2018.11.11
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CKD患者における運動療法の実際は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

CKD患者の運動療法が重要視されています。リスク評価、有酸素運動・筋トレなどのトレーニングメニュー、診療報酬などの問題が絡んできます。フィットネスクラブではパーソナルトレーニングも盛んなので、トレーナーと連携しての運動を習慣化させるのも一つの方法ではないでしょうか。

 

近年,慢性腎臓病(CKD)患者に対する運動療法・食事療法を中心とした非薬物療法が腎臓リハビリテーションの一環として着目されています。そこで,CKD患者における運動療法の実際につきまして,具体的にご教示頂ければ幸甚です。虎の門病院・星野純一先生にご回答をお願いいたします。

 

【質問者】

祖父江 理 香川大学医学部附属病院腎臓内科講師/診療科長

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 【回答】

【リハ専門家と連携して有酸素運動・レジスタンス運動等を組み合わせたメニューを家庭で継続するのが理想】

 

かつては,糸球体腎炎やネフローゼ症候群患者に対して安静や運動制限の必要性が論じられてきました。しかし寛解期にあるネフローゼ症候群患者に対する運動制限の明らかなエビデンスはなく1),運動後の蛋白尿増加は一過性であると報告されています2)。CKD患者は,蛋白異化亢進によるエネルギー消耗やミトコンドリア機能異常による持久力低下により3),フレイル・サルコペニアを高頻度に合併します4)。そのため,近年ではCKD患者における運動療法が重要視され,国際的なKDIGOガイドラインや欧米各国の最新ガイドラインでは,CKD患者に対する運動療法を積極的に推奨しています5)~7)。2018年に日本腎臓リハビリテーション学会により発刊されたガイドラインにてシステマティックレビューが行われ,運動療法によりCKD患者の腎機能,運動耐容能,身体機能に関するQOLが高まる可能性が示されました。その結果に基づき,年齢や身体機能により個別に考慮する必要があるものの,積極的に運動療法を行うことが推奨されています1)。

 

一方で運動療法の実施にはいくつかの課題があります。第一にCKD患者は心血管疾患を合併しやすいことから,事前に患者のリスク評価を行う必要があります。第二に有酸素運動・レジスタンス運動(筋力トレーニング)・柔軟運動をどのように組み合わせるか,統一的な見解は定まっておらず,個々の状態に合わせて運動処方(頻度・強度・持続時間・種類)を行う必要があります。第三に,現段階では,腎臓リハに対する診療報酬がついておらず,心臓リハ,介護保険,糖尿病透析予防指導などの適応がある患者を除いては,施設での継続的な実施が難しい問題があります。

 

リハビリテーション専門家と連携して有酸素運動・レジスタンス運動等を組み合わせたメニューを作成し,それに基づいて患者や家族がhome-based exerciseを継続するのが理想ですが,散歩習慣の有無によってCKD患者の生命予後・腎予後が異なることが報告されており8),単純に1日30分程度の散歩を週3~5回実施する,または万歩計を用いて1日6000〜10000歩を目安に散歩を行うといった目標認定も効果的と考えられます。運動療法には身体・精神・社会的な多面効果が期待されることから,今後,益々のエビデンスが蓄積されることが望まれます。

 

【文献】

1) 日本腎臓リハビリテーション学会:腎臓リハビリテーションガイドライン. 南江堂, 2018.

2) Fuiano G, et al:Am J Kidney Dis. 2004;44(2): 257-63.

3) Tamaki M, et al:Endocrinology. 2015;156(10): 3638-48.

4) Moon SJ, et al:PLoS One. 2015;10(6): e0130740.

5) Eknoyan G, et al:Kidney Int. 2013;3(Suppl): 136-50.

6) Beck BR, et al: J Sci Med Sport. 2017;20(5): 438-45.

7) Thornton JS, et al:Br J Sports Med. 2016;50 (18):1109-14.

8) Chen IR, et al: Clin J Am Soc Nephrol. 2014;9 (7): 1183-9.

 

【回答者】

星野純一 虎の門病院腎センター内科部長

 

執筆:

祖父江 理 (香川大学医学部附属病院腎臓内科講師/診療科長)

星野純一 (虎の門病院腎センター内科部長)

 

  出典:Web医事新報

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