2018.11.01
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【他科への手紙】病理診断科→放射線科

メディカルサポネット 編集部からのコメント

札幌厚生病院病理診断科医長の市原真先生が「癌腫(上皮性悪性腫瘍)の放射線診断においては、癌細胞そのものよりも癌周囲の間質のほうが重要なケースがある」とコメントされています。「画像と病理を見比べて得た疑問」は科を超えた連携もご検討ください。

 

平素より多数のご示唆を頂き恐悦です。皆様に画像診断を教えて頂きながら、画像と病理の関係に思いを馳せる毎日です。近年は「癌腫(上皮性悪性腫瘍)の放射線診断においては、癌細胞そのものよりも癌周囲の間質のほうが重要なケースがある」ことが気になっており、一筆啓上いたします。

常々、このようなお問い合わせをいただきます。「膵癌の造影CTにて、腫瘍のサイズを長径1.5cmと読影したが、病理診断書には2.5cm大とあった。この乖離はなぜ起こるのか」「直腸癌で膀胱浸潤の可能性ありと読影しても、多くの場合、膀胱浸潤まではきたしていないのだが、何か理由があるか」「食道癌の放射線治療後、画像で予測した腫瘍量と病理学的な腫瘍量とが必ずしも一致しないのはなぜか」といった具合です。

これらは、いずれも、癌腫の画像診断が、癌細胞そのものだけではなく、「癌細胞+周囲に形成された線維性間質」を併せて読んでいるために起こる難しさであろう、と推察しております。

癌周囲に線維性間質が形成されることはdesmoplastic reaction(DR)と呼ばれております。DRは個々の症例ごとに千差万別ですが、原則的にDRがあるとがんの腫瘍量や血流変化がより際立つため、DRがはっきりあるがんのほうが診断がしやすく、DRが少ないがんは読みづらいように感じます。

たとえば膵癌ですと、腫瘍の浸潤部にDRをきちんと伴っている場合には、CTで遷延性の造影効果を示す境界不鮮明・凹凸不整な結節として認識され、画像で読んで頂いた腫瘍長径と病理診断書の腫瘍径が一致することが多くあります。一方で、癌細胞や癌腺管が、DRをほとんど伴わないままに、膵腺房間にぱらぱらと、あたかも五月雨のように浸潤する膵癌というのを稀に経験します。このようなDRの少ないがんでは、腫瘤のmass volumeが表現されづらく、造影態度にも差が出づらく、周囲組織の破壊傾向もあまり目立たない傾向にあるため、各種の画像診断で癌細胞の進展範囲を正確に読影することが困難となります。

膵癌に限らず、放射線診断と病理診断が乖離した例の多くは、「DRが通常のがんと比べて少ない、ほとんどない」か、もしくは「DRとは別の、炎症などにより生じた線維化によって、がんの浸潤範囲と炎症・線維化の範囲を混同している」ものです。以上の指摘は胃癌、乳癌など、原発臓器を問わず多くの癌腫でなされております。

皆様が「画像と病理を見比べて得た疑問」を私どもにぶつけていただけますと、診断上のピットフォールに気づくことができ大変有り難く存じます。今後とも画像・病理対比を通じて病理診断科と連携して頂ければ幸いです。

  

結び

がんの放射線診断では癌細胞そのもの以上に浸潤部の線維性間質形成(DR)が重要な役割を果たしていると感じます。

  執筆:  

      市原 真 (札幌厚生病院病理診断科医長)

 

 出典:Web医事新報

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