2019.02.19
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【他科への手紙】漢方診療科→カゼ診療を行う先生方

メディカルサポネット 編集部からのコメント

西洋医学的に、カゼのウイルスに直接効く薬はありません。患者に対して漢方薬を処方される先生も多いのではないでしょうか。その際、「熱いカゼ」なのか「冷えるカゼ」なのか風邪のタイプに合わせた使い分けが必要です。飯塚病院東洋医学センターの吉永亮先生が、漢方医学における「冷えるカゼ」について解説されています。

 

日頃より患者様をご紹介頂き、ありがとうございます。他科から当科への紹介は、一般的治療に難渋している症例が多いことから、漢方医として非常にやりがいを感じます。

 

漢方薬の普及に伴って、カゼの治療に漢方薬を活用している先生も多いかと思います。しかしながら、「カゼに葛根湯」と定石通りの治療を行っても、よく効いた! と即効性を実感しづらいことも多いのではないでしょうか。私はその一番の原因は、本来、葛根湯の適応とならない「冷えるカゼ」に葛根湯を投与していることだと推測します。今回はその「冷えるカゼ」を紹介させて頂きます。

 

ウイルスが生体内に侵入すると、程度の差はあれ、最初に悪寒を自覚します。発症後間もない悪寒のある期間が、葛根湯やインフルエンザの治療に有名な麻黄湯の適応になります。それらの漢方薬は、発汗を促して治癒に向かわせます。ただし、この悪寒は、悪寒が存在している同時かその後に、咽頭痛や発熱(体温計の温度ではなく、自覚的な熱感があれば発熱)、顔面紅潮などの漢方医学的な「熱」があることが前提になっていることに注意が必要です。「冷え」を重要視する漢方医学では、悪寒から「熱」ではなく、逆に「冷え」を感じてしまう「冷えるカゼ」を鑑別する必要があります。

 

この「冷えるカゼ」の治療には、闘病反応が弱く、治癒に必要な温熱産生ができない病態であると考えて、生体を強力に温める作用がある麻黄附子細辛湯が適応になります。高齢者、基礎疾患がある人、冷え性の人、疲労が蓄積している人などがカゼをひいた場合は、この「冷えるカゼ」を発症しやすいようです(小児は基本的に熱性であることから稀)。このタイプは、青白い顔をして、チクチクとした軽い咽頭痛や水様性鼻汁があります。微熱があっても、四肢を触診するとひんやり冷えていて、倦怠感があることが特徴です。

 

筆者も昨年、学会や原稿の締め切りが重なってカゼをひいた際に手足が冷えて倦怠感があったため、「冷えるカゼ」と診断して麻黄附子細辛湯を内服したところ、著効しました。また、ある1年間に発熱・カゼ症状で当科を臨時受診した当院職員計70名に処方された漢方薬についての調査では,麻黄附子細辛湯を含む治療が約2割を占めていました。現代では、仕事やストレスによる疲労の蓄積、運動不足、食生活などが影響して、麻黄附子細辛湯の適応となる「冷えるカゼ」の増加を実感します。この漢方薬で一度治療すると、「またあの漢方薬がほしい」と再び催促されることも多いです。

 

ぜひ、「熱」が目立たない「冷えるカゼ」に着目して、今シーズンのカゼ診療を行ってほしいと思います。

  

結び

水様性鼻汁、チクチクとした咽頭痛、倦怠感、四肢の冷えがある場合、「冷えるカゼ」と考えて、麻黄附子細辛湯を考慮して下さい。

 

執筆:吉永 亮 (飯塚病院東洋医学センター漢方診療科)

  出典:Web医事新報

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