2020.07.06
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【識者の眼】「日本の検査は世界標準か」渡辺晋一

メディカルサポネット 編集部からのコメント

帝京大学名誉教授の渡辺晋一氏が新型コロナウイルスのPCR検査を例に挙げ、世界標準になっていない日本の検査法や、日本の検査キットの問題点を取り上げています。日本が”検査天国”となっている背景に、日本の出来高払いの保険制度を挙げ、検査を行った方が病院の収入が上がる仕組みになっていることにも触れています。

 

新型コロナウイルスの政府の専門家会議が廃止され、ますます医学的根拠が乏しい感染症対策になる懸念がある。経済を回すためにも定期的なPCR検査をし、隔離すべき人を探す必要がある。中国のように20〜30名を一括してPCR検査をし、陽性者がいたグループだけを個々にPCR検査をすれば検査数は少なくてすむ。しかし日本は一貫して世界標準のPCR検査に後ろ向きで、日本で開発された抗原検査には前向きである。ただし抗原検査は精度に問題があり、世界標準の検査法にはなっていない。

 

日本の検査キットの問題は他にもある。例えば梅毒血清反応は自動化法に変わり、多くの検査キットが認可されたが、メーカーによるばらつきが多い。また白癬菌抗原キットは足白癬には使えないが、爪白癬に使えるという代物で、しかも世界標準の診断法である直接鏡検結果と相関性がなかった1)。

 

このように日本には独特の検査がある。例えばKL-6は間質性肺炎の検査とされているが、海外にはない。確かにKL-6は間質性肺炎と相関するが、最終的にはX線やCT検査で確認しなければならない。そのため、海外では患者への問診と、打聴診という基本的診察を行い、疑いがあればX線やCT検査を行う。アトピー性皮膚炎の皮疹と血中のTARCの値は相関するとして、日本ではTARC検査が保険適用となったが、米国の皮膚科学会は皮疹を観察する以上の価値はないとしている。また日米欧のアレルギー学会は、抗原特異的IgGは食物アレルギーの診断に無用としている。さらに米国皮膚科学会では、アトピー性皮膚炎患者に抗原特異的IgE検査をルーチンに行うべきではないと提言している。しかし日本ではアトピー性皮膚炎や蕁麻疹などでこの検査が汎用され、医療費増大の要因になっている。このように日本は検査天国で、出来高払いの保険制度では、患者を治すより、検査を行った方が病院の収入が上がる。

 

実際露出部位の酷い湿疹で、20年間大学病院を含む多くの病院で、皮膚生検などの検査をしたが治らず、私を受診した患者がいた2)。詳しく問診すると葬儀業であることがわかり、菊皮膚炎を疑った。パッチテストで診断を確定し、菊に触れないようにしたところ、20年間悩んでいた皮膚病は消失し、病院への出費もなくなった。

 

【文献】

1)渡辺晋一:Med Mycol J. 59:J3-4, 2018.

2)渡辺晋一:学会では教えてくれないアトピー性皮膚炎の正しい治療法. 日本医事新報社, 2019.

 

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[#検査キット] 

 

 

出典:Web医事新報 

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