2020.12.25
5

地域に根ざすコミュニティ薬局の取り組み
(株式会社アペックス)

この薬局がすごい! 第15回「多職種協働」

この薬局がすごい!  第15回「地域密着」地域に根ざすコミュニティ薬局の取り組み 株式会社アペックス 

編集部より

第15回のテーマは、地域に根ざすコミュニティ薬局の取り組みです。東京・品川区/葛飾区を中心に展開する「株式会社アペックス」は、地域に根ざす健康サポート機能を備えた薬局を運営しています。管理栄養士の採用を積極的に行い、店頭での健康相談や、品川区からの委託事業である「高齢者栄養改善指導事業」を行うなど、先進的な取り組みを進めています。

コミュニティ薬局を目指すことになった背景、薬局における薬剤師と管理栄養士の連携について、株式会社アペックス代表取締役社長、伊藤 豊さんにお話を伺いました。

 

取材・文/竹中孝行(薬剤師/薬局支援協会理事)

撮影/穴沢 拓也(株式会社BrightEN photo)

編集・構成/吉井 光洋(薬剤師/メディカルサポネット編集部)

 

薬局に管理栄養士? 

竹中孝行さん(以下、竹中):全店舗で管理栄養士が活躍されていると伺いましたが、薬局における管理栄養士の役割はどのようなものなのでしょうか?

 

伊藤豊さん(以下、伊藤):現在、8名の管理栄養士が在籍しています。管理栄養士を雇用されている多くの薬局さんと同様に医療事務の役割を担っていた時期もありますが、せっかくの国家資格をもっと活かしてもらいたいという気持ちが強くありました。そこで、調剤薬局というビジネスモデルにうまくマッチするように、新卒・既卒に関わらず、すべての管理栄養士が登録販売者の資格を取得することで差別化を図っています。登録販売者であれば第2類以下の医薬品が販売できるため、対応の幅が広がるんです。例えば、頻繁に風邪薬を買いに来る方がいたら、体質改善につながる食事指導を。便秘薬を買いに来た方には、日頃の食事習慣を聞き改善のためのアドバイスを。というように、薬の販売をきっかけに管理栄養士の視点でその方の生活に沿った介入が可能になると考えています。

 

管理栄養士の取り組みについて語る株式会社アペックス代表取締役社長の伊藤豊さん

 

竹中:店頭以外でも管理栄養士が担っている仕事はありますか?

 

伊藤:健康イベントなども管理栄養士が年間のプログラムを考え企画しています。参加者に渡す印刷物、お土産、すべて準備しています。病気の方向け、予防したい方向けの栄養相談会や、骨密度測定などのイベントも開催しています。

フレイル予防として、理学療法士の方など外部の講師を呼ぶこともあります。今後は、近隣のマッサージ屋さんなどとコラボして地域との連携を深めていきたいですね。

 

また、栄養⼠通信「からだ*ラボ」という便りを毎月作っており、ホームページに掲載したり、店頭で待ち時間に読んでもらったり、必要な患者さんには配布もしています。

5年ほど前からは品川区の協力のもと、高齢者栄養改善指導もスタートしました。

 

竹中:「高齢者栄養改善指導」とはどういったものなのでしょうか?

 

伊藤:ケアマネージャーによって介護予防の支援が必要と判定された高齢者に対して、管理栄養士が自宅に訪問し、カロリー計算の仕方や献立作成、病状や血液検査データなどに合わせた食事改善の提案など、フレイルを予防するための指導を行う事業です。

薬剤師の在宅訪問と同様に、医療機関に属している管理栄養士が訪問する際は居宅療養管理指導が算定できますが、薬局に所属している場合、通常は算定できません。ところが品川区では、区議会での議論を経て「介護予防・日常生活支援総合事業の管理栄養士派遣による栄養改善事業」の予算を確保してくださっています。まだまだ小規模ですが、実績を積み重ねて、いずれこの事業が区民にとって必要なものだと示していくことができれば、おのずと予算はついてくると考えています。

今後この事業が、医療・介護保険における薬局管理栄養士の訪問栄養指導料に結び付けば、管理栄養士の仕事の場も増えるのではないでしょうか。

  

 

地域密着型薬局の土台はクリニック経営から 

竹中:品川区に多くの店舗を展開していらっしゃいますが、どのような経緯で薬局をスタートされたのですか?

 

品川区の青横ファーマシー薬局
創業当初から薬局の可能性を創造し続け、地域に根ざしている

 

伊藤:もともとは、1980(昭和55)年に医師4名と東品川でクリニックの経営を始めたことがスタートです。医療法人への移行のタイミングでクリニックと薬局を分業させる話があがり、1986(昭和61)年に調剤薬局として新たにスタートしました。患者さんの顔と薬が大体把握できていたので、スムーズに分業は進みました。

 

竹中:どのような理念やビジョンをもとにこれまで歩んでこられましたか?

 

伊藤:創業時から「薬局の可能性を創造する」という理念を掲げてきました。

門前型の調剤薬局を4店舗開設した後、医師の顧客に頼らず、薬局として地域に貢献するべく、門前を持たない自分たちの顧客を持つ「地域密着型の薬局」で理念を遂行しようと思いました。

 

竹中:門前処方医を持たない地域密着型の薬局は順調に浸透したのでしょうか?

 

伊藤:地域の人が往来してもなかなか集客が難しかったですね。30坪でやりまして、経済バブル最終期で保証金や家賃も高く、1日10-20枚の処方箋じゃどうしようもなかったです。顧客を獲得するために、美容系の商品を増やしたり、小児のミルクや紙おむつ、食器洗剤なども置いて…今のコンビニのスタイルで日曜日も営業して、そこに調剤薬局の機能もあるというイメージです。

赤字続きで疲れ果て、非常にパワーを使いましたが、徐々に地元に浸透して少しずつ伸びていき、現在までなんとか運営しています(笑)

 

竹中:まさに今求められている地域に根ざす薬局のカタチですね。

 

伊藤:そうですね。結果的には、健康サポート薬局の届け出もスムーズに進み、昨年開業した南品川薬局を除いて全店で受理されました。地域密着型は、処方箋だけでなく、あらゆる相談に応じられるような機能が必要です。創業から追い求めてきた地域密着型の薬局像が、今の健康サポート薬局に結びついていますね。

 

 

薬学生の関心を高めるインターンシップ 

竹中:インターンシップにおいても興味深い取り組みをされています。

 

伊藤「在宅」「コラボ」「OTC」、3つのテーマに分けて進めています。

在宅医療は多くの学生が関心を寄せており、実際に薬剤師と同行し、患者さんやご家族・多職種との関わりを通して、在宅医療における薬剤師の価値や意義を理解する機会となっています。

また、「コラボについて学びたい」と実習への意気込みを話す学生も増えています。「コラボ」と一言で言っても実践することは容易ではありませんから、店舗で薬剤師と管理栄養士がどのような視点をもって話し合っているか、患者さんに接しているかを見ることで、コラボレーションを具体的にイメージできるようになった学生も多いようです。薬局に管理栄養士がいるメリットを理解した上で、それぞれの現場に進んでもらいたいですね。

OTCについては、取り扱っている調剤薬局で実習しなければ学べないことですから、貴重な経験といえます。OTCは、基礎疾患によっては服用前に薬剤師に相談することが必要なものもあり、薬剤師は検査データや背景を把握しづらい限られた環境下でも適切なアドバイスができるスキルが求められます。例えば皮膚疾患での相談には、実際に患部を見せてもらって判断することが大切であるなど、学生たちにはより実戦的なことを伝えています。

 

店舗内で打ち合わせを行う管理栄養士(左)と薬剤師(右)

  

竹中:とても内容の濃いインターンシップですね。最後に、今後目指す薬局像について教えてください。

 

伊藤:調剤が主体の薬局で薬を受け取ることは、人生においてのワンシーンでしかなく、健康で過ごす期間の方がずっと長いといえます。ですが誰しも体調を崩すときがある。そんなときに薬局で対応できるようにするためには、健康に関するすべての機能を模索していかなければ健康サポート薬局とはいえません。

今後も、「薬局の可能性を創造する」という理念を大切に、品川区より高齢者栄養改善事業の委託を受けたように、行政としっかり手を結びながら歩んでいくことも必要だと思っています。新たな薬局の可能性を提案しながら事業化していきたいと思います。

 

薬剤師ライター、竹中孝行さん(左)と伊藤代表

アペックスロゴ

株式会社アペックス

所在地:東京都品川区東品川3-18-3
TEL:03-3472-2562
URL:http://www.apx.co.jp/index.html

薬剤師の伊藤代表が、1986年9月にクリニックから独立し創業。現在は品川区・葛飾区に計8店舗を展開している。「薬局の可能性を創造する」という理念のもと、全店舗に管理栄養士を配置するなど、薬局として健康のために貢献できることを模索しつづけ、地域に根ざした薬局づくりを行っている。

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

薬剤師。薬局事業、介護事業、美容事業を手掛ける「株式会社バンブー」代表。「みんなが選ぶ薬局アワード」を主催する薬局支援協会の代表理事。薬剤師、経営者をしながらライターとしても長年活動している。
◆取材を終えて

管理栄養士を採用する薬局は増えてきてはいるものの、まだまだ活用できていない現状もあると感じていました。そんな中で、伊藤さんの会社の管理栄養士の方は、行政との連携の中で、在宅における栄養指導を行っていたり、登録販売者の資格を取り、店頭での食事指導に結びつけているというような取り組みにとても驚きました。

本来の意味での、理想の健康サポート薬局を先駆的に運営されており、とても刺激を受けました。


 

メディカルサポネット編集部

(取材日/2020年11月13日)

 

 

この薬局がすごい!-選ばれる理由と成功のヒントー

 

 

BACK

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP