
プロフィール
森田 夏代(看護師)
大学病院にて、主にクリティカル領域で一般職から看護管理者(病棟師長・教育専任師長)として約20年間勤務した後、一般企業や医療法人総合病院で副看護部長(看護部長代行)として勤務する。その後、大学院に進学し、看護管理の研究に取り組む傍ら、認定看護師教育センター・大学看護学科の教員として基礎看護教育と研究に従事している。看護が好きな看護管理者の育成を目指し、「キャリア中期看護師の転職支援と組織定着」を研究テーマに博士論文を進めている。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、働き方だけでなく学び方にも大きな変化をもたらしています。オンライン授業も少しずつではありますが、生活の中に浸透してきているようです。しかし、「オンライン授業の実施」=「対面授業と同等のことが学べている」と理解するのは時期尚早かもしれません。今年は集合研修がなく、オンラインでの研修のみでいきなり現場での仕事が始まった新人看護職員も少なくありません。成人である我々は「問いかけ」による指導方法を用いることによって、教える側と学ぶ側どちらにも効果があると森田さんは話します。また、毎日の申し送り時間を活用し、一緒に考える「チャンス教育」の有効性にも触れ、学校ではない臨床で学び・教える場を作り出すことの大切さについても教えてくださっています。
執筆・写真/森田 夏代
編集・構成/メディカルサポネット編集部
「新しい生活様式」がスタートし、少しずつ日常が戻り始めたころでしょうか。巷では3密を避け効率化を図り在宅ワークが一般化した職場もあるようです。先日、何気なく読んだコラムに「新しい生活様式が始まり、リモートワークだけで数か月過ごした新入社員が出社し、大学1年生が通学し始めた今、この数か月を取り戻すかのように勢いをもって指導・教育をするのは誤った選択である。同時に、在宅で教えたから知っている・できるはずということはないことを念頭において欲しい」という文章が目に留まりました。
冷静に考えれば「確かにね」と思うことですが、ともすれば「在宅やwebで教えたのにわからないの?!」と口から出てしまいそうな予感がします。4月入職の看護職は、入社式も集合オリエンテーションもなく外来や病棟という現場に放り出されてしまいました。大切な環境に慣れる・人に慣れるための時間の確保と援助ができないまま新入職者を現場に預けたように思います。私自身の「ついうっかり」を防止する意味でも、今回は臨床での「教えることと学ぶこと」についてお話ししてみようと思います。
私たち看護職は成人学習者ですので「受け身で、これさえ覚えれば良い」という教育は通用しません。今、目の前にある問題や課題を解決すると、その先にある課題にも取り組める・次には今回の解決方法を応用して自分で行おうと思えるように支援することが成人教育の基本です。同様に、成人学習者自身の今までの経験は、すべて価値のある学習資源となり、主体的に学習する姿勢があるということです。(学びたくない人は看護師にはいないということです。)
臨床の場には教育のチャンスがたくさんあります。このチャンスを活かすきっかけは、看護管理者のあなたにあります。また、教育を行うにはタイミングも重要です。毎日時間をかけて話をして実践と知識を融合していたら、新入職者の頭の中は消化不良を起こすかもしれませんし、頭の中で考えてしまい行動できなくなるかもしれません。
そうならないように、看護管理者は日常の看護業務の中でチャンス教育を実践しましょう。例えば、ナースステーションに戻ってきた看護師に「なぜ、あの時に患者さんは、ありがとうと言ってくれたのかな?」というようにいい看護が提供できているのに、実践した看護師が意識していないような場面について、管理者の言葉で問いかけることは、自分たちの看護を内省し、自信につながり、意欲に繋がっていきます。出来なかったことや満足していないことは、個人でも(ひとりでも言われなくても)内省できます。できていることを認めるのはひとりでは難しいことです。
朝の申し送りの場で5分だけ皆で考えてみるだけでも十分な教育の場となります。そして、チャンス教育を繰り返すことで「そんなことも知らないの?習ったよね?」とうっかり口をついて出ることがなくなり、にっこり微笑んで「一緒に考えよう」「ちょっと、集まろう」という言葉が飛び交う場となるのではないでしょうか。
コロナ禍から新しい生活様式に移り変わる移行期で、いつもの日常を取り戻そうと焦らずに看護を行いたいものです。
プロフィール
森田 夏代(看護師)
大学病院にて、主にクリティカル領域で一般職から看護管理者(病棟師長・教育専任師長)として約20年間勤務した後、一般企業や医療法人総合病院で副看護部長(看護部長代行)として勤務する。その後、大学院に進学し、看護管理の研究に取り組む傍ら、認定看護師教育センター・大学看護学科の教員として基礎看護教育と研究に従事している。看護が好きな看護管理者の育成を目指し、「キャリア中期看護師の転職支援と組織定着」を研究テーマに博士論文を進めている。