2019.06.21
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受診の適正化で介護スタッフに「安心」を(ドクターメイト)

【 医療テックPlus+】第3回/ドクターメイト株式会社

介護施設で働くスタッフの不安と患者の受診負担を減らし、医療費削減にも貢献したい―。そんな思いからサービスが生まれた介護施設向け医療相談チャット「ドクターメイト」。運営するドクターメイト株式会社代表で医師の青柳直樹さんに、サービスの原点や現状、起業のきっかけになった日本の医療への思いなどを聞きます。
 
取材・文/秋山健一郎 
撮影/さいじまゆうき
編集・構成/メディカルサポネット編集部

 

    受診の適正化で介護スタッフに「安心」を 

    青柳代表は研修医時代、「なぜこんなに症状が進むまで受診しなかったんだろう」というケースや、「これならわざわざ受診しなくてもよかったのに」と思うようなケースに何度となく出合ったという。そのたびに感じたのが、医療サービスが「届くべきところ」に届いていないということ。特に印象的だったのが、介護施設に入居している患者の姿だった。

     

    「相談できる仕組みをつくり、医療サービスを届くべきところに届けたい」と話す青柳直樹代表

     

    ――介護施設に入居している患者さんには何か特徴があったんですか?

     

    青柳直樹代表(以下、青柳)介護施設(特養)には医師が配置されているのですが、その多くが内科医です。皮膚科や精神科といった専門外の疾患が疑われる場合は、外来を受診するんです。入居者と付き添いの介護施設のスタッフの方が一緒に病院に来ているのを見て、入居者さんご自身はもちろん施設側の負担も大きいだろうと思いました。

     

    ――そういった課題を感じてから、どのようなことをなさったのでしょうか?

     

    青柳:勉強会などで知り合った介護施設で働く看護師や介護士らと交流を始めました。コミュニケーションを取っていく中で、看護師や介護士は入居者への医療に関わる対応に不安を感じながら働いていることを知りました。特に看護師は、常に医師がいるわけではない施設の医療を担っていて、大きなプレッシャーを抱えていました。「少しでも力になれれば」と思って、コミュニケーションアプリ「LINE」で、彼らの相談に乗るようになったのですが、それが「ドクターメイト」の原型になっています。

     

    介護の現場の不安を少しでも解消したいと思い、ミクロな活動を始めた青柳代表。さらに、学生時代から抱いていた「医師不足」や「医療費の適正化」といった社会課題を解消したいというマクロな視点からの思いもクロスしていく。そしてビジネス化を意識するタイミングが訪れる。

     

    ――個人的なLINEでの相談をビジネスにしようと思ったのには、何かきっかけがあるんですか?

      

    青柳介護施設で働く方たちが不安なく働ける一助になりたいと思ったのが大きいです。それと、彼らとLINEでやり取りをする中で、入居者に何かしらの問題が起きたときに「なんとなく不安だから…」とすぐに病院へ行く前に、気軽な方法で医療相談できれば、必要のない受診を減らせるのではないかと思いました。そうすれば、患者さんやスタッフの負担、通院コスト、さらに医療費も削減できるはずだと考えたんです。

      

    ――そこで会社設立に向けて動き出すわけですか?

      

    青柳:勉強会で出会った人や介護施設で働く人たちに「介護施設向けに、チャットを使った医師の相談サービスを実現したい」と話していると、だんだん「協力したい」と言ってくれる医師や看護師、介護士らが集まって来てくれました。さらに、ビジネスチャットサービス「Chatwork」主催のイベントで、弊社のCOOになる永妻寛哲と出会ったんです。たまたま地元が同じで、すぐに意気投合しました。ITに精通した永妻が加入したことで、ビジネスオペレーションの円滑化が一気に進みました。

     

     

    「1年目は検証の繰り返し。2年目の今年はサービスを広げる段階です」と話す永妻COO

     

    相談は365日受付、24時間以内に回答

    「ドクターメイト」の仕組みは至ってシンプル。月額利用料金はベッド数に応じており、「Chatwork」を通じた相談は何度でもできる。テキストや画像、動画で送られてくる相談に対して、診療科目ごとの担当医師が「現場でどのようにスタッフが対応すべきか」をアドバイスする。

     

    ――どれくらいのスピードで返事をしているんですか?

     

    青柳:相談は365日、9〜17時の間で受け付け、遅くとも24時間以内に返信することを約束しています。私は皮膚科が担当なのですが、できるだけ早く答えたいので、出先やカフェから返答することも多いです。サービスを始めたころは、介護士さんとのコミュニケーションがメインになると思っていましたが、今は看護師さんからの問い合わせがほとんどですね。医師がいつもいるわけではない環境で医療的判断を求められ、悩む場面が多いというのが理由です。最近は症状に関する相談だけではなく、「Aという薬とBという薬は、どう使い分けたらいいですか?」といった日常的な相談も届きます。以前は患部がうまく写っていない写真や動画が送られてくることもありましたが、やり取りを繰り返すうちにお互いの理解度が上がり、コミュニケーションはどんどんスムーズになっています。

      

    青柳代表が営む皮膚科が開院するのは週2日のみ。平日は施設へ往診している

      

    ――現在、相談に応じてくれる医師は何人ぐらいいますか?

     

    青柳:社内にいるのは皮膚科、内科、精神科の3人ですが、他にも協力してくれる医師がいて、医師のネットワークづくりも順調に進んでいます。医師は医師同士での結婚が多く、出産を機に医療現場を離れる女性も少なくありません。家庭に入っても「医療に貢献したい」と思っている女性医師は結構多く、場所や時間の制約を受けずに働ける「ドクターメイト」のサービスに対して、非常に協力的です。

     

    ――医師の知見を生かした新しい仕事のスタイルが生まれたんですね。

     

    青柳:参加している医師には「看護師や介護士への回答には、できるだけやわらかい言葉で対応してください」とお願いしています。「ドクターメイト」という社名には、「医師と友だち(メイト)」という意味を込めています。医療について何か調べたいことがあったとき、GoogleやYahoo!の検索バーに文字を入力するように、「ドクターメイト」に向けてチャットをするのが当たり前になってほしいと思っています。

     

    医療費を削減し未来への投資に

    ――サービスを開始して1年ほど経ちますが、導入数はどれくらいですか?

     

    青柳:神奈川や静岡、山口など全国13施設で導入していただいています。「以前より不安がなくなった」「異常の発見から処置までの時間が短縮した」「通院数が減り、ちょっとした疑問にも医師が丁寧に答えてくれるのでスタッフのモチベーションが上がった」といった声をちょうだいしていて、手応えを感じています。うれしい限りです。サービスを始めたこの1年は、検証、検証の繰り返しでした。より使いやすいサービスとなるようさらに質を高めていきます。2年目の今年は、より多くの施設で活用してもらうよう認知度を高めていくフェーズに入ります。

     

    「ドクターメイト」は物理的な制約がなく、インターネット環境があれば日本全国の介護施設でサービスを提供できるのが強みだ。医療機関へのアクセスが悪く、医師も高齢化している地方の過疎地などでこそ、「ドクターメイト」は力を発揮し、介護施設で働く人の負荷を下げることが期待される。

     

    出先でもタブレットは手放さない。「30分ほどで返すことも多い」と青柳代表

     

    ――地域偏在の問題もあり、場所に縛られない「ドクターメイト」は今後ますます需要が高まりそうですね。

     

    青柳:介護施設で働いている人の心配事を減らすことは、気持ちよく働ける環境づくりにつながると思っています。介護業界は離職率の高さが問題視されますが、受診同行の負担を減らしたり不安を解消したりすることで、改善できる余地はきっとあるはずです。将来的には、「施設に『ドクターメイト』が入っているから」という理由で利用者や働く人から選ばれるサービスにしていきたいと考えています。ヘルスケアベンチャーは、社会的な課題を解決するためのテーマを取り扱うことが多いので、事業領域が隣接していても協力し合う雰囲気があるところがいいんです。世界に先んじて超高齢社会に突入した日本の今の課題を解決することは、治療と言ってもいいと思いますが、世界(の課題)を予防することになると思っています。「ドクターメイト」のようなサービスを通じて、活用しきれていない医師の知識がもっと役立てられ、医療や社会保障に費やされる歳出がわずかでも未来への投資に回っていくようにしたいです。そんなことをモチベーションに頑張っていきます。

     

    課題先進国と言われる日本で問題になっていることは、いずれはどこの国でも起こるだろう。今の日本の医療や介護をよりよくしていくための知見は、今後世界で活用されるものになると考えられる。便利なサービスが生まれ、生活に定着すると、それがまだなかった時代のことを思い出せなくなることはよくあることだ。「ドクターメイト」が広げようとしているチャットを使った医療相談にも、そんな未来をつくる可能性を感じた。

     

    ドクターメイト株式会社 (DoctorMate Inc.)

    住所:東京都港区虎ノ門一丁目16番6号 虎ノ門ラポートビル UCF703

    URL:https://doctormate.co.jp/

    2017年12月、青柳直樹医師が設立。千葉大学医学部附属病院を退職した翌18年4月から事業を本格化。青柳代表と永妻COOのほか、医師2名、弁護士1名、看護師1名、介護士2名が参画している。導入している介護施設は現在全国に13施設。青柳代表は横浜市にある皮膚科の院長も務めている。

          
    メディカルサポネット編集部 (取材日/2019年5月22日)

      

     

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