2019.12.04
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LGBT当事者が安心して行ける医療機関とは?

【vol.2】医療現場の多様な性を考えよう ―患者がLGBTだったら、どう対応する?―

どんな治療にも効果と副作用があり、治療法を選択する場面は患者の個性や価値観と向き合うことでもあるでしょう。LGBTの若者支援を行っている遠藤まめたさんはかつて、SLE(全身性エリテマトーデス)の治療薬の選択を巡って、主治医にトランスジェンダーであることを打ち明けました。医療従事者はLGBT患者とどのように意思の疎通を図り、理解を深めたらいいのか、患者からの意見を遠藤さんに聞きました。
 
取材・撮影・編集・構成/メディカルサポネット編集部

医療現場の多様な性を考えよう【後編】 ―患者がLGBTだったら、どう対応する?―

 

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先入観なく患者の診察を 丁寧な対話が大切

遠藤さんが難病のSLE(全身性エリテマトーデス)と診断されたのは28歳のとき。主治医からは、第一選択薬の免疫抑制剤では卵子に影響があるため、妊娠を希望する人には違う薬を薦めると説明されました。しかし、その薬は未認可ゆえに月額6万円ほどの負担が必要でした。トランスジェンダー男性(身体的には女性だが性自認は男性)である遠藤さんは子どもを産みたいと思っておらず、妊娠する力を残すためにお金を払いたくないと思いました。

  

インタビューに答える遠藤まめたさん

 投薬や手術などの治療方針の決定は人によって感じ方が違うと説明する遠藤さん

 

そこで遠藤さんは主治医に「認可薬でいいです。子どもは産みたいと思っていないので」と伝えたところ、「今は子どもがほしいと思わなくても将来考え方が変わるかもしれないよ?」と解せない様子。納得してもらうためにはカミングアウトするしかないと感じ、遠藤さんは「トランスジェンダーであることもあり、子どもを産みたいと思っていません」と告げました。その告白に主治医は「分かってよかった」と納得し、治療方針を転換しました。

 

一方、遠藤さんの友人で精巣がんを治療したゲイの男性は主治医に勧められた精子凍結を継続しています。子どもを持つ予定はありませんが、主治医にゲイであることを打ち明けられなかったために、精子保存のための費用を払い続けているそうです。

 

LGBTであることを打ち明けられないために生じる患者の負担。どうしたら不要な負担を減らせるでしょうか。

 

 

遠藤まめた(えんどう・まめた)
1987年生まれ。トランス男性(身体的には女性だが性の自己認識は男性)。トランスジェンダ―当事者として10代後半からLGBTの子ども・若者の支援を行っている。23歳未満のLGBTのための場所「にじーず」代表。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)、『オレは絶対にワタシじゃない』(はるか書房)がある

 

患者によって望ましいと感じる選択肢は異なる

投薬や手術などの治療方針の決定について、「人によって感じ方が異なることがもっと尊重されたらいい」と遠藤さんは指摘します。

 

子どもを産みたい若い女性なら大抵ショックを受けるとされるSLEの治療説明でも遠藤さんや家族が特段の反応を見せなかったため、主治医はトランスジェンダーだと明かされた時に腑に落ちた表情だったそうです。その後、トランスジェンダーとして身体を男性化させる治療は受けられるのかどうか、男性ホルモンを投与した際に持病に与える影響はあるか、などの疑問についても主治医は文献を探すなどして丁寧に答えてくれ、遠藤さんは気兼ねなく治療を受けることができました。

 

「日常生活でLGBTであることをなかなか言えない人は、病気になったときなど非常時にもやはり医療従事者にカミングアウトすることに脅威や不安を感じやすい」と遠藤さんは指摘します。

LGBTに限らず、どのような治療を選択したいのか、何を重要視しているのかということは個人によって違います。「性別という大枠ではなく患者個人を見てほしい」と遠藤さん。また、治療の説明をするキーパーソンについても、「患者に同性のパートナーがいる場合もあるので、いろいろな家族や関係性の形があることをあらかじめ知っておき、いざという時に動じずにさらりと対応できるようにしてほしい」と話します。

 

トランスジェンダーの遠藤さんは診察室でフルネームで呼び出され不快な経験をしたこともあれば、受付番号で呼び出されホッとしたこともあったそうです。またある時は、ピンク色のパジャマをあてがわれて困惑したり、健康診断の際に個室の更衣室を用意してもらって助かったと感じたりしたことも。「どのような性別で扱われるか心配せず、必要な医療につながれる環境がもっと整ってほしい。検査着やスリッパの色など、小さいところから改善できることもあるのではないでしょうか」

  

インタビューに答える遠藤まめたさん

 「どのような性別で扱われるか心配せず、医療につながれる環境が整ってほしい」と話す遠藤さん

   

手術の同意に同性パートナーを認める?

手術や治療の同意、あるいは看取りの際のキーパーソンに同性パートナーを認めるかどうかという議論も進んでいます。石川県立看護大学の三部倫子講師が2019年に実施した看護部長へのアンケートによると、同性カップルを「家族等」として扱われていない現状が明らかになりました。

 

成人した患者に判断能力がない場合の手術の同意を誰から取っているのか、看取りの場面に誰が立ち会えるのか、ICUなど面会制限のある病棟で面会が可能な人の範囲を複数から選んでもらった結果、手術等医療行為への同意を「親族のみ」と回答した数は44.8%と半数近くを占めました。看取りに立ち会える人として「親族のみ」と回答したのは22.2%でした。調査した三部倫子さんは「患者の命に係わることで判断が迷われるときは親族に決定を委ねていることがうかがえる」との見方を示しています。

 

一方、厚生労働省が取りまとめた「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」においては、患者本人の意思が確認できなくなった際のキーパーソンである「家族等」について「本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます」との注釈がなされています。2016年から横須賀市では、市立病院(市民病院、うわまち病院)では同性パートナーを家族として扱う方針を定め、ホームページでもその旨を公表しています。遠藤さんは「自分たちの関係性を明かせるか不安に思う当事者が多い中で、病院のホームページにこのような方針が書かれていることでカミングアウトしやすくなる」と話します。

患者本人の意思を尊重し、同性パートナーもキーパーソンとして認められる動きは今後さらに広がっていくでしょう。

 

グッドプラクティスについて共有を

横須賀市立病院のように同性パートナーを家族として認める方針を公表したり、トランスジェンダーが安心して受診できるよう工夫したりしているグッドプラクティス(優れた取り組み)があることがもっと共有されることを遠藤さんは望んでいます。東京都内の婦人科クリニックには、女性だらけの待合室で気まずい思いをしなくてすむように希望者には個室の待合室を案内し、ホームページでもトランスジェンダーが安心して受診できることをうたっているところもあります。

 

2020年1月には、大阪で「セクシャルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国待機2020が開催され、全国から寄せられたさまざまな事例や取り組みが共有されます。患者一人ひとりに寄り添い、より良い医療を提供するために、「当たり前」について考え直す機会になりそうです。

 

メディカルサポネット編集部

 

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