2020.07.07
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コロナ禍で発揮!介護の地域資源の”見える化“サイトの効果
(ミルモネット)

【医療テックPlus】第11回/株式会社ウェルモ

介護の課題をテクノロジーで解決する株式会社ウェルモは、介護の地域資源情報を一元化し“見える化”する介護サービスプラットフォーム「ミルモネット」を展開する他、ケアプラン作成支援AIシステム「ケアプランアシスタント」も開発中で注目を集めています。同社の鹿野佑介代表取締役CEOは「介護は大切な分野なのに課題が多い。すぐに改善を図るべきだ」と考え、ITコンサルタントを辞めて2013年に起業しました。同社が提供するサービスは、介護現場が混乱に陥ったコロナ禍においても介護サービス事業所間のスムーズな連携に大きく貢献しています。躍進する鹿野CEOにサービスの原点と展望を聞きました。
 
取材・文/秋山健一郎
写真/山本 未紗子(株式会社ブライトンフォト)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

【 医療テックPlus+】第6回 「腰用パワードウェア『ATOUN MODEL Y』」 株式会社ATOUN

 

    新型コロナウイルス感染症の拡大で、各地の介護サービス事業所やケアマネジャーは、事業所の閉鎖や運営内容の変更、利用者の通いの自粛、それによる代替サービスの検討など、さまざまな対応に追われました。介護業界の課題の一つを情報の属人性と捉え、介護の地域資源情報を“見える化”するサイト「ミルモネット」を展開してきたウェルモは、6月から自治体へのオンライン導入支援を始めました。4月に「ミルモネット」を導入したつくば市では、行政やケアマネジャーが各事業所の状況を効率的に把握でき、地域一体となって混乱を乗り切ることができたそうです。刻々と状況が変わる緊急事態下に改めて効果の大きさが表れました。

     

    鹿野:感染症拡大など有事の際に地域の介護事業所の状況を把握し利用者への継続的なサービス提供につなげるために「ミルモネット」が活用できるのでは、といくつかの自治体から問い合わせをいただいています。つくば市では実際に良い効果があったということを伺い、長年かけて介護の地域資源を“見える化”してきたことが社会貢献につながり、うれしく感じています。

     

    メディカルサポネットのインタビューに応じるウェルモの鹿野CEO

       「介護の地域資源の”見える化”で社会貢献できてうれしい」と話す株式会社ウェルモの鹿野佑介代表取締役CEO

     

    紙や頭の中にあった「介護の地域資源情報」を一元化し検索を可能に 

    「ミルモネット」のようなサービスはどのようにして生まれたのでしょうか。鹿野CEOは会社設立前、介護現場の現実を知ろうと8カ月にわたって全国約400法人の介護事業所をボランティアやインタビューのため訪問しました。ときには現場で働く人とお酒を酌み交わし、思いを聞く日々。ITやAI(人工知能)など高度な技術を駆使しつつ、現場の感覚も大切にするウェルモの風土はこの時期につくられました。

     

    ――介護ビジネスへの参入は、どのような経緯で決めたのですか?

     

    鹿野ウェルモを立ち上げる前は、人事系のITコンサルタントとして、一部の人の頑張りでなんとか回っているような職場を改善するためのIT活用法の提案などをしていました。そのときに知った介護業界の状況は、人事機能が弱く離職率も高く、他にもさまざまな問題を抱えていました。社会の高齢化が進んでいくことを考えれば優先的に改善を図るべきなのに、そうなっていない。なぜ政策と現場が乖離しているんだろうと思ったんです。

       

    ――起業を志してからの動き出しはどのようなものだったのですか?

     

    鹿野:起業前年の2012年、ある老人ホームの1年間の離職率が62%だったというデータを目にしたんです。どういう環境ならそうなるのか想像もできませんでした。ならば見に行くしかないだろうと、仙台、東京、大阪、福岡など都市部の介護施設を回りました。すると、本や厚生労働省の資料からは分からなかった介護現場の実態が見えてきました。

     

    フリーアドレスのオフィスで話すウェルモの鹿野CEOと社員

    ウェルモの東京オフィスはフリーアドレス制。鹿野CEOの席でそのまま打ち合わせが始まることも。 

     

    ――特に気になったのはどのようなところですか?

     

    鹿野:人員配置の基準の非効率性です。例えば、深夜のスタッフ配置はIT化で負荷を減らせる部分があると感じました。それと職員の人間関係です。「介護の仕事がしたい」と強く願って入って来る人もいればそうでない人もいて組織のマネジメントが難しく、トラブルが起きがちでした。IT導入も新しいことに取り組む組織全体のモチベーションがなければ前に進みません。働いている人の職歴もさまざまで、業務にルールを設けて効率化、標準化しようとしても、簡単にはいかないだろうという印象を受けました。

     

    ――そういった現場でのリサーチという助走を経て、2013年にウェルモを設立されました。

     

    鹿野:最初に手掛けたのが先ほどお話した「ミルモネット」というケアマネジャー向けの情報プラットフォームです。当時、介護サービスの情報はほとんどがチラシやFAXのような紙、もしくは人の頭の中にあるという状況で、検索ができないという課題がありました。介護保険サービスの利用者は、情報を持ったケアマネジャーに出会えるかどうかで、受けられるサービスの質に大きな差が出ていました。分散された情報をデジタルで集約し、“見える化”して検索できるようにすれば、利用者にとってより良い介護を実現できると思いました。

     

    ――ミルモは「福岡市近郊」というエリアに絞って始めたそうですね。

      

    鹿野:福岡には新しいものを受け入れる文化があるとボランティアを通じて知ったので、知り合いもいない福岡に引っ越して「ミルモネット」をつくり始めました。「ミルモネット」はデータベースなので、網羅性が重要です。地域にある「全施設の2/3を掲載する」ことを目標にしていたので、当時は「福岡市近郊」が範囲としては限界でした。ケアマネジャーの仕事には公平性が求められるので、「あの施設は載っているけれど、この施設は載っていない」といった偏りのあるデータベースでは使えません。掲載する施設を増やすために、選挙活動のように毎日自転車で施設を巡って説明を続けました。中にはITに好感を持っていない方や苦手意識がある方もいて……どうにか理解してもらおうと必死でしたね。

      

    地域の介護資源見える化サイト「ミルモネット」の冊子版

    冊子版の「ミルモネット」を作成したことで高齢のケアマネジャーにも認知が広がったという

        

    AIは「拡張知能」として人間の仕事をサポート

    地道な活動が実を結び、ケアマネジャーが介護の地域資源情報にリーチできる情報プラットフォームをつくることに成功したウェルモ。次に挑んだのは、AIを活用した業務改善でした。ただ、鹿野CEOは「目指すのは自動化ではなく、あくまで人間と協働するタイプのAI」と言います。

      

    ――福岡で成果が出て「ミルモネット」は全国に拡がっていますね。成功事例を得ると、その他の地域での導入もスムーズに進みそうですね。

     

    鹿野:そうでもないんですよね。過去の実績があれば、話は聞いてもらいやすくなりますが、反応はさまざまで、地域に合わせた説明が必要でした。自治体の協力を得ながら、じわりじわりと認知を拡げ、情報の網羅性を高めていった感じです。ただ、タイミングには恵まれて、私たちが「ミルモネット」を立ち上げたころからスマートフォンが急速に普及していったんです。根強い紙文化があった介護現場にもインターネットが入り込むようになり、「ミルモネット」の利便性を理解してもらいやすくなりました。

     

    ――その後、ケアプラン作成を支援するAIシステム「ケアプランアシスタント」の開発に着手することに。

      

    鹿野:ウェルモ設立当初から、介護現場を効率化するためにはAI、人工知能の導入が必要だと考えていました。「ケアプランアシスタント」は「ミルモネット」を立ち上げて3年目にあたる2016年から研究開発をスタートし、ケアマネジャーら介護に関わる多くの方々の意見を聞きながらつくりあげました。単なるケアプランの自動作成ではなく、AIの支援を得ながらケアマネジャー自身がケアプランを作り上げていけるところがポイントです。ケアプランのニーズや目標、サービス内容などを具体的に文章で提案しています。

     

    「ケアプランアシスタント」について話すウェルモの鹿野CEO

    2020年秋にはケアプラン作成業務支援AIシステム「ケアプランアシスタント」をリリース予定だという  

     

    ――実用的ですね。複雑なケアプラン作成に追われるケアマネジャーの負荷は、大きく下がりそうです。

     

    鹿野:介護現場でバリバリ働き、介護そのものや人間関係づくりで高い能力を発揮してきた方がケアマネジャーになるケースはよくあります。でも、ケアマネジャーになったとたん、医療・看護・リハビリテーション・法律など多面的な知識を使って課題分析を行い、その方に適したサービスや事業所を探す……という作業をしなければいけなくなります。これは、営業担当者が突然エンジニアになるくらいの変化です。私たちは、そんなケアマネジャーたちにかかる負荷と属人性をAIの力で緩和したいと考えています。ケアプラン作成は性質上、全自動化は難しく、ある程度は人の力が必要です。ですから、私たちが目指すAIは「人工知能(Artificial Intelligence)」というよりは、「拡張知能(Augmented Intelligence)」なんです。人間と協働し、人間が得意分野の作業に集中するためのサポートをするものだと思っています。

     

    ――活用したい人は多いと思いますが、いつ頃リリースされるのでしょうか?

     

    鹿野:今年の秋ごろに正式リリースの予定です。2018年にはプロトタイプを作成して現場ニーズがあることを確認し、2019年には自治体の協力を得て大規模な実証実験を行い、好評価をいただきました。介護のIT化は厚生労働省も本腰を入れているので、ここからの数年で革新的に進むでしょう。介護業界は規制産業なので、国が変われば現場も変わります。技術はすでにさまざまなものも出てきているので、状況が整っていけばIT化は必ず実現できます。それだけでも介護現場の労働生産性は大きく変わるはずです。昨年12月に厚生労働省の事業の一環(令和元年度厚生労働省老人保健健康増進等事業)で「ケアプランアシスタント」の実証実験会を行ったところ、新任ケアマネジャーの基礎力の底上げ、業務効率化、ケアマネジメントの質の向上の効果が見られ、ケアプラン第二表の原案作成時間は約40%短縮したという結果が出ました。

     

     

    テクノロジーを突き詰める。個人の頑張りを求めるのはそれから

    介護現場へのAIの投入のメドが立ち、ウェルモは次の挑戦へ目を向けています。「苦手をカバーするAI活用」から「加点を意識したAI活用」へ。さらなる技術の向上で介護現場の意欲を高め、イノベーションを加速させるサービスを目指します。

     

    ――これからの展望を聞かせてください。

      

    鹿野:ウェルモにはフィンランドに研究開発拠点があるのですが、現地で介護施設を経営する70~80歳くらいの元気な女性に出会いました。彼女はスタンディングデスクでMacのキーボードを叩き、利用者に何かトラブルが起こるとセンサーが検知してアラートが鳴るシステムを組んで、「これ便利なのよ」なんて言うんです。勤怠システムも指紋認証。テック系のベンチャー企業のようで、介護業界もここまでいけるのかと驚きました。彼女を見習って、まずはテクノロジーを目一杯までプッシュする。個人の頑張りを求めるのはそれから。介護業界が根性論からそういう考え方に変わるために力を尽くしたいです。今年度は、新たな事業の取組みも進みそうです。東京電力パワーグリッド様との協働事業では、どの家庭にもある分電盤にAIを組み込むことで、家電ごとの利用状況が解析できる技術を応用。独居高齢者の生活リズムを推定することで、モニタリングデータに基づいたケアマネジメントを支援するサービスについて、自治体の協力を得て実証事業を行う予定です。ケアプランの作成から介護事業所の選定、さらにはモニタリングまで、ケアマネジメントのサイクル全体に関わりたいと思っています。

     

    会社エントランスに立つウェルモの鹿野CEO

     

    数年を要したプロジェクトにようやくメドがたったタイミングであるにもかかわらず、今後の話を聞くと次々にアイデアを語ってくださった鹿野CEO。IT化の難易度が高い介護業界に臆せず飛び込み、現場の空気を感じながらヴィジョンを実現させてきたイノベーターの言葉には、頼もしさを感じました。

     

    株式会社ウェルモのロゴ

    株式会社ウェルモ

    住所:東京都千代⽥区内幸町1-1-6 NTT日比谷ビル4F(東京本社)
    URL:https://welmo.co.jp/

    人事系ITコンサルタントなどのキャリアを持つ鹿野佑介代表取締役CEOが2013年4月に設立。介護の地域資源情報を集約するプラットフォーム「ミルモネット」、ケアプラン作成支援AI「ケアプランアシスタント」など高齢者介護関連サービスのほか、障害児童教育事業として児童発達支援・放課後等デイサービス「UNICO(ユニコ)」も展開。「利用者本位と正当に評価される福祉業界の実現」をテーマに掲げ業界内外から注目を集めている。鹿野CEOはForbes JAPANが 2018に発表した「NEW INNOVATOR 日本の担い手99」にも選出。

    メディカルサポネット編集部(取材日/2020年6月19日)

     

     

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