2019.02.08
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【他科への手紙】麻酔科→乳腺外科

メディカルサポネット 編集部からのコメント

昭和大学の上嶋浩順先生が「超音波ガイド下末梢神経ブロックによる局所麻酔薬」を推奨されています。乳癌術後の転移・再発に影響する局所麻酔薬ではなく、患者の生活の質向上や予後改善につながることが期待できるそうです。

 

近年、乳癌患者が増加している現状で乳腺外科医の先生はいつもお忙しくされていると思います。手術だけではなく化学療法や放射線療法などあらゆる治療法を駆使して患者の治療に真摯に打ち込むお姿、本当に尊敬しております。

 

さて、乳腺外科の先生は局所麻酔薬が乳癌術後の転移・再発に影響することはご存知でしょうか?我々麻酔科領域では、末梢神経ブロックの1つである傍脊椎ブロックに使用される局所麻酔薬に伴う乳癌術後の転移・再発の発生率の低下が麻酔科の世界的有名な雑誌で2006年に報告されました1)。局所麻酔薬を使用することにより癌に悪影響を及ぼすと言われている全身麻酔薬の術中使用量が減少することが一番の要因だと言われています。衝撃的な報告でした。

 

また同時期に並行して超音波を用いた超音波ガイド下末梢神経ブロックの手技も発展してきました。先ほど紹介させて頂いた傍脊椎ブロックは超音波を使用せずに解剖学的目標を用いて行うランドマークで昔から行われてきましたが、安全性・確実性を向上させるために現在では傍脊椎ブロックも超音波ガイド下で行われるようになりました。

 

ただし、この傍脊椎ブロックは局所麻酔薬注入部位が体表から深い部分に位置するために難しい末梢神経ブロックの1つとして報告されており、また腋窩領域の痛みには効果的でないことも報告されていました2)。その問題を解決するために前胸部外側の良好な鎮痛を図ることができる胸筋神経ブロック(PECSブロック)が2011年に報告されました3)。PECSブロックは腋窩領域まで効果的な鎮痛を得ることができます4)。しかも運動神経である胸筋神経を遮断することにより大胸筋や小胸筋を拘縮でき、術後のリハビリテーションにも効果的な末梢神経ブロックだと報告されています5)。

 

つまり超音波ガイド下末梢神経ブロックによる局所麻酔薬の使用は、周術期だけではなく患者の生活の質向上や予後改善につながります。乳腺外科の先生にとって麻酔科医は麻酔をかける麻酔屋と思っているかもしれませんが、我々も乳癌患者の治療の手助けをしていきたいと思っていますので、超音波ガイド下末梢神経ブロックによる局所麻酔薬の使用にご理解頂けると幸いです。

  

【文献】

1) Exadaktylos, et al:Anesthesiology. 2006;105 (4):660-4.

2)Kulhari S, et al:Br J Anaesth. 2016;117(3): 382-6.

3) Blanco R:Anaesthesia. 2011;66(9):847-8.

4) Ueshima H, et al:Br J Anaesth. 2017;118(3): 439-43.

5) Hara E, et al:Open Journal of Anesthesiology. 2017;07, Article ID:80026.

 

結び

乳癌手術に超音波ガイド下末梢神経ブロックを行うことで、患者の生活の質向上や予後改善のお手伝いをさせて下さい。

 

執筆:上嶋浩順 (昭和大学医学部麻酔科講師)

  出典:Web医事新報

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