2020.01.17
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+αで活躍する医療従事者 
vol.4 久保 さやかさん
(看護師・保健師+人材育成・組織開発コンサルタント)

~多彩なフィールドで活躍する医療従事者たち~

医療従事者の中には「+α」の技能を生かしながら病院以外の多彩なフィールドで活躍する人も少なくありません。こうした人たちは、どのような経緯で「+α」を学び、仕事に生かしているのでしょうか。今回は、病院臨床を経て産業保健師、ビジネスパーソンとして経験を積み、現在は人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍する久保さやかさんにお話を伺います。保健師の立場では社員を健康に導くことが難しいという壁にぶつかった久保さんは、組織の構造に携わることができる人材育成・組織開発というフィールドに出会い、産業保健との関係性に気付き挑戦を続けています。

取材・文/河村 武志・中澤 仁美(ナレッジリング)
撮影/山本 未紗子(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

+αで活躍する医療従事者 vol.4 久保 さやかさん(看護師・保健師+人材育成・組織開発コンサルタント)

  

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プロフィール

久保 さやか(くぼ さやか)

THOUGHTS代表。看護師・保健師、人材育成・組織開発コンサルタント。慶應義塾看護短期大学卒業後、慶應義塾大学病院混合病棟勤務を経て、慶應義塾大学看護医療学部に編入学し保健師免許取得。大学卒業後は、大手小売業にて人事部所属の産業保健師として産業保健体制の立ち上げに携わる。その後、弁当チェーン運営会社の総合職として役員秘書、人事部、経営戦略部などで勤務する。現在は中小企業の産業保健師として勤務すると同時に、医療職やビジネスパーソン向けの人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍している。

 

◆臨床のスタートは特別病棟から

 

――久保さんは慶應義塾看護短期大学から慶應義塾大学病院に入職し、1年目から特別病棟に配属されたそうですが、「特別な」患者さんを担当するのは大変ではありませんでしたか。

 

確かに、特別病棟という環境を考慮して、以前は経験を積んだベテランナースだけが配属されていたのですが、私たちの1代上の先輩たちから新人も勤務するようになりました。特別病棟の難しさは、様々な領域の疾患を抱えた患者さんが入院されるので、いわゆる“全科対応”が求められるということと、やはりいろいろな意味で“普通の人”ではない患者さんを相手にすることだと思います。

 

例えば、日ごろから自分で配膳・下膳などするはずもない社会的地位の高い方が入室しているわけで、言葉遣いをはじめとする礼儀作法には通常以上に気をつける必要がありました。また、入職まもなく診療科の枠を超えた幅広い知識や技術を求められるようになったことは、それなりに高い壁だったように思います。ただ、当時は右も左も分からず「看護師とはこういうものなのだろう」と思っていたので、今になって振り返れば……の話ですが。

 

いずれにせよ、入職から5年間ずっと特別病棟で働き、全員が個室に入っている「特別な」患者さんを相手にがっぷり四つで関わった経験は間違いなく私を鍛えてくれましたし、その後のキャリアとなる産業保健師やビジネスパーソンになってからも私を助けてくれました。

 

――その後、保健師資格を取るために大学へ進学したということですが、そのモチベーションはどこにあったのでしょうか。

 

端的に言えば、病院の外――それは地域であったり、学校であったり、会社であったりですが、そこで人がどう生きているか、どう健康と向き合っているかを知りたくなったのです。考えてみれば、病院というのは特別病棟に限らず極めて特殊な環境で、社会のごく一部でしかありませんから、その外の世界で人を支える仕事がしてみたいと思いました。

 

大学病院では、働きながら大学院に通っていたり、資格を取るために勉強していたり、働きながらプラスオンで何かをしている同僚や先輩が多くいたこともあって、「大学へ行こう」という考えもまったく突飛なことではありませんでした。そうした環境も私の決断を後押ししてくれたと思います。

 

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ビジネスの最前線で産業保健は何ができる?

 

――大学を卒業して保健師資格を取った後、大手総合電機メーカーの健康管理センターを経て、大手小売会社の産業保健師として就職されました。

  

電機メーカー健康管理センター時代の産業医が小売会社の産業医に転身することになり、そのご縁で転職しました。産業保健師の就職や転職は、公募が少なく人脈が物を言う世界ですから。

 

その会社では産業医も保健師も人事部の一員であったため、医療者である前に「健康管理が得意な社員」であるという立ち位置を常に意識していました。私自身、できるだけ垣根を作らず「普通の社員」でいたいと思っていたので、よい環境だったと思います。他の社員からちょっとした健康相談をされるのは、廊下などで通りすがるときが多かったですね。さすがに面談をするときは個室を確保していましたが。それから、社員食堂を舞台にした食育を担当していたので、特に最初のころは保健師ではなく「食堂の人」として認識されていたような気もします。

 

この会社で保健師を雇用したのは私が初のケースだったので、何に関しても前例がなく、「自分の仕事は自分で作る」感覚でした。そうこうするうちに周りの信頼も得られてきて、本来の担当ではない商売に関する相談も受けるようになりました。例えば、「これからの時代はシニアシフトだ!」ということで、高齢者向けの販売戦略を考えようとなったとき、私は医療者として高齢者に接する機会がたくさんあったわけで、ぜひ一緒に考えてほしいと頼まれることがありました。

 

社員の健康管理上の課題としては、やはり当時からメンタルヘルスと長時間残業が大きなものでした。しかし、産業保健師としてはもちろん、一社員の立場としても、それらの課題が生じる根本のところに踏み込んで改革することは現実的にはできません。そうした限界を感じた勤務経験でもあったと思います。

 

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――大手小売業で7年間働いた後、そのグループ会社の弁当チェーン運営会社に転職されました。今度は産業保健師としてではなく、総合職としての入社だったのですね。

 

メンタルヘルスと長時間残業が生じる根本のところにタッチするためには、マネジメントの勉強をする必要があると考えたわけです。また、先ほど言ったように食育に関わっていた経緯があり、引き続き「食を通じた健康」にも取り組みたいと思っていました。しかし、大半の飲食業界と同様に、労働環境は厳しく、毎日がつらかったですね。特に店舗管理者などの現場スタッフは過酷な状況に置かれ、疲弊して辞めていく退職者も多くいました。

同じ時期に、グループ会社から出向してきた幹部の方がいて、私はその秘書を務めることになりました。その方はビジネスパーソンとして必要な知識を教えてくれましたし、「このままの労働環境ではまずいですよ」という私の訴えに耳を傾けてもくれました。ただ、そんな簡単に組織を変えられるわけもなく・・・。それでも社員の健康管理体制の見直しを働きかけたり、悩んでいる社員に保健師としての知識を使って対応したり、できる範囲のことはやったと思いますが、ビジネスの厳しさを思い知った3年弱でした。

 

医療者にも+αの視点を持ってほしい

 

――ご自身の病気を期に会社を辞め、独立する方向へ舵を切ったということですが、どのような思いがありましたか。

 

そのときは「どうせ死ぬなら、やりたいことをやって死のう」という思いでした。ビジネスの世界に飛び込んだ経験から、人材育成や組織開発などのマネジメント領域と産業保健は決して無関係の世界ではなく、むしろ地続きであることがよく分かったので、その気づきをもとに組織とそこで働く人たちを健康にする挑戦をしようと決意したのです。

 

現在は、中小企業の産業保健師として社員の健康をサポートすること、健康経営アドバイザーとして企業の健康経営(従業員等の健康管理や健康増進の取り組みを「投資」ととらえ、それを経営的な視点から戦略的に実行する手法)をサポートすること、人材育成・組織開発コンサルタントとして医療者やビジネスパーソン向けの研修を行うこと、主にこれら三本柱で活動しています。

 

2019年に独立し、今は個人事業主の立場でもあるので、まさに「自分の仕事は自分で作る」を地で行くチャレンジングな毎日です。医療者として働いていたときは、お金を稼ぐことに何となく罪悪感がありましたが、ビジネスの経験をしてフラットに考えられるようになりました。価値を提供し、それと交換にお金を頂くにはどうすればよいか考えるところが難しさでもあり面白さでもあります。

 

人材育成・組織開発コンサルタントとして医療系の人たちと関わる中でしばしば驚かされるのは、医療系の人たちはあまりにも「丸腰」であるということ。つまり、医療のこと以外に「武器」を持っている人が少ないのですね。だから、私のような経歴の人間が「医療の現場で起こっている問題は、こういう別の視点から見れば、よい方向へ持っていけるかもしれませんよ?」とサジェストすることに意味があると思っています。

 

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――看護や保健のことはもちろん、人材育成や組織開発の知識を蓄え、現場で実践も積んだ久保さんだからこそ、多角的な視点を提供できるわけですね。

 

私が経験したように、産業保健の視点だけでは本当の意味で社員の健康を守ることはできません。人材育成や組織開発の知見を得て、それらの分野の人たちとも力を合わせないと立ち向かえない問題なのです。私は一人の実践者としてそのことを追求していきたいですし、同じようなアプローチをする仲間を医療界の中でも増やしていきたいですね。

 

幸い、私の研修を受けて気づきを得て、問題意識を共有してくれる方々が少なからずいます。その輪を少しずつ広げて、やがて大きなうねりにしていきたい。それが私にとって最大のチャレンジだと思っています。

 

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