2021.02.15
5

ファシリテーション 医療機関の組織を動かす基本技術

裵英洙のマネジメントのちから~人事で悩むあなたへ~
vol.5

 

編集部より

医師で、医療機関コンサルティング会社、ハイズ株式会社代表の裵 英洙(ハイエイシュ)さんの連載「マネジメントのちから~人事で悩むあなたへ~」の第5回目。裵さんは勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感したことから、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)でMBA(経営学修士)を取得し、現在は各地の病院の経営アドバイザーとして活躍しています。病院経営で重要な「人事」を切り口に、組織マネジメントのポイントを毎月お伝えします。今回は、ハイズ株式会社人材戦略部長の岩本 修一さんによるコラムです。最近よく耳にする「ファシリテーション」という言葉。多くの職種が関わり合う病院経営においても重要視されるようになってきています。キーワードは「成果軸」と「巻き込み軸」。岩本さんが提案する3つの実践方法をもって自ら実践者となり、チームとしてのパフォーマンス向上を目指すことが、経営者・管理者としての務めと言えるようです。

 

執筆/岩本 修一(ハイズ株式会社 人材戦略部長、医師)

監修/裵 英洙

編集/メディカルサポネット編集部

組織を「管理する」から「ファシリテートする」へのシフト

人事の最も重要な役割の1つは「目標に向かって組織を動かすこと」です。従来の病院経営では、職員をいかに管理するかに重きが置かれていました。施設基準を満たすためには人員を確保する必要があり、多くの病院で「離職しないように管理、不足人員を採用で補充」が人事の基本的な考え方になっていたと思います。しかし、診療報酬はプロセスや実績にシフトしつつあり、人材においても多様な価値観や働き方が広がっている中、いかにチームとして一丸となりパフォーマンスを上げていくかの重要性が高まっています。今回は組織を動かす基本技術である「ファシリテーション」についてお伝えします。

 

 

ファシリテーションとは「ファシリテート(facilitate; 促進する)」の名詞形で、「組織による創造や変革、学習などを支援し促進させる働き、もしくはその技術」を指します。狭義では「会議運営を円滑にする技術」を指しますが、本稿では「組織運営の技術」として取り扱います。

 

ファシリテーションにおける組織を動かす際のポイントは2つあります。

【ポイント1】成果

良い結果が得られるように組織を動かす必要があります。

【ポイント2】巻き込み

組織を動かすにはメンバーの納得を得て巻き込んでいくことが不可欠です。

ファシリテーションでは「成果軸」と「巻き込み軸」の2つの軸で表し、右上の状態を目指します。(図)

 

 

読者の中には、成果があれば巻き込みはわざわざ必要ないのではないかと感じられた方もいるかもしれません。アウトカムである「成果」とプロセスである「巻き込み」を同列で扱うことに違和感を抱くのは無理もないでしょう。しかし、組織運営は短期間で終わるものではありません。「継続的に成果を出していく」ためには「巻き込みが十分になされているか」が重要であるため、ファシリテーションでは2軸構成となっています。

3つのファシリテーション実践方法

ここで、3つの実践方法についてご紹介しましょう。

 

1. メンバー把握

組織運営では、「全体としての組織」の視点と「組織の構成員である個人」の視点の両方が重要です。とくに人を巻き込むためには、個人の視点が欠かせません。これは、メンバー個々人について知ることから始まります。実際には、まず顔と名前を覚えることが大事です。声かけの際に名前で呼ぶかどうかが「巻き込み」にじわじわ効いてきます。政治家の田中角栄氏はよくフルネームで声をかけていたというのは有名な話です。フルネームの声かけが親近感を増し、田中氏の人徳につながっていたと言われています。

 

また、相手の嗜好を聞くのもオススメです。具体的には、好きなものや仕事上のこだわりポイントなどを聞きましょう。嗜好を知れば、相手に伝えるときに役に立ちます。例えば、好きなマンガを聞いたなら、そのマンガの主人公やシーンになぞらえて仕事上のフィードバックを実施できます。これは、とくに年の離れた部下と話すときに有効です。

 

2. レスポンス

部下からの報告に対してレスポンス(反応)を返していますか?経営者や管理職には多くの報告が日々舞い込むため、いちいち返していないというのが実情ではないでしょうか。口頭での報告だけでなく、メールや文書で報告される場合もあります。これらの報告にできるだけレスポンスを返していくのがファシリテーションの第一歩です。報告に対して、レスポンスがなかったらコミュニケーションは一方通行のままで終わってしまいます。レスポンスを返すことは、相手の存在を認め、話しかけてもいいという安心感を与え、自律的な行動を促進します。レスポンスの内容は簡単でかまいません。メールで「OK」と返すだけでも、すれ違いざまに「見たよ」と言うだけでもいいのです。小さなレスポンスの積み重ねが「巻き込み」を形成します。

 

3. 目標設定

目標設定はマネジャーの重要な仕事の1つです。「なかなか成果があがらない」「部下が動いてくれない」などのケースの多くで、目標が明確でない状況が見受けられます。今のチーム運営・組織運営がどのような方向に進んでいくのかを明確にし、それがメンバーに伝わらなければ成果はあがりません。目標を達成するためには、そもそも目標を明確に定義する必要があります。例えば、「5S活動(※注釈)を徹底しよう」は目標として不適切です。目標設定としては「5S活動の結果、病院がどうなるのか」を数字と文章に落とし込むのが重要です。

 

目標が明確になったら、メンバーに伝えます。1度で伝わらなければ2度3度と繰り返す必要があります。そして、ただそれを呼びかけるだけでなく、自身が実践していくのが成果への近道です。実践者を目の当たりにすると、隣の人がそれを真似します。つまり、目標設定とは「設定」するだけでなく、「周知」「実行」まで含めてセットなのです。

 

 

このように、メンバー把握とレスポンスが巻き込みを醸成し、目標設定によって成果をあげやすくなります。加えて、巻き込みが成果をあげるための原動力となり、成果があがれば達成感がうまれ、さらなる巻き込みをつくります。「成果と巻き込みの相乗効果」をめざすのがファシリテーションの醍醐味といえます。

管理職の皆さんにぜひファシリテーションを実践していただき、組織運営・チーム運営にお役立ていただければと思います。

 

※5S活動…整理(Seiri)・整頓(Seiton)・清掃(Seisou)・清潔(Seiketsu)・しつけ(Shitsuke)の5つのSを意味し、職場の環境改善の取り組みのこと

 

 

※次回は2021年3月中旬に公開予定です。

Profile

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長、慶應義塾大学 特任教授、Keio Business School 特任教授、 高知大学医学部附属病院病院長 特別補佐、高知大学医学部 客員教授、横浜市立大学医学部 客員教授。

奈良県出身。1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科に入局、金沢大学をはじめ急性期病院にて外科医・病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院 経営管理研究科(慶應ビジネススクール)に入学。首席で修了し、MBA(経営学修士)を取得。現在、ハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザーとして活躍中。 また、アカデミックの分野では慶應義塾大学 特任教授はじめ複数の客員教授を務め、病院経営に関して教鞭を取る。 さらに、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」や「医師需給分科会」の公職を歴任。日経メディカルや日経ヘルスケア等で連載を書き、発刊された書籍は通算15万部以上のベストセラーとなっている。

 

↑ back number ↑

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP