2020.06.26
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白石 和子さん(東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長)

プロフェッショナルに聞く vol.4

幅広い視野で課題解決に挑み、組織を引っ張る凄腕の看護管理者たちがいます。そうした看護管理者のもとを訪ね、これまでの経験やマネジメントの秘訣について話を伺う本シリーズ。今回登場していただくのは、東京女子医科大学病院(東京都新宿区)の副院長兼看護部長、白石和子さんです。学生時代から現在に至るまで東京女子医科大学病院で一貫してキャリアを重ねてきた白石さん。脳神経センターでの豊富な臨床経験は、今でいう「多職種連携」や「チーム医療」を取り入れた実践だったと振り返ります。現在は「みんなちがってみんないい」をスローガンに、看護師が持つ「強み」に着目した教育制度の改革の取り組みを進めています。医療安全の徹底を目指し、組織風土を変えるべくさまざまな取り組みに尽力される白石さんの「トップこそ改革者であれ」という言葉が印象に残りました。

取材・文/河村 武志(ナレッジリング)
撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

プロフェッショナルに聞く vol.2 日本赤十字社医療センター 看護部長 川上潤子さん

  

  

  

プロフェッショナルに聞く vol.4 東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長 白石和子さん 

<プロフィール>

白石 和子(しらいし・かずこ)

東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長

千葉県出身。東京女子医科大学看護短期大学(現・東京女子医科大学看護学部)を卒業後、1985年に東京女子医科大学病院へ入職。脳神経センター(当時)で約20年の経験を積んだ後、各種病棟や救命救急センターを経て、2014年東京女子医科大学八千代医療センター(千葉県八千代市)へ副院長兼看護局長として赴任。2018年より現職。

   

◆「第3希望」が紡いだ看護師人生

 

――白石さんは脳神経センター(当時)に配属されて看護師のキャリアをスタートさせましたが、これは「第3希望」だったそうですね。

 

そうなんです。ただ、振り返ると脳神経センターでの経験が今につながっていますので、結果的にはよかったと思います。脳神経センターでは意識障害や片麻痺、失語症のある患者さんが多く、常に医学・看護の視点を持った上で寄り添ったケアをすることが楽しく、やりがいを感じていました。「自分のケアで患者さんの状態がいい方向へ変わる」という反応が得られやすかったからだと思います。

 

もう30年ほど前の話ですが、あるALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんのことが今でも特に強く印象に残っています。ALSですから、病状が進むにしたがって手足が動かしづらくなり、会話もできなくなり、ついには呼吸不全に陥って、人工呼吸器を装着しなければ生命が維持できなくなってしまう場合があります。当時は「人工呼吸器を付けたまま在宅に移行する」という考え方自体少なかった時代でしたが、本人はご家族と暮らしたいと望んでおり、私たち看護師もなんとかその願いをかなえてあげたいと思いました。

 

ALSの患者さんの在宅療養を支える仕組みがなかっただけに、かなり高いハードルを越えなければならなかったのですが、訪問診療を受けてくださる医師や訪問看護師を探し、カンファレンスを繰り返し、自治体とも調整しながら、ようやく在宅療養を始めることができました。私自身も何度か訪問させていただきましたが、いわば訪問看護の走りですよね。この患者さんは、お亡くなりになるまで、比較的長い期間をご家族と一緒に過ごせたということもあり、看護師として正しい選択ができたのではないかと思っています。

 

これはもちろん私1人の力ではなく、熱意を持った先輩方が引っ張ってくれ、後輩たちも必死に付いてきてくれました。熱い心を持った看護チームが一丸となったからこその成果だと思います。当時の仲間とは今も連絡と取り合ったり、実際に会ったりと、つながりを保っているんですよ。

   
プロフェッショナルに聞く vol.4 東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長 白石和子さん

   

――脳神経センターでの経験は、入職時に配属されて以来、約20年にも及んだそうですが、異動を考えたことはなかったのでしょうか。

 

他の領域の勉強もしたいと思って異動を願い出たこともあったのですが、人事上のタイミングが合わずにかないませんでした。センター内での異動(病棟→ICU)はあったものの、ここまで同じ領域に居続けることは珍しいでしょうね。もし、異動していたら、また違った人生があったのかもしれません。ただ、依然として脳神経センターでの仕事は楽しくて、理学・作業療法士や医療ソーシャルワーカー等のメディカルスタッフが身近にいたこともあって、今でいう「多職種連携」のような取り組みを脳神経センター発信で行っていたと思います。

 

それから、今では当たり前になった「多職種チーム医療」も、医師を巻き込んでやっていました。看護師は24時間患者さんの一番身近にいて、責任を持って専門性を発揮し、それを医師も尊重してくれる関係を築けていたように思います。「先生たちはオペをしっかりとやってくださいね。その代わり、術前術後の管理やケアオーダーは私たちに任せて!」と、お互いが信頼し合っているからこそできることでしたね。

  

スタッフの「強み」に注目して伸ばしていく

 

入職8年目に主任になったのが管理職としてのキャリアのスタートでしたが、立場の変化やチームマネジメントの問題で大変だったことはありますか。

   

今は1つの部署に1人の師長がいる体制が普通ですが、当時は1つの建物または複数の部署に1人の管理師長がいて、各フロアに主任が配置されていました。当時の主任の役割は、今の師長が担う役割と似ていたと思います。勤怠管理やベッドコントロールをしつつ、受け持ち患者さんのケアもして……というように、とにかく何でもやっていたような記憶があります。

 

また、スタッフの教育も主任の重要な役割でした。私の病棟は、病院全体でわずかしかない「教育病棟」とされていて、様々な教育方法のトライアルをして効果を検証する役割も課せられていたので、プリセプターシップの先駆けのようなこともやっていました。

 

先ほどもお話ししたように、私は患者さんのそばで働くことに楽しさとやりがいを感じていたので、管理職になることに不安というか、「ちょっと嫌だな」という気持ちがあったのが正直なところでしたね。ただ、先代の統括看護部長(川野良子氏)がよく言っていた「部長と副部長は師長のケアをしなさい。師長は主任のケアをしなさい。主任はスタッフのケアをしなさい。それでスタッフが患者さんのケアをすれば、皆で患者さんのケアをしていることになる」という言葉に近いことを思えるようになって、「役割が人をつくる」と実感してからは、管理職としての楽しさややりがいが見えてきました。

   

プロフェッショナルに聞く vol.4 東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長 白石和子さん  

  

――その後、脳神経センターから腎臓内科・救命救急センターなどの混合病棟へ異動し、そこで師長になりますが、主任時代と比べて役割の違いなどどう感じましたか。

  

 主任時代は主任の目線で頑張っていたのですが、師長の大変さは見ると聞くでは大違いでした。責任の大きさが全然違いましたね。特に、スタッフが思うように成長しないとか、残念ながら辞めてしまうということがあったとき、本当にどうしようか悩みに悩みました。

   

今、当院のスタッフ教育に関して「みんなちがってみんないい」というスローガンを打ち出しているのですが、当時はそうした意識がなかなか持てず、どちらかというと「皆に同じように成長してもらい、病棟の力を底上げしていきたい」という思いが強かったように思います。もちろん、現実はそうはならないわけで、何度も壁にぶち当たりました。数年前から、アプリシエイティブ・インクワイアリー(appreciative inquiry)という価値探求型リーダーシップのアプローチを教育の基本に変えたら、各部署で一人ひとりの強みを意識した職場風土が芽生えてきたと思います。

  

どういうことかというと、人は「みんなちがっている」という大前提があり、それぞれ強みと弱みを持つデコボコな存在なわけです。その弱みではなく強みに注目して、伸ばしていく関わりをする。そうすると自信が芽生えてきて、「ここが自分の居場所なんだ」という意識を持ってくれるようになります。それぞれが強みを発見して皆で共有し、認め合っていくことで、いわば病棟の共有財産を作って、Dreamを描いたチームに向かえるということだと思います。

    

プロフェッショナルに聞く vol.4 東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長 白石和子さん  病院の看護師採用パンフレットにも「みんなちがってみんないい」のスローガンが。表紙の紙質にもこだわった。

 

◆変革者としてのスピリットを忘れたくない

 

――当時の経験が看護部長となってからも生きて、教育制度をはじめとする様々な改革につながっているのですね。

 

そうだと思います。ただ、私どもの大学は本院・東医療センター・八千代医療センターという3つの病院(それ以外に成人医学センター・東洋医学研究所)があるのですが、それぞれバラバラの教育をしていたのではダメですよね。そこで、統括看護部長と3施設の看護部長職が話し合いながら、同じ方向を見て制度を作っていこうということで動いています。

  

例えば、プリセプターシップの改革もその一つです。従来は、1人のプリセプティーに対して1人のプリセプターが1年間指導する方法を採用していましたが、人間同士の相性が合わなかったり、プリセプターが過剰なプレッシャーを感じたり、プリセプター以外の人が指導に入りにくかったりといった弊害もありました。そこで、マンツーマンの期間を1年から3か月に短縮し、あとは病棟全体で新人を育てるという方針に切り替えました。病棟の教育を担当する「チーフナース」、そして「クリニカルコーチ:自部署の看護実践において熟達した臨床力を有し、かつ、自らが常に学習する態度で仕事に臨む看護師としての基本的能力を発展させ、自部署の看護師などに対してそのキャリアを支援する立場で教育・指導を行う者とする」が中心となって、コーチングやアサーションの技法を使って指導してもらいました。その後も、プリセプターシップの試行錯誤を繰り返し、3年前からプリセプターを熟達者(P.Benner看護論の中堅レベル)が行い、新人看護職と一緒にシャドウイングを1ヵ月行うようにしました。「教える側」、「学ぶ側」という概念を取り払い、「ともに学び、承認しあう」ことで相互の感性を触発し、お互いを「共同体」として「ともに成長する」ことを大切にしていきました。それらの取り組みが新人の離職率が大幅に低下するという成果につながったと思います。

  

また、院内教育とは別の話になるのですが、東京女子医科大学には女性医療人キャリア形成センターという組織があり、そこに看護職キャリア開発支援部門が設けられています。私はその部門長も兼任しています。女性には特有のライフイベントがありますし、大学病院ということで様々なキャリア志向を持った看護師が集まってきます。そうした状況の中で、それぞれが望ましいキャリアを選び取れるように支援するための制度改革も行っています。

   

例えば、「育児をしながら働きたい」「介護をしながら働きたい」「大学院に進学したい」「臨床と研究の場を行き来しながら学びを深めたい」といったニーズに対しても積極的にサポートしています。また、師長に対する教育プロジェクトや、認定コース/ファーストレベルコースの研修プロジェクト、研究支援、スキルアップセミナー等の運用も看護職キャリア開発支援部門の重要な役割です。

   プロフェッショナルに聞く vol.4 東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長 白石和子さん

 

――現在、看護部長のトップマネジメントとして、取り組んでいることは何でしょうか。

   

今年度の看護部は、「看護職員が安全で安心して勤務できるよう職場環境を整え、患者の尊厳を守り支える看護の質の向上に取り組み、看護部門として病院組織に貢献する」を目的として、以下8つの目標を掲げました。

 

1.抑制の理解を深め、倫理観を育成する

2.患者安全の取り組みを行い安全な風土を醸成する

3.個人の強みを活かし目指すDreamに向けたチームつくりができる

4.多職種とともに地域との連携を発展させるいま

5.看護が見える記録・看護の記録の質向上に取り組む

6.働き方改革に取り組む

7.看護部門として病院経営に参画する

8.労働と質の看護の質向上のためのデータを病棟運営に活かす

 

その中でも、倫理観の育成、患者安全は特に重要だと思っています。

患者・家族の「いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護」の実現のために、専門分野の垣根を超えて、意識的に連携・協働し、多様な視点や知恵を統合することが求められていいます。当院独自のエキスパートナース(組織横断的に活動できる専門性の高い看護師)、認定・専門看護師・診療看護師などの看護スペシャリストとともに、各現場の中で倫理的課題・ジレンマ・意思決定支援について検討できるような土壌をつくっていきたいです。

  

また、かつて当院は、重大な医療事故を起こしてしまった事実があります。そのことを不断に反省する中で、やはり患者安全の徹底を第一に考えています。そこで、2019年から患者安全を統括する副看護部長のポストを新設し、師長・主任にも交代で患者安全推進員になってもらいました。月2回、医療安全対策の検討や情報共有や、部署の垣根を越えてラウンドし合う取り組みを導入したことにより、組織風土がだいぶ変わってきたと感じています。新しい制度を作ること自体が目的なのではなく、制度を作ることで患者安全に対する意識を変えていくことが大切です。

 

各部署で管理するのは「看護師長」ですので、看護の質保証と管理は師長のマネジメント力にかかっているといっても過言ではありません。師長の実践能力・変革推進力を更に高めるためにトップマネジメントとして関わることが最も重要だと思っています。

昨年度検討した「東京女子医科大学 看護部門 看護管理者のためのマネジメントラダー」を作成しました。本学が目指す管理者像を「至誠と愛の精神をもとに全人的ヒューマンケアの実践に向け、看護職を育みながら、組織変革を行い、自らの人間力を高められる人」と定めました。「人間力」は正直難しいのですが、「マネジメントラダー」を今年度から活用して、看護管理者として必要な能力を修得して、更にキャリアを積み重ねていくことを望んでいます。

師長たちと共にAI志向で頑張ってまいります。

   

――最後に、全国の看護管理者に向けてエールやアドバイスをお願いします。

 

結局、自分は自分でしかないので、自分らしくしかできないですよね。頭の中で思い描くことは簡単ですが、身の丈を越えたことはなかなか実現できないと思います。ただ、少し先のことを見通して目標を立てることを繰り返し、一歩一歩進んでいけば、やがて大きな距離を進むことができるはずです。看護管理者は、特に看護部長は変革者でなければならないと私は思っているので、チャレンジするスピリットだけは忘れたくないですね。

 

今年度は、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し、多くの病院で大変なご苦労をされたと思います。緊急事態宣言が解除された現在でもこの先の見通しが立っていません。共存していくことも考慮しつつ第2波の回避に向けた取り組みをしていくことが求められます。とにかく、職員と患者さんの安全を第一に考え、看護部門として出来ることを精一杯努めてまいりたいと思っています。

   

あとは、このような時期だからこそ、とにかくワクワクすることに目を向けましょう。意識的に。無理にでも。つらいことはあって当たり前ですから。それでも自分が元気にワクワクしていれば、周りの人もそうなっていくし、そうした前向きなパワーが合わされば、ピンチさえもチャンスに変えられると私は信じています。

 

プロフェッショナルに聞く vol.4 東京女子医科大学病院 副院長兼看護部長 白石和子さん

看護部長(右から2人目)と、看護部長のブレーンとなりサポートする看護副部長の皆さん

 

東京女子医科大学病院

院長:田邉 一成
看護部長(兼副院長):白石 和子
ベッド数:1,194床
看護基準:7対1
看護職員数:1,124名
(令和2年1月現在)
URL:http://www.twmu.ac.jp/info-twmu/

 

 

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