2020.09.30
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半年後に始まるオンライン資格確認の準備は大丈夫?
データヘルス基盤構築のファーストステップ

マイナンバーカードを使って医療保険を確認する「オンライン資格確認」が2021年3月からスタートします。医療機関・薬局の事務作業の負担が軽減するというメリットだけでなく、保険資格の確認を皮切りに、薬剤情報や手術、透析、移植、医療機関名から電子処方箋の活用までも視野に入れた、次世代のデータヘルス基盤の第一歩となります。マイナンバーカードを読み取るカードリーダーは無償提供され、8月から申し込みを受け付けています。厚生労働省保険局保険データ企画室の大竹雄二室長、同・太江俊輔保険データ企画係長に、医療機関・薬局が取り組む意義を聞きました。

取材・文/横井かずえ
編集・撮影/メディカルサポネット編集部

カードリーダーは無償提供 早めに申し込みを

 

2021年3月から始まるオンライン資格確認。厚生労働省は20年8月から、ポータルサイト上で顔認証付きカードリーダーの無償提供の申請受付を開始しました。カードリーダーは受注生産のため、厚労省は10月早期の申し込みを推奨しています。

 

オンライン資格確認は、単に保険証の代わりにマイナンバーカードを利用するだけに留まりません。2021年3月からは特定健診情報、2021年10月からは薬剤情報の閲覧・共有が可能になり、さらに翌年2022年夏頃をめどに、手術や移植、透析、医療機関名などの情報閲覧もスタート。さらには電子処方せんの仕組みの構築まで視野に入れた、データヘルス基盤の構築という大きな枠組みの中の1つです。

 

そうした大きな流れの中で、医療機関・薬局にとっては患者情報を共有することで医療安全や医療の質向上など、いくつものメリットを享受できます。また、すぐに効果を実感できるメリットとしては事務作業の効率化・省力化があげられます。

 

 オンライン資格確認によってレセプト返戻作業が効率化する。(厚生労働省提供)

 

「オンライン資格確認の大きなメリットの1つが、事務作業の省力化です。今は患者さんが持ってきた保険証を受付で入力する必要がありますが、マイナンバーカードを使えばその手間がなくなり、事務作業の負担が大きく軽減されます」(大竹氏)

 

「オンライン資格確認のメリットの1つが事務作業の省力化です」と話す厚労省保険局保険データ企画室の大竹雄二室長  

 

作業の効率化と年間500万件の返戻を防止

 

事務作業の効率化に加えて、資格過誤による返戻防止にも効果を発揮します。

 

「今までは保険証が有効かどうか、その場で確認する仕組みがありませんでした。そのためレセプトを請求してから、実は保険資格が間違っていたことがわかり、返戻となるケースも少なくありませんでした。オンライン資格確認を導入すればその場で資格を確認できるので、資格過誤による返戻は基本的になくなります」(大竹氏)

 

日本薬剤師会によれば、医科・歯科・調剤で年間約20億件のレセプトのうち0.27%、件数では実に500万件の返戻が発生しています(2014年度)。これだけの数の返戻がなくなることは、医療機関・薬局の経営にも大きなインパクトがあるといえます。

 

もう1つ、医療安全・医療の質向上の観点から大きなメリットになるのが医療情報の閲覧です。マイナンバーカードで本人確認をすれば、患者の薬剤情報・特定健診情報などの閲覧が可能になります。

 

薬剤情報では、レセプト情報をもとにした過去3年分の情報を参照することができます。特定健診情報では、医療保険者などが登録した5年分の情報の参照が可能です。特定健診情報は2021年3月から、薬剤情報は2021年10月から閲覧・活用がスタートし、翌年には手術や移植、透析、医療機関名などにも拡大予定です。

 

さらには2022年度から運用が始まる見込みの電子処方せんについても、このシステムと連動することが想定されます。

 

高精度の顔認証システム 受付でのカード預かりは不要

 

医療情報を閲覧するための患者の同意は、カードリーダーでカードを読み取る際に取得が可能。ログも残るため、電子的に同意の記録を残すことができます。

 

この他にもオンライン資格確認が力を発揮するのは災害時です。災害時は、保険証やお薬手帳など自分の受診歴、服薬歴を示すものを何も持たずに避難する状況が想定されます。この時、オンライン資格確認を導入している医療機関・薬局であれば、患者さんがマイナンバーカードを持っていなくても、特例的に資格端末で患者情報を閲覧できるのです。

 

このようにメリットの多いオンライン資格確認ですが、マイナンバーカードの取り扱いや導入時の受付での混乱などを心配して、導入を迷っている医療機関・薬局もあるのではないでしょうか。

 

「マイナンバーカードを取り扱うことに対してセキュリティが心配という声も耳にしますが、基本的にマイナンバーカードは患者さんご自身がカードリーダーに置いて操作するため、受付で預かる必要はありません。また、患者さんは暗証番号と顔認証のいずれかを選べるため、定額給付金の申請時にみられたような、暗証番号を忘れたことによる混乱も起こりません」(大竹氏)

 

無償提供のカードリーダーは3タイプあり、マスクを付けたまま顔認証できるものもある。

 

マイナンバーカードは高齢者の利用が多い

 

セキュリティなどに問題がないとすれば、気になるのは肝心の普及率。せっかくシステムを導入しても、利用者が少なければ絵にかいた餅に終わってしまいます。

 

「マイナンバーカードの発行枚数は3000万枚に迫る勢いです(8月27日現在)。これは決して少ないボリュームとはいえません。またマイナンバーカードを持つ年齢層をみると、運転免許証を返納して写真付き身分証がなくなってしまった高齢者が、身分証として利用しているケースが多いことがわかります。このことからも医療機関・薬局に来る患者さんが、マイナンバーカードを持参するケースは少なくないと予想しています」(太江氏)

 

 

「マイナンバーカードを利用している高齢者は少なくない」と話す太江俊輔保険データ企画係長

  

今回、オンライン資格確認を導入するにあたって、顔認証付きカードリーダーは、申請すればすべての医療機関・薬局に無償提供されます。またシステムの改修費用も補助が出るなど、費用面では手厚いサポートが用意されています。

 

オンライン資格確認の導入に関する補助の内容をまとめたもの(厚労省提供) 

 

補助金の申請受付は2023年の3月末まで。ですが2021年3月から実際に、マイナンバーカードを持った患者さんが窓口にやってくることが想定されます。その時「『うちの病院ではマイナンバーカードには対応していません』ということがないよう、早めの準備を」と厚生労働省では呼び掛けています。

 

導入を迷っている場合は、まずポータルサイトに登録だけすることもできます。アカウントを登録すると、オンライン資格確認に関する最新情報がメールで送られてくるようになります。

 

今から準備して3月スタートに間に合わせよう

 

検討の結果、導入を決めたら、まずはカードリーダーを申し込みます。並行して、システム改修についてもシステムベンダと調整・相談を始めます。その後、9月末以降にオンライン資格確認の利用申請がスタートし、補助金の申請は11月以降の受付になります。

 

「10月中に準備していただければ3月のスタートに間に合います。ぜひとも早めに、まずは登録だけでもしていただきたいと思います」(太江氏)

 

医療機関・薬局と支払基金など、患者を中心とした関係者がネットワークで常時、接続される、次世代のデータヘルスネットワークの第一歩ともいえるオンライン資格確認。ゆくゆくは現在、議論が進んでいる、個人が自分の健康情報や医療情報を把握する、パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)の実現も視野に入ります。

 

「将来的に本人や広く医療者間で医療情報を共有し、より安全で安心な医療を提供するための第一歩として、ぜひとも積極的に取り組んでいただきたいと思います」(大竹氏)

 

メディカルサポネット編集部(取材日/2020年8月27日)

 

横井かずえ(医療ライター)

医療系の専門紙「薬事日報」の記者として13年間、日本医師会、日本薬剤師会、厚生労働省などを担当。独立後は医療・介護・ヘルスケア分野を中心に取材、執筆。現在は、医師向けドキュメンタリー誌や介護情報誌『あいらいふ』、ケアマネ向け在宅情報誌『ふれあいの輪』などで執筆するほか、ニッポン放送・草野満代の『健康あるあるWONDER4』などで一般向けの情報発信を行っている。

■サイトURL:https://iryowriter.com/  ■Twitter:@yokoik2

 

 

 

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