剤薬局経営を中心に、医療モール開発、医師の医院開業・医療経営支援、介護福祉事業、調剤薬局の経営連携事業継承などを通して、地域のヘルスケアの形をデザインしている。下総中山クリニックファームは2015年にリニューアルオープンした。
ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)薬剤師。薬局事業、介護事業、美容事業を手掛ける「株式会社バンブー」代表。「みんなが選ぶ薬局アワード」を主催する薬局支援協会の代表理事。薬剤師、経営者をしながらライターとしても長年活動している。 |
メディカルサポネット編集部
(取材日/2019年4月18日)