2018.11.17
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大腸癌肝転移に対する動脈化学塞栓術の概要は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

IGTクリニック・堀 信一先生は「動脈化学塞栓術は、強い局所効果は得られにくいものの、正常肝細胞の障害は少ない傾向があります。一般的には肝全体に行いますが,腫瘍が一部に限局している場合は選択的に行います。肝機能の悪化を避けながら腫瘍の増大抑制を得ることで,予後延長をめざすのが現時点での最良の選択肢です。」とおっしゃっています。

 

大腸癌肝転移に対する動脈化学塞栓術を行う際に,イリノテカンを50~100μmのHepaSphereに含浸して使用していますが,抗癌剤の選択方法,永久塞栓物質,特にHepaSphereのサイズ,含浸の方法,治療のエンドポイントなどの手技のエッセンスや注意点について,本法の先駆者であるIGTクリニック・堀 信一先生に現在のお考えをお聞きしたく思います。

【質問者】

桑鶴良平 順天堂大学医学部放射線診断学講座教授


【回答】

【球状塞栓物質DC-BeadsやHepaSphereを使用して腫瘍内部に化学物質を吸着させる】

大腸癌は胃癌と同様に早期で発見されれば治癒率の高い腫瘍ですが,術後には全身化学療法が行われ,その治療経過中に肝転移が生じることは稀ではなく,これが予後規定因子になることが多いようです。肝転移の治療法として外科的切除が推奨されており,最近ではRFAも試みられてはいるものの,転移性腫瘍の性質から,残肝に新たに転移が出現してくることが多く,動脈化学塞栓術が現実的な選択肢となりえると思います。しかし,他の癌腫の肝転移に比べて奏効率は低い印象があり,比較的短期間(1~2カ月)に治療を繰り返す必要があります。

日本でも2014年に承認された球状塞栓物質を用いた動脈化学塞栓術は,従来の方法のような強い局所効果は得られにくいものの,正常肝細胞の障害は少ない傾向にあります。現在,日本で発売されているDC-BeadsやHepaSphereはいずれもイリノテカンを吸着しますので,これらを用いれば腫瘍内部に塞栓材料が分布し,腫瘍内部でイリノテカンが放出されると考えられています。

用いる抗癌剤は,全身化学治療で使用されているオキサリプラチン,イリノテカン,5-FUであり,全身化学療法時の5分の1から半量程度の投与量としています。しかし,これらの薬剤が全身化学療法で不応とされている場合は,アドリアマイシンを用います。最近は100~200mg程度のアバスチンを動注すると良好な効果が得られています。アバスチンの動注に関しては動物実験で良好な効果が報告されています。

HepaSphereに吸着させるのはイリノテカン40mg,アドリアマイシン20~30mgであり,非イオン性造影剤4:生理的食塩水1の割合の混合液を溶媒として5mLの溶液とします。吸着には20分程度かかります。選択するHepaSphereのサイズは50~100μmが適当で,将来30~60μmが承認されればこちらを選択するのがよいと思われます。

塞栓術は一般的には肝全体に行いますが,腫瘍が一部に限局している場合は選択的に行います。塞栓術のエンドポイントは,肝動脈の血流がゆっくりになる程度で,完全血流停止はめざしません。この程度の動脈化学塞栓術であれば,術後に強い腹痛をきたすことは稀で,抗癌剤の副作用も軽微で,副作用に対する治療は制吐剤の投与だけで十分です。

もちろんこの治療でもめざすところは良好な局所効果ですが,肝機能の悪化を避けながら腫瘍の増大抑制を得ることで,予後延長をめざすのが現時点での最良の選択肢であると考えています。将来は,他の分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の少量動脈投与により,良好な抗腫瘍効果を得る可能性もあり,今後の臨床経験の積み上げが期待されます。

【回答者】

堀 信一 IGTクリニック院長

執筆:

桑鶴良平 (順天堂大学医学部放射線診断学講座教授)

堀 信一 (IGTクリニック院長)

       

 出典:Web医事新報

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