2019.12.24
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開催レポート「日本看護サミット2019・訪問看護サミット2019」

注目トピックス

12月6日(金)、日本看護協会と日本訪問看護財団が初共催し「日本看護サミット2019・訪問看護サミット2019」が開催されました。会場となったパシフィコ横浜国立大ホールには3300人を超える看護職者が集まり、「地域包括ケアシステムの推進」を主題とし、「看護が創(つ)造(く)る地域の未来 ~つなげよう!166万人の看護の力~」をメインテーマに特別講演や鼎談(ていだん)が行われました。

取材・写真・執筆/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

2年に1度、看護の知が結集する場

 

日本看護サミット2019・訪問看護サミット2019

  

今回メディカルサポネットでは、多くの聴衆を集めたシンポジウム「今、看護が創(つ)造(く)る地域包括ケア」に注目。地域包括ケアに携わる4人のシンポジストがそれぞれの立場から具体例を紹介し、会場とのディスカッションを通して、“看護の力を結集して創(つ)造(く)る地域包括ケア”について共有しました。

 

冒頭で趣旨説明をする日本看護協会常任理事・岡島 さおり氏

 

日本看護サミット2019・訪問看護サミット2019 座長 画像

座長を務めた熊本県看護協会会長・嶋田 晶子氏と慶應義塾大学医学部講師/在宅専門看護師・山岸 暁美氏

 

大学と訪問看護ステーションの立場から

地域包括ケアシステムにおいて大学が果たす役割

~教育機関併設型訪問看護ステーション活動、地域活動を通して考える~

 

高崎健康福祉大学保健医療学部看護学科在宅看護学教授

高崎健康福祉大学訪問看護ステーション統括マネージャー

棚橋 さつき 氏


 

国内でも珍しい、“大学に併設された訪問看護ステーション”を開設し、「大学教授」と「訪問看護ステーション統括マネージャー」2つの立場で活躍している棚橋氏には、会場から多くの注目が集まりました。本シンポジウムでは主に後者の立場から、訪問看護ステーション設立から現在までの取り組みについて紹介しました。棚橋氏は、大学に併設する訪問看護ステーションの運営において、

 

・経営の黒字化

・新卒訪問看護師育成を含めた継続的かつ少人数での研修

・大学の学部学科と共同した研究

 

といった3つの柱を中心に活動を進めてきたといいます。

都内では新卒訪問看護師の採用・育成についてポジティブに取り組む事業所が増える中、「高崎でもそれを実現しよう」と地域に適した育成プログラムを作成し、”大学に併設”というメリットを活かし、「大学と連携しながら新卒訪問看護師の育成に積極的に進めてきた」と話しました。3年目で訪問看護ステーション経営の黒字化、5年目の今年は研究発表というテーマを持ち、年々活動は広がってきています。

今後の課題について「社会資源の1つである大学をどのように生かしていくかだ」と述べ、今後は「セラピスト版育成プログラム」の開発へと展開し、さらなる教育体制の整備に意欲を示しました。

棚橋氏からの「難しいと考えると難しいですが、楽しく過ごした5年間です」というメッセージは、多くの聴衆の心に響いたはずです。

  

大学病院の立場から

地域包括ケアを実現するために大学病院が果たす役割とは

 

国立大学法人愛媛大学医学部附属病院

看護部長 久保 幸 氏


 

大学病院の立場から登壇したのは、愛媛大学医学部附属病院看護部長の久保 幸氏。愛媛県内唯一の大学病院・特定機能病院としての役割を果たしながら、一方で「人口減少」や「30%を超える高齢化率」といった地域環境を鑑み、2013年に院内に総合診療サポートセンター(TMSC:Total Medical Support Center)を開設。ここを拠点として多職種が協働し、地域連携が進められています。

また、専門看護師・認定看護師が院内各部署を横断的に活動し、各々の専門性を発揮していることも特徴的です。将来的には院内での活動にとどまらず、地域での役割拡大にも目を向けていると話し、地域包括ケア実現に向け、地域に根差した大学病院として期待されている役割を果たしていくことを示しました。

訪問看護ステーションの立場から

看護職のつながりは地域の変革に貢献できる

 

公益財団法人日本訪問看護財団あすか山訪問看護ステーション 統括所長

公益財団法人日本訪問看護財団 事務局次長

平原 優美 氏


 

平原氏の活動で注目されるのは、2013年に開設した看護職の交流会「北区ナーシングヘルスケアネット」です。あらゆるフィールドで活躍する保健師・助産師・看護師の3職種が、看護部長・師長・主任・スタッフナース等すべての職域が集まり、会の開催は10月で21回目を数えました。1回平均37人もの看護職者たちが集まり、勉強会や懇親を通して、「地域共生社会構築に必要な土台となるネットワーク」ができつつあるとし、看護職のつながり強化が今後の地域の変革に向けた力になると述べました。

このつながりが今後、「北区が抱える24.7%という東京23区内で最も高い高齢化率」への対策や、「増える子育て世代人口」へのサポートへとつながっていくことが期待されます。

 

地方公立病院の立場から

地方公立病院が取り組む、地域包括ケアシステムの構築

 

北茨城市民病院 副院長

村田 昌子 氏


 

地域の基幹病院である「市民病院」という立場から、「33%の高齢化率」と「訪問看護・介護サービス事業所の不足」という市の課題にどう向き合うか、前茨城県看護協会会長で7月に副院長に就任した村田氏の取り組みにも多くの関心が寄せられました。

院内に訪問看護室を立ち上げることと並行して、地域包括ケアシステムの拠点づくりにも力を入れ、2017年4月にコミュニティケア総合センター(愛称:元気ステーション)を開設し、市民のための地域づくりの整備が進みました。

ここを拠点として関係機関につなぐ役割を担い、また、医療関係者だけでなく、民生委員やボランティアなど市民も運営に携わることで、地域の課題について考え施策につなげていくことも可能になりました。

「2017年の相談者は1856人」にのぼり、「これまで市民がどこに相談したらいいかわからなかったことが、同センターに相談することで解決に向かったケースが多くあった」と話し、“地域の拠点”として価値ある存在になっているとして今後に期待を寄せました。

   

「サミット宣言」で目指す、地域包括ケアシステムの発展

  

 

サミットの最後には、日本看護協会会長・福井 トシ子氏(左)と日本訪問看護財団理事長・清水 嘉与子氏が登壇し「サミット宣言」を行い、会場は大きな拍手で包まれました。

日本看護サミット2019・訪問看護サミット2019サミット宣言

あらゆる領域で働く看護職は、自身の役割や専門性を 活かして地域包括ケアシステムの発展に貢献します。

そのために、すべての看護職が連携強化を図るとともに、看護の質の向上に向けた教育の充実と、訪問看護に携わる人材の育成・確保に取り組みます。

これらをもって、健康な社会・地域をつくり、住民の安心・安全な生活に寄与することを宣言します。

 

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