2020.10.28
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支援策の活用とスタッフケアで組織力の充実を

【病院編】コロナ禍で変化にさらされた医療経営の今とこれから

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、医療業界に重大なインパクトをもたらしました。それに伴い、病院も大きな変化を余儀なくされた今、経営という視点からどんな対応が考えられるのでしょうか。株式会社日本経営のNKアカデミー事業で統括マネージャーを務める濱中洋平さんにお話を伺いました。

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
写真/山本 未紗子(株式会社ブライトンフォト) 
編集・構成/メディカルサポネット編集部

■利益率・患者数が最も落ち込んだのは5月

 

2020年の病院経営が極めて厳しいものであったことは周知の通りです。人件費を中心とした固定費は変わらないまま、売上だけが大幅に減少したわけですから、多くの病院が深刻なダメージを受けています。

   

医療政策や医療機関経営に精通した株式会社日本経営NKアカデミー事業統括マネージャーの濱中洋平さん 

 

日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会の合同調査結果データでは、2019年対2020年の医業利益率は、4月分が-17.4%、5月分が-18.4%、6月分が-16.0%、7月分が-4.4%という結果でした。最も厳しい状態だった5月から、夏季賞与の影響が表れた6月を経て、少しずつマイナス幅が圧縮されている状態です。春先に多くの予定手術が延期され、夏になってその揺り戻しが来ていることの表れでしょう。

 

患者数の前年比をみても、外来患者数が5月時点で-28.0%と落ち込みのピークになっていることが分かります。紹介状ありの患者数が-42.2%というのもかなり強烈な数字で、入院の可能性が高い患者さんが大幅に減少し、病床稼働率の低下につながっていることを示しています。実際、入院患者数の数値も4~5月時点で3割ほど少なくなっています。6月以降に回復傾向がみられるものの、年内に前年程度まで患者数が戻ることは期待できないでしょう。もちろん、再び感染拡大に転じた地域では、さらなる落ち込みが予想されます。

 

 

 

 

なお、これまでに示したデータは、平均病床数424床(177件)となっておりの急性期系の病院が多い調査であると推察されます。回復期や慢性期、精神領域では影響が出るまでにタイムラグがあり、急性期病院のおおむね1~2か月後に患者数が減ってくるイメージです。実際、独立行政法人福祉医療機構が実施した病院類型別のDI(景気動向指数)調査結果を確認すると、一般病院が9月ごろから医業収益・医業収支が改善すると見込んでいるのに対し、療養型病院と精神科病院はまだまだ低下していくと予想していることが分かります。

 

出典:独立行政法人福祉医療機構「病院経営動向調査・社会福祉法人経営動向調査(2020年6月調査)」

 

こうした状況において、直近のハードルとなるのが冬季賞与でしょう。資金繰りについては一時的に落ち着きを見せている病院も多いですが、年末を無事に乗り越えるためのキャッシュフローを組み立てなくてはなりません。現在のところ、コロナ禍に見舞われている医療機関を支援すべく、無担保無利息など条件の緩やかな金融支援や、各種補助金の制度が複数存在しています。よほどキャッシュにゆとりがあるのであれば話は別ですが、基本的にはこうした支援策を積極的に活用し、資金ショートを確実に防ぐレベルまで早期に資金手当てをしておく必要があります緊急事態宣言が出された4月、5月ごろには、新規融資の申し込みが殺到し、融資実行まで2~3カ月程度かかるケースもあったようです。結果的に資金需要的に必要無かったのであれば、その時に返済すればいい訳ですから、とにかく資金は十分に手当てしておいていただきたいと思います。

 

そこで大切になってくるのが、事業計画書の作成。金融支援を受けるために欠かせない書類ですが、こうした状況だからこそ事業運営上は複数のパターンを想定し、作成しておくことが大切です。ベースとなる1本に加えて、それより状況が良かったケース、そして悪かったケースについても検討することが必要でしょう。特に重要なのが「最悪の事態」を想定することで、絶対に資金繰りが滞らないように予防的な一手を打っておきたいものです。

 

 「最悪の事態を防ぐ一手を打つために、複数のパターンの事業計画書を作ることが大切」と話す濱中さん

 

病棟、そして病院のあり方を根本から見直すとき

 

病床稼働率が低下し、入院や予定手術が延期されるケースもまだまだ多い中、「重症度、医療・看護必要度」が低下傾向にある病院は少なくありません。2020年度の診療報酬改定を踏まえることはもちろんですが、こうした数値が例年通りにまで回復しない可能性も見込んで、看護配置や病棟編成を考えることが必要です。なお、新型コロナウイルスの影響が考慮され、「重症度、医療・看護必要度」などの施設基準の一部に関する経過措置の期限は2020年9月30日から2021年3月31日まで延長されました。しかし、年度末に再延長が行われる可能性は低いでしょうから、これに安心せず早々に検討を始めなくてはなりません。

 

これまで地方部の急性期病院では看護配置基準7対1を保てないケースが散見されましたが、昨今の状況では都市部でも厳しくなっている印象です。一般病棟の入院基本料を見直し、10対1への転換を視野に入れたほうがいい病院もあるでしょう。高度急性期病棟を縮小したり、地域包括ケア病床を拡大したりするほか、院内外の連携体制を強化して対象患者を集中的に確保するといった方向性も考えられます。当然、病棟の機能を下げれば看護配置人員の余力が発生することから、採用人数のセーブや雇用形態の変更の必要も出てくるかもしれません。

 

もう一点、医師の業務量への認識が変化していることも、コロナ禍において注目に値する事象です。医師転職研究所(株式会社メディウェル)が2020年5月17~28日に実施したアンケート調査(医師2,408人が回答)によると、半数以上が「業務量は減った」と感じていることが明らかになりました。診療科別にみると、健診・人間ドック、耳鼻咽喉科、消化器内科においてその傾向が顕著に表れています。

 

※30名以上回答があった診療科のみ

 

このこと自体はやむを得ないことですが、医師の業務量が減ったことにより、働き方改革の取り組みが緩慢になっているケースがあります。しかし、ある種の余裕が生まれているこのタイミングだからこそ、医師の働き方改革を積極的に推進していくべきでしょう。患者数が落ち着いているうちに、院内の医師にも積極的な協力を求め、労働時間の調査やタスクシフトの検討を実施しましょう。

 

働き方改革は、地域医療構想を実現するために欠かせない要素の一つとなっています。地域における医療需要を把握し、自院がそこでどのような役割を果たすべきか考え、その役割を働き方改革の時間外上限規制を満たした上での医師数で対応していく体制を整えなければなりません。単純に「残業を減らす」といった小手先の手段ではなく、病院のあり方そのものを踏まえた高度な経営判断が必要となります。時間外労働の上限規制が適用となるのは2024年4月ですから、残された時間が限られていることを意識し、気を引き締めて取り組むべきテーマです。

 

出典:第424回中央社会保険医療協議会総会(厚生労働省)

 

組織としての力が本当に試されるのは「数年後」

 

医療従事者に対する風評被害なども数多く報道されましたが、病院で働く人の多くは異常な環境下での労働に強いストレスを感じています。通常にも増して、スタッフのメンタルケアに注力すべき時期だといえるでしょう。ここでのポイントは、スタッフに安心感を提供することです。特別手当や賞与といった点ばかり注目しがちですが、「当院のスタッフが感染した場合は何があっても守る」というメッセージを力強く発信し、待機ホテルの手配など具体的な方策とともに提示することが安心感につながるでしょう。

 

そもそも医療は労働集約型産業ということもあり、「人と人とのつながり」や「感情」を意識した組織作りが他業種と比べても特に大切です。そこには経営者・管理職クラスの考え方や言葉遣い、立ち居振る舞いなども大きく影響するので、これを機にそうした部分も振り返る必要があるかもしれません。コロナ禍という厳しい状況だからこそ、ウェットな面も含めた総合的な組織力が問われているのです。

 

一方で、最も厳しい事態が訪れるのはもう少し先、という見方もできます。多くの支援策もあり、現時点では病院はかなり強固に守られている状態です。新型コロナウイルスの影響が落ち着き、そうしたサポートが一区切りしたとき、経営が立ち行かなくなる病院が出てくるかもしれません。補助金を得て束の間の安心感から現実に目を背けるのではなく、およそ2~5年後に訪れるであろう「最大の試練」に備えて今から組織力を充実させておくことが、病院経営者に託された役割なのです。

 

濱中洋平(はまなか・ようへい)
株式会社日本経営NKアカデミー事業統括マネージャー

専門分野は、医療政策、医療機関経営。 2006年、株式会社日本経営に入社。病院経営コンサルティング部に所属し、 主に経営改善、DPC対策、経営戦略策定、経産省プロジェクト等に従事。 2012年に他コンサル会社へ出向し、主に医療機関のコスト適正化コンサルに従事。 2013年に医療系IT企業へ出向し、医師向けメディア事業開発、医療機関向けシステム開発等に携わる。 2014年、メディキャスト株式会社に所属し、主に医療関連企業向けサービス開発、各種講演等に従事。 2016年にNKアカデミー事業部⽴ち上げを担い、医療経営人材等の育成事業開発に従事。 2018年に異動し、株式会社日本経営所属。

 

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