働き手世代が直面する ダブルケアの現状と課題

 

編集部より

「ナーシングビジネス」2023年vol.17 no.5より抜粋。働き手世代が直面するダブルケアの現状と課題』をご紹介します。

 

相馬直子(そうまなおこ)

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 国際社会科学部門 教授

日韓を中心とした東アジアの家族政策やケアの比較研究に従事。著書に『ひとりでやらない 育児・介護のダブルケア』(山下順子氏と共著、ポプラ社)がある。

看護管理者世代は、育児や介護と仕事との両立を求められることが多い世代です。さらに育児と介護の両方を担う「ダブルケア」に直面することも少なくありません。本稿ではダブルケアの現状にスポットを当てて解説します。

目次

  1. ダブルケアとは
  2. ダブルケアと仕事との両立

 

ダブルケアとは

 ここ数年、新型コロナウイルス感染拡大の中で、子育てや介護といったケアの負担が家族に集中し、仕事にも大きな影響が出てくるようになりました。ケアが家族頼みになる社会構造を問い直し、社会全体でケア負担を分かち合うことの大切さを、ウィズコロナ時代において考えずにはいられません。

 

 そのような中、医療専門職によって2021年2月2日に育児と介護とを同時に行うダブルケアなどを支援する団体「DC NETWORK」が立ち上がりました。いま、ダブルケアをめぐる活動が広がってきています(後述)。ダブルケアとは、育児と介護の同時進行を意味します(狭義のダブルケア)。しかし実際は3つ以上のケアが重なっていたり、家族や親族のほかに親しい関係の人や自分も含め複数ケアしているなど、「多重ケア」や「複合ケア」という意味でダブルケアと呼ぶことも多いです(広義のダブルケア)。つまり「100人のダブルケアラーがいれば、100通りのダブルケアがある」といえます。

 

 このようにダブルケアとは、①育児と介護、もしくは家族や親族など親密な人へのケアが同時並行する ②複数のケアに関わるマネジメントや決断、精神的・物理的・経済的サポート、異なるニーズが重なりそれを同時に満たす必要が生じる ③ケア責任や負担が特定の人に理不尽に集中してしまうことを問う概念です。

 

 ダブルケアラーは日々、複数のケアの中で何を優先させるかの決断に迫られています。「泣く子どもをあやすのか、不安になっている親の話に耳を傾けるのか」「どちらに先に食事を出すのか」「お風呂の順番はどうするか」「検診か、通院か」「“散歩”に出てしまった親を探しにいくのか、家で子どもと待っているのか」「週末を子どもと過ごすのか、親のところに行って掃除や食料の買い出しを手伝うのか」。ダブルケアをする人の多くが、どちらかを優先しながら選ばなかった一方に対して「十分に世話をできなかった」と悔やむ気持ちをもっていることは、筆者らのインタビュー調査でも明らかになってきました。

 

 長い人生の中で、私たちのケアのバランスはいつも均衡点にあるとは限りません。なんとか踏みとどまりながら生活していたり、崩れる寸前であったりすることも少なくありません。では、ダブルケアの均衡やバランスが崩れたとき、社会にはどのような支援があるのでしょうか。ダブルケア支援の核は、専門分野を越えて多職種が連携しながらダブルケアラーと一緒に伴走していくことだといえます。ダブルケアの均衡やバランスが崩れることを最小限にしたり予防するということも大事なのかもしれません。しかしより重要なことは、バランスが崩れてしまっても、身近に頼れる人がいて、頼れる場所があると当事者が思えることだと考えます。

 

ダブルケアと仕事との両立  

❶ダブルケアラーにとっての「仕事」とは

 2016年内閣府ダブルケア実態調査1)からも、就業継続を妨げる原因の一つにダブルケアがあることがわかります。育児離職、介護離職の中には事実上のダブルケア離職も含まれています。しかし、仕事をしていることが日々の精神的なバランスを保つために重要だという人も少なくありません。「仕事が逃げ場になる」という方も多いのです。「逃げ場」になるとは、ダブルケアラーにとって育児・介護から離れて活動する時間と場所の確保がいかに重要かということを示しています。もちろん仕事・育児・介護のすべてを同時に行うのは体力的にもハードですし責任も重なるため容易なことではありません。

 

 しかし前述の調査からは、支援をうまく利用して仕事を継続できることがダブルケアラーの精神的な支えになることがわかっています。ダブルケアをするにも経済的な基盤が大事です。ダブルケアをしながら働くことは非常に大変ですが、ダブルケアラーの精神面を支え、家計を支えることにもつながるのです。

 

 これまでの社会の変化を振り返ると、まず、「子育て」と「仕事」の両立が問われてきました。そして次に「介護」と「仕事」の両立が問題となってきました。現在は「ダブルケア」と「仕事」の両立が問われる時代です。実際、筆者らのダブルケアに関する調査2)(2017)でも、ダブルケア当事者(現在と過去にダブルケアを経験した人)に「ダブルケアで何を負担に感じるか」を尋ねたところ、「精神的にしんどい」「体力的にしんどい」の次に「仕事との両立」を挙げた人が約4割いました。

 

❷ダブルケアと仕事との両立ポイント

 では、ダブルケアをしながら自分の身を守りつつ仕事を続けるにはどうしたらよいのでしょうか。これまでの調査からは、ダブルケアに直面する職員にとって働きやすい職場にするための取り組みが各所で行われていることが明らかになっています。

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