
「多職種連携ものがたり」vol.1では、ターミナル期にある利用者の方のサービス担当者会議を紹介します。病院から在宅へ移行するにあたり、介護保険を新規申請し、区分判定がなされたため会議開催の運びとなりました。今回の会議は、訪問診療の時間に合わせた開催にすべく、ケアマネジャーが各職種とやりとりしながら会議時間を調整しており、日頃参加が難しい医師の参加も実現しました。医師の参加によって、病状や今後の方向性について詳細を共有できる機会となりました。在宅導入からまだ日が浅く、多医療職者が対面で集まるのは初めてのことです。
【ケース紹介】
◆利用者:Aさん 男性 80歳代
◆病期:がんターミナル期(5月9日に退院し、5月13日から訪問看護開始)
◆参加者:Aさん、奥様、訪問診療医、ケアマネジャー、福祉用具レンタル事業者、訪問看護師
◆利用サービス:訪問診療2日/週、訪問看護5日/週、介護ベッド・エアマット・ベッドサイドレールレンタル
◆開催場所:Aさん自宅
◆会議時間:30分
◆会議開催の主旨:介護保険を新規申請し、「要介護1」と認定されたため
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各職種が“対面”で集まる貴重な機会
5月のさわやかな風が吹き抜け、草花が咲きほこる庭に面した和室。自宅で最も居心地が良いと思われる場所にAさんの介護ベッドが設置されており、横には奥様が寄り添われています。2人を囲むように各医療職者が集い、ケアマネジャーが中心となってサービス担当者会議が開催されました。「なるべく訪問診療か、訪問看護がある日に会議開催を合わせるように日程調整しています」と話すのは、Aさんを担当する訪問看護師の野上洋子さん。
在宅療養を開始して1カ月弱、「病期の割に穏やかに経過されています」と訪問診療医が言います。ゆっくりと穏やかな時間が流れていました。
医師の診察が終わるのを待って、参加者の顔合わせから始まり、会議の主旨でもある、要介護度認定の結果について情報共有へと続きます。

(左から)訪問看護師の野上さん、ケアマネジャー、訪問診療医、福祉用具担当者。
Aさんと奥様は隣の和室から参加
連携その1.要介護認定・身体状況の確認・共有
ケアマネジャー(以下、ケアマネ):今回、Aさんの介護保険の新規申請をして、要介護度が認定されたのでお集りいただきました。奥さんのお見立て通り「要介護1」となります。通常この介護度ですと介護ベッドのレンタルは難しいのですが、先生の「病期的に必要」というご意見もあり、区に例外給付として申請します。
奥様:ありがとうございます。「要介護1」だし、どうしようと思っていたの。
ケアマネ:先生には週2回診ていただいていますが、身体状況はいかがでしょうか?
医師:Aさんは病気の進行に伴うだるさが続く状況ですが、痛みが少なく、酸素も不要で褥瘡もなく経過されており、上手なケアがされていると思います。週末2人のお子さんに会えて現状についてお話できました。だんだん服薬が難しくなってきているので、痛み止めについて今後テープ剤への変更を検討しています。
今後の薬剤使用の方向性、点滴継続の確認を行い、話は訪問看護時の様子および奥様の介護負担確認へと続きます。
連携その2.訪問看護の介入による介護状況の変化の確認
ケアマネ:週2日先生による訪問診療、それ以外は訪問看護に入っていただいていますが、訪問看護時の様子はどうですか? 奥さん頑張りすぎていませんか?
奥様:上手に寝ているから大丈夫ですよ。
訪問看護師:奥さんがAさんのペースをとても大事にされていて、こちらも学ぶところが多いです。例えば、朝のトイレ介助を45分かけて寄り添っていらっしゃいます。Aさんが最小限の労力でできるやり方をよくご存知なので、私たちが訪問した時は、全身状態の観察や、マッサージを行い、その間に奥さんには買い物に行っていただいています。
奥様:「ちょっと行ってきます」と言って遠慮なく買い物に行っていますよ。
連携その3.より良い療養環境を“みんなで”考える
在宅導入にあたり、介護ベッド・ベッドサイドレール・エアマットをレンタルしたAさん。会議ではそのベッド周辺の環境について確認後、エアマットについて意見交換が始まります。
ケアマネ:レンタル事業者さんには、褥瘡予防マットレスなど、いろいろセッティングしていただきましたが、先生、この環境はいかがでしょうか?
医師:良いと思いますよ。
ケアマネ:体位交換が自動でできるものではありますが、奥さんが体位交換したり、在宅導入当初はご自身が動いたりということもありました。
医師:ターミナル期の患者さんは、自分の体が動いてしまうのがつらいんですね。一番良いのは圧が時間ごとに変わるタイプなのですが、これは可能ですか?
レンタル事業者:これには時間ごとに変わる、という設定はないですね。
訪問看護師:先日、げっぷが1日中出てしまい、圧切り替えが誘因になったのではないかと娘さんが気付いたと聞きました。
奥様:本当にそれが原因だったかはわからないわよね。左右に圧がかかる設定にしていたので、たまたまげっぷが多かったんですね。
医師:それが刺激になったか、偶然だったかはわからないけど、Aさんに一番良いのは、圧切り替えができるもの。奥さんが動かしてくれるにしても、Aさんは横向くまでの動作もつらいから、寝たままでいられるのが良いと思うんです。
“明日”では遅い~求められるスピード感~
意見交換の結果、エアマットの交換をする話が具体的に進みます。
医師:体位交換しないで、寝ているだけで圧がいろんなところにかかるものがベストだと思います。
奥様:そうね、横向くとつらいかもね。
医師:家族で体位交換をやっていただいているけれど、本当は「ただ寝ているだけ」という方が良いの。交換するなら早くした方が良いと思います。
ケアマネ:そういうマットレスはありますか?
レンタル事業者:はい。電源が入っている間はずっと循環して動いているタイプでしたらあります。
ケアマネ:それによって気持ち悪くなったりすることはないですか?
医師:この病期の方たちはみなさんそのタイプを使っているので大丈夫でしょう。
ケアマネ:奥さんどうします? 交換しますか?
奥様:先生がそれが良い、というのであれば交換しましょうかね。本人は楽だと思うのよ。
ケアマネ:いつ交換できますか?
レンタル事業者:商品の在庫はあるので、最短で今日の夕方に設置できます。
ケアマネ:ただ、交換にあたって4人くらい人手が必要なので調整でき次第連絡します。他に奥さんからこうしてほしいとか、これが聞きたいということはありますか?
奥様:ないわね。
ケアマネ:わからないことがあったらその都度聞いてくださいね。病状に合わせていろいろと情報共有できればと思いますので、みなさん今後ともよろしくお願いいたします。
ものの数分でプランがまとまり、当日中にエアマット交換が実施される見込みとなりました。訪問看護師の野上さんは「対面だからこそできるスピード感は、ターミナル期の利用者さんとご家族にとって非常に重要なものとなる」と話します。

担当看護師の野上洋子さん
会議後の時間を大切に
「今日はありがとうございました」。ケアマネジャーの一言で会議は終了し、全員の目線は庭に咲くたくさんの草花に。縁側には白い月下美人の鉢植えが置かれ、きれいな花を咲かせていました。最後に全員がAさんのベッドに集まり医師が声をかけます。
医師:Aさん、今日は酸素の状態も顔色も良いし、大丈夫そうですね。
奥様:「先生が”元気だ”って言っているわよ」(とAさんに声掛け)
Aさん:(目は閉じているが「うんうん」とうなずく)
Aさんのうなずきを見て、全員が思わず微笑みました。
会議中はご本人、奥様、そして医療職者との間に物理的な距離がありましたが、Aさんのベッドサイドに集まったことで距離が縮まり、話しやすい雰囲気が自然と生まれていました。その雰囲気が手伝って、会議中「ないわね」と言っていた要望を奥様から聞くことができ、さらには看護師から1つの提案がされました。

Aさんの会議内容を所長の松井さん(右)と共有する野上さん
訪問看護師:足元にも枕を当ててズレないようにされているんですね。
奥様:ちょっと目を離した時に足とお尻が落ちそうになっていることがあって。足元のベッドサイドレールもう1つ増やせないかしら?
ケアマネ:「これがないと体が落ちてしまうので必要だ」という話し合いができれば可能です。危険があるのであればすぐに対策しましょう。
レンタル事業者:こちらもすぐに手配できます。
奥様:今はこんなにおとなしくしているのにね。私が台所などで何かしているうちに動いているのよ。確かに「動いてね」とは言ったんだけどね(笑)。
次に、Aさんが嘔吐で汚したタオルの洗濯に奥様が追われている状況を知った訪問看護師が、枕元に使い捨てのペットシーツを敷くことを提案します。
奥様:早速やってみましょうかね。ラバーシーツで蒸れて暑いでしょう、と思っていたところなんです。
ケアマネ:それがうまくいって、ラバーシーツをもう少し下に下げられたら、今は2枚敷いているところが1枚で済むから、背中の厚みが緩和されるかもしれませんね。
奥様:暑くなくなるかもね。
ケアマネ:明日、訪問看護師さんが来たら試してみましょう。
訪問看護師:明日は私が参りますのでよろしくお願いしますね。ありがとうございました。これで失礼します。

立ち上げ時より大切に育てているポトスとスタッフ手作りの人形がステーションを見守る
<訪問看護師・野上洋子さんのコメント>
このような会議の機会は在宅療養を進める上でとても重要なものと捉えています。今回は普段会える機会が少ない医師も参加したのですが、その場合は直接病状を確認したり、共有したい観察項目を提案したり、意見をもらえる場にもなります。また、多職種のスタッフも一緒にそのやりとりを共有できるので、利用者さんのより良いケアにつなげていくことができます。
<管理者・松井知子さんのコメント>
今回のケースでは、奥様が看護師であったことから、当初は「訪問看護は必要ない」という判断で退院カンファレンスに私たちは呼ばれませんでした。しかし、病院の退院調整看護師も訪問診療医もケアマネジャーも、訪問看護は必要になると思っており、それぞれの部署から連絡をもらっていたので、ステーションとして「状況は全部把握しており、いつでも動けるようにスタンバイしているので、奥様のタイミングで声をかけてください」とケアマネジャーに伝えていました。その結果、5月9日に退院し、最初の週末に不安が多く見られたため奥様が訪問看護の導入に同意され、早速5月13日から私たちの訪問が始まりました。
介入の際、奥様の同意が得られるタイミングまで待つことも1つのポイントであったと思います。(ケアマネジャーが必要と判断して訪問看護の依頼があるが、本人・家族が必要性を感じず同意していないと、契約に行って断られるというパターンがよくあります)
また、訪問の際は「看護師としてできる」という奥様のお気持ちを尊重し、看護ケアの中心は奥様で、訪問看護師は周辺サポートに徹しました。在宅療養の中で困っていることが何かをアセスメントしたとき、直接ケアではなく、一人残して買い物に出ることが不安、他の親族との関係に悩んで精神的な負担が大きいことなどがあったので、奥様の精神的サポートを優先。訪問時間中に買い物に外出してもらうように配慮したことで、「来てもらうことでこんなに安心なんだ」という言葉が奥様から聞かれました。
さらに、福祉用具の変更はケアマネジャーを通じ迅速に動いていただきました。病状変化を日々医師に報告し、薬剤変更にすぐに対応してもらえたことなど、がんのターミナル期で刻々と状況変化していく中で密な連携が取れ、それぞれの職種が適時に動くことができました。
その結果、本人と奥様が精神的・肉体的苦痛が最小限に過ごせ、人生最後の時間を夫婦二人でゆっくり過ごすことを実現できました。このチームは非常に連携が良く動きが早かったので、3週間の在宅療養を経てAさんはお亡くなりになりましたが、奥様が後悔することなく在宅で看取れたことが本当に良かったと思っています。
<取材を終えて>
「良い会議でした」と訪問看護師の野上さんが振り返るほど、居心地の良い、とても穏やかな時間でした。もちろん、ターミナル期の利用者さんの会議ですから、症状の話等では深刻な場面もありましたが、週5日の訪問看護によって奥様が安心して日々を過ごせるようになったことで、このような雰囲気が生まれたのだと感じました。
穏やかでありながらも、病期から一つひとつの対応にスピード感が必要になることは容易に想像できるので、Aさんの状態や今後予測される変化を各医療職者がしっかり理解していることが前提であると言えます。また、決して事務的でなく、Aさんご家族に寄り添っていることが30分という短い同席時間でもよくわかるケースでした。
Aさんは会議の3日後にお亡くなりになりました。心よりご冥福をお祈りいたします。
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【協力施設】
株式会社みゆき せたがや訪問看護ステーション
154-0017 東京都世田谷区世田谷3-3-3 グランドステータス世田谷2階
TEL 03-6413-7393
管理者:松井知子
在籍看護師12名(内1名は家族支援CNS)
ターミナル・小児の利用者を積極的に受け入れている
URL:http://setagayast.com/index.html
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元同僚が育てていたポトスと手作りの人形がステーションを見守る

スタッフのみなさん/前列中央が松井さん
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取材・編集/メディカルサポネット編集部
(取材日:2019年5月28日)

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