2019.07.26
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排尿リズムを可視化 個別ケアを可能に(DFree)

【 医療テックPlus+】
第5回/トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社

超音波を用いて膀胱(ぼうこう)の膨らみを捉え、排尿リズムを”見える化”して排尿のタイミングを通知する装置として話題を集める「DFree(ディー・フリー)」。おむつを意味する“Diaper”の頭文字と自由や解放を意味する“Free”を組み合わせて命名された製品のこと、そしてビジネスの現在と展望について、同社の広報マネージャー・上堀宇花さんと、理学療法士としての経験を持つ営業担当・菅原千佳さんに聞きました。

取材・文/秋山健一郎
撮影/榎本壮三
編集・構成/メディカルサポネット編集部

 

    排尿リズムを可視化 個別ケアを可能に 

    膀胱の状態をモニタリングして、スマートフォンなどにインストールしたアプリーケーションを通じて排尿のタイミングを通知する―。「DFree」は、世界中の誰もが「あったら便利だ」と思いながら実現されていなかったシステムと言えるでしょう。需要の高さは2017年のサービス開始以来、国内外で増え続けている利用者の多彩さが物語っています。

     

    小さくて軽い「DFree」。直感的に使えるデザイン

     

    ――DFreeは、現在どのような方々が利用されているのでしょうか?

     

    上堀宇花さん(以下、上堀)排尿のお悩みを抱えているご本人様やそのご家族の方々です。法人では、介護施設や障害者支援施設などが多いですね。尿のたまり具合を可視化することで適切なタイミングでのトイレ誘導や、排尿後すぐのオムツ交換ができるようになります。介護施設の排泄ケアは、決まった時刻に一斉に行うのがほとんどですが、「DFree」をお使いいただくと、それぞれの方の膀胱がどんな状況か把握できるので、例えば「○○さんは80%になったから」と個別にトイレへ誘導できるようになります。

     

    「尿のたまり具合を可視化することで、個別のトイレ誘導ができます」と話す上堀さん(左)

     

    菅原千佳さん(以下、菅原):意思疎通の難しい障害をお持ちでおむつが手放せなかった方に「DFree」を装着していただき、膀胱が膨らんできたタイミングで尿瓶を当ててみたところ、排尿ができたケースもありました。これまではおむつにするのが当たり前だったのが尿瓶でできるようになり、「自分でできることが増えた」と担当されていた職員の方やご家族は感動していました。

     

    「病院ではリハビリトレーニングをスムーズにすることに役立っています」と語る菅原さん(右)

     

    菅原:最近では、病院での導入も増えています。けがや病気で一時的に排尿障害が起きている方のリハビリで活用していただいています。トイレ動作ができるかどうかは、退院し、自宅療養できるかどうかのポイントになることも多いのですが、「DFree」で排尿リズムの”見える化”ができることでリハビリトレーニングがスムーズになります。医師や看護師、リハビリスタッフの間で、そもそものリハビリへのアプローチをどのようにすべきかの議論が活発になったという報告もありました。

     

    ――介護や障害者支援、リハビリといった場面で活用されているんですね。他にはどんな利用がされているのですか?

     

    上堀いわゆるアクティブシニアの方々にも使われ始めています。元気で活発な生活を送っているシニア世代の中には、尿漏れや頻尿に悩んでいる方も少なくありません。「DFree」を使うことで失禁の心配が減り、安心して外出できているといった声が届いています。実はこのようなニーズはシニアに限ったことではありません。女性は出産後や30代から尿漏れに悩む方が現れはじめ、40〜50代では3割前後の方に尿漏れがあるというデータもあります。排せつ機能の低下を予防するために「DFree」を使っていただき、より幅広い年代の方々の生活のサポートツールとしても広がっていくといいなと思っています。

     

    菅原:実際、泌尿器科などに行ってもどこにも異常の見つからない心因性の頻尿に悩んでいた方が、「DFree」をお守り代わりに使ってくださり、以前よりもリラックスして暮らせるようになったと聞いて、うれしくなりました。

     

    創業のきっかけはCEO自身の失禁経験

    日常生活における「排泄予測」のニーズに着目した背景には、トリプル・ダブリュー・ジャパンの創業者で、代表取締役CEOを務める中西敦士氏の実体験に基づくものがあるといいます。

     

    ――中西代表がこの事業に取り組むきっかけになったのも、個人的な失禁経験だったとか……?

     

    創業のきっかけとなったエピソードを語り「本当なんですよ」と笑う上堀さん

     

    上堀:この話はいろいろなところでお話しさせていただいており、「本当ですか?」と聞かれることもあるんですが、本当にそうなんです(笑)。中西がアメリカのカルフォルニア大学バークレー校に留学しながら、起業を目指してベンチャーキャピタルでインターンなどをしていた2013年、引越しの前日に、若者らしいノリでキムチや鷹の爪などをたくさん入れた激辛鍋を作って食べたらしいんです。翌日、大きな荷物を運んで両手がふさがっている道中で突然もよおしたそうで…。中西は明るく前向きな性格なのですが、さすがにしばらくは落ち込んで外出するのが怖くなったそうです。同時期に、日本で大人用のおむつ市場が子ども用のおむつ市場を上回ったというニュースに触れ、排泄で悩む人が多いことに気づきます。その経験から「漏らさない世界を作りたい」と「DFree」を着想しました。起業を目指す上での“タネ”はほかにもいくつかあったのですが、ベンチャーキャピタルの方に意見を聞いたりする中で、排泄予測は最も独創的だと評価も高く、このアイデアにチャレンジすることに決めたそうです。

     

    ――開発の道のりでは苦労もたくさんあったのでしょうね。

     

    上堀:はい。さまざまなアイデアを検討していく中で、「胎内検診などでも使われる超音波なら体への影響も小さく、体内の様子を見れるのではないか」と現在の方向性に近づいていきました。しかし、中西自身は文系なので、中西の中学・高校の同級生で医療機器メーカーの研究開発職を経験していた正森良輔らに声をかけ、開発を始めました。正森は現在も当社の開発責任者です。ただ、超音波で排泄のタイミングを予測するという研究は誰もやったことがなく、ゼロから手探りでまさに体を張った開発でした。また、当初は尿と便の排泄予測を目指していたのですが、開発のスピードや困っている方のニーズの大きさを鑑みて、まずは排尿の予測に絞る経営判断をしました。

     

    ――その後、法人化、資金調達などを経てサービス開始へと進んでいきました。

     

    上堀:2014年5月にアメリカで創業し、2015年2月に日本に本社を移しました。ハードウェアの開発ということでモノがない中での資金調達は苦労しましたが、2017年4月に介護施設向けの「DFree」のサービスを開始。2018年7月からは、個人向けの販売も開始しています。当初は個人向けの事業をメインにイメージしていたのですが、開発段階に介護施設から多くの問い合わせをいただき、ニーズの高いほうから進めていこうということで施設向けのサービスを先行しました。

     

    ――施設向けと個人向けでは、製品サービスに異なる部分はあるのですか?

     

    現在は個人向けと法人向けの2種類を展開している

     

    菅原:「DFree」本体そのものは同じで、提供するアプリケーションが異なります。「Professional(プロフェッショナル)」という名称にしている施設向けのサービスは多くの人数のデータを管理でき、詳しいデータが閲覧できます。一方で、「Personal(パーソナル)」という名称の個人向けは表示される情報を絞った比較的シンプルなつくりになっています。また、施設向けは本体がレンタルで個人向けは買い切りという点も異なる部分です。「Professional」では、アプリを入れた端末と、「DFree」を装着した利用者が離れても通信できるように、施設内に設置する中継機も納品しています。

      

    排泄機能の課題は人類共通 海外でも高まる存在感

     国内サービスとほぼ同じタイミングで海外展開もスタートしていることもまた、「DFree」の特色と言えるでしょう。2018年9月にアメリカで、11月にフランスでサービスを開始しています。

      

    ――排泄に対するイメージにはお国柄が表れそうです。また、世界に目を向けたとき競合サービスなどはないのでしょうか?

     

    上堀:加齢に伴って排尿機能に課題が出てくるのは人類共通なので、その点で私たちのサービスの価値を理解していただきやすいと感じています。介護事業は地域によって状況は異なります。例えばヨーロッパの介護事業はM&Aが進み、いくつかの大規模な法人が多くの施設を運営している状況にあります。各社がサービスの質で差別化を図り価値を上げていきたいと競争も激しいです。そういった中で、「DFree」の可能性を評価いただけているようです。競合については、「身につけるタイプ」で「事前に予測する」というものでは今のところありません。

     

    テクノロジーによって目指すのは「その人がその人らしく暮らせる世の中」だという

     

    ――海外でも大きなアドバンテージがありそうですね。最後になりましたが、御社がこれから目指す姿をお教えください。

     

    上堀:当社は「バイタルテクノロジーで “Live Your Life” を実現する」をビジョンとして掲げています。テクノロジーによって生体情報を見える化することで、不測の不幸をなくし、その人がその人らしく暮らすことができる世の中づくりをしていきたいと思います。

      

    ユニークなエピソードで始まったビジネス。かわいくポップなデザインの「DFree」を実際に見ていると忘れてしまいそうになるが、ほぼゼロの状態からアイデアを実現に導き世界にインパクトを与える存在となるポジションに到達するまでには、強い意志と多くのエネルギーが必要だったに違いありません。介護を、そしてさらに広く私たちの日常生活の質を直接的に変えていくお手本のようなイノベーション。トリプル・ダブリュー・ジャパンの今後に注目したいと思います。

      

    トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社

    住所:東京都千代田区有楽町1-5-2 東宝ツインタワービル3階

    URL:https://www-biz.co/

    代表取締役の中西敦士氏が自身の失禁経験をきっかけに「排泄予測」を可能にする機器の開発を目指し、2014年にアメリカで創業。その後、ゼロからの製品開発やクラウドファンディングなどによる資金調達を経て、2017年に「DFree」の名称でサービスを開始。現在はアメリカとフランスにも法人を立ち上げ、社員は約40人。

    メディカルサポネット編集部 (取材日/2019年6月20日)

     

     

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