2023.01.16
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2022年10月に施行された改正職業安定法(職安法)のポイントとは?

  

 

編集部より

2022年10月1日に、企業が労働者を募集する際のルールなどを定めた「職業安定法(職安法)」の改正法が施行されました。

改正法では、主に求職者が安心して求職活動をできるようにするための環境整備と、マッチング機能の質の向上を目的として、新たな規制の創設や規制強化が行われています。ルールに違反すると罰則の対象となってしまうので、求人を出す事業者としても、何がどう変わったのか知っておくのは大切です。ここでは、職安法の基本と、今回の法改正で変更になったポイントについて解説します。

 

編集/メディカルサポネット編集部

 

 

職業安定法とは職業紹介事業の適正な運営のために定められた法律

職業安定法(職安法)とは労働市場の基本的なルールを定めた法律で、求職者それぞれの能力に適した職業に就く機会を確保し、職業の安定を図ることで経済・社会の発展させていくことを求めています。

「職業紹介」「労働者募集」「労働者供給」に関する定めがあり、これらの事業の適正な運営を確保することで、労働者と産業の適切なマッチングを促すことなどを目的としています。

   

・職業紹介

職業紹介とは、求人者と求職者の雇用関係成立を斡旋することです。公共職業安定所などの職業安定機関、地方公共団体、および民間事業者が職業紹介を行う上でのルールを定めています。

    

・労働者募集

求人情報を掲載するメディアや求人企業が労働者を募集する際に明示しなければいけない項目など、労働者の募集に関して守るべきルールを定めています。

   

・労働者供給

労働者供給とは、契約に基づき、労働者を他人・他社の指揮命令を受けて労働に従事させることを指します。労働者供給を行う事業者が守るべきルールを定めています。

    

2022年10月施行の職業安定法改定のポイント

近年は、インターネットを活用した求人活動・転就職活動の普及により、求人メディアにも、従来は見られなかったアグリゲーションサイト(いわゆるまとめサイト)のような形式が登場しています。

また、多くの産業において慢性的な人手不足が発生しているため、労働市場では職業安定機関と民間の雇用仲介会社が連携することで、需給バランスの調整を図っていくことが、強く求められるようになっています。

2022年10月の職業安定法(職安法)の施行は、このような背景を踏まえて実施されたものです。法改正により大きく変わったポイントは、次の2つとなります。

       

新たな形態の求人メディアに対して規制がなされた

従来の求人メディアは、企業から依頼を受けてウェブや雑誌に求人情報を掲載するものがほとんどでした。

しかし最近では、SNSでのみ情報を発信したり、企業や求職者から直接依頼を受けず、ウェブ上で収集した情報をまとめる形式で運営したりするものも登場。旧職安法では、このような新形式のメディアは求人メディアにあたらず、規制の対象外でした。

改正職安法では、求人メディアの定義が拡大され、このような新形態のメディアも「求人メディア」扱いとなり、規制の対象に。また、求職者に関する情報を収集して募集情報等提供事業を行う者を届出制にし、事業概況の報告により把握する制度が導入されたのも特徴です。

 

求人メディア全体に対する規制が強化された

雇用のミスマッチを減らし、雇用の調整を図っていくには、求職者が安心して就職・転職活動ができる環境が不可欠です。そこで、改正職安法では、従来型を含めた求人メディア全体に対する規制が見直され、求人メディアや求人企業が守るべきルールが整備されたのです。

従来に比べれば規制強化となり、求人などに関する情報について的確な表示や個人情報の保護、秘密保持などが義務付けられました。

  

新旧どちらのメディアに対しても規制が強化された形で、求人メディアを利用する企業も新しく規制を課されています。知らずに法律違反を犯してしまわないように、求人を出す側の企業も、新ルールをよく知っておかなくてはいけません。

改正された項目について、以下で詳しく紹介していきます。

    

改正点1:募集情報等提供事業者に該当するサービスが拡大された

募集情報等提供事業者とは、求人情報や求職者情報を求職者や企業に提供するサービスを行っている事業者のことです。

旧職業安定法(職安法)では、募集情報等提供にあたるのは、求人企業または求職者の依頼を受けて、求職者または求人企業に求人情報・求職者情報を提供しているケースだけでした。

 

改正職安法ではこの定義が拡大され、下記のものも募集情報等提供事業者に含まれるようになりました。

   

<募集情報等提供事業者に含まれるもの>

・他の職業紹介事業者や募集情報等提供事業者から依頼を受けたもの

・他の職業紹介事業者や募集情報等提供事業者に情報を提供したもの

・インターネット上の公開情報を収集し、特段の依頼なく提供したもの

・他の求人メディアに掲載されている求人情報・求職情報を転載したもの

   

複数の求人サイトから情報を集めた「まとめサイト」や、知り合いの求人・求職情報を自社サイトで紹介している場合も、募集情報等提供事業者とされ、職安法の規制対象となったのです。

    

■職安法の規制対象である募集情報等提供事業者の範囲

 

募集情報等提供事業者には、下記のことが義務付けられています。義務に違反した場合は、行政処分の対象となる場合があります。 

   

<募集情報等提供事業者に適用される規制>

・求人情報等の的確表示義務(職業安定法5条の4)

・事業情報の公開に関する努力義務(同法43条の6)

・苦情の処理・体制整備の義務(同法43条の7)

・業務運営の改善向上を図るために必要な措置を講ずる努力義務(同法43条の8)

                  

改正点2:特定募集情報等提供事業者の届出制が創設された

特定募集情報等提供事業者とは、募集情報等提供事業者のうち求職者に関する情報を収集している事業者のことです。

改正職業安定法(職安法)により、求職者に関する情報を収集して募集情報等提供サービスを行おうとする者は、事前に事業者の名称、所在地、電話番号などを厚生労働大臣に届け出ることが義務付けられました。

    

特定募集情報等提供事業にあたるサービスの例

特定募集情報等提供事業者となるのは、たとえば下記のようなサービスを提供している場合です。

   

<特定募集情報等提供事業者にあたるサービスの例>

・求職者がサービスを利用するのに、会員登録が必要なサービス

・求職者のメールアドレスを収集して、求人情報を掲載したメルマガを配信するサービス

・求職者のサイト閲覧履歴に基づいて、おすすめの求人情報を紹介するサービス

    

特定募集情報等提供事業にあたるサービスの例

特定募集情報等提供事業者となるのは、たとえば下記のようなサービスを提供している場合です。

  

<特定募集情報等提供事業者にあたるサービスの例>

・求職者がサービスを利用するのに、会員登録が必要なサービス

・求職者のメールアドレスを収集して、求人情報を掲載したメルマガを配信するサービス

・求職者のサイト閲覧履歴に基づいて、おすすめの求人情報を紹介するサービス

   

特定募集情報等提供事業者に適用される様々な規制

特定募集情報等提供事業者になると、前述した募集情報等提供事業者に適用される規制に加えて、下記の行為規制が適用されます。

     

<適用される主な規制>

・求職者等の個人情報の取り扱いに関する義務(職業安定法5条の5)

・募集に応じた労働者からの報酬受領の禁止(同法43条の3)

・事業概況報告書の提出義務(同法43条の5)

・秘密保持義務(同法51条1項)

     

改正点3:求人等に関する情報の的確な表示を義務付け

求人メディア全体に対する規制強化として、改正職業安定法(職安法)では、募集情報等提供事業者が書面やウェブなどで提供する「求人等に関する情報の的確な表示」が義務付けられました。旧職安法では、労働条件を明示する基準が示されていただけでしたが、「虚偽の表示・誤解を生じさせる表示の禁止」「情報を正確かつ最新の内容に保つ義務」の2つの条件が追加され、新たに法律上の義務となったのです(職安法5条の4)。追加された2つの条件について、詳しく見てみましょう。

    

特定募集情報等提供事業者に適用される様々な規制

虚偽の表示・誤解を生じさせる表示の禁止

    

たとえば、企業が以下のような求人広告を出した場合、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示の禁止違反となる可能性があります。

   

■虚偽の表示・誤解を生じさせる表示の具体例 

  

虚偽の表示・誤解を生じさせる表示の禁止が義務化されたことで、今後は少しまぎらわしい程度の表現も、改善命令等を受ける可能性があります。正確な情報を表示できるよう、環境を整備しておきましょう。

 

なお、対象となる情報は、広告や様々な連絡手段を通じて提供される求人情報・求職者情報が含まれるので、十分な注意が必要です。

<対象となる広告の例>

・新聞、雑誌、その他の刊行物に掲載する広告

・FAX、ウェブサイト、電子メール、メッセージアプリに掲載する広告

・テレビ・ラジオ、オンデマンド放送で扱う広告

   

情報を正確かつ最新の内容に保つ義務

求人等に関する情報を正確かつ最新の内容に保つために、求人企業がしなければならないのは下記のようなことです。

 

<求人企業がすべき措置>

・募集を終了・内容変更したら、すみやかに求人情報・求職者情報の提供を終了・内容を変更する。

・求人メディア等の募集情報等提供事業者を活用している場合は、募集の終了や内容変更を反映するよう依頼する。

・いつの時点の求人情報・求職者情報かを明らかにする。

・求人メディア等の募集情報等提供事業者から、求人情報・求職者情報の訂正・変更を依頼された場合には、すみやかに対応する。

 

一方、メディアとして求人情報や求職者情報を発信する側である職業紹介事業者、募集情報等提供事業者は、下記のような措置を講じなければなりません。

 

■職業紹介事業者、募集情報等提供事業者がすべき措置

 

  

なお、求人メディアに対して的確な表示が義務付けられた求人等に関する情報とは、下記の5つの事項です。

<的確な表示が義務付けられた事項>

・求人情報

・求職者情報

・求人企業に関する情報

・自社に関する情報

・職業安定法に基づく事業の実績に関する情報

 

改正点4:個人情報の収集目的の明示を義務付け

特定募集情報等提供事業者に対する行為規制の一環として、求職者の個人情報を収集するにあたり、本人に対して個人情報を収集・使用・保管する目的を、具体的に示すことが義務付けられました。

従来の個人情報保護に関するルールより厳しい基準となり、求職者が「一般的かつ合理的に想定できる程度に」具体的であること、および「業務の目的をウェブサイトに記載するなどして明らかにすること」が求められています。

  

■個人情報の収集目的についてのNG・OK例

 

 

求人情報の的確な表示ができる体制を整えよう

働き手を必要としている医療機関・介護事業所にとっても、求職者が安心して求職活動できるようにするための環境整備や、マッチング機能の質の向上は望ましいことです。

新ルールに則った人材募集ができるように、求人企業の義務である「求人等に関する情報の的確な表示」などはしっかりチェックし、社内の求人情報発信体制を整えていきましょう。

   

    

 

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【出典】

e-gov「職業安定法」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000141

 

厚生労働省「令和4年職業安定法の改正の概要について」(2022)

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000992910.pdf

 

厚生労働省「令和4年 改正職業安定法Q&A」(2022)

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000965559.pdf

 

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