2019.02.06
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肺聴診が現在の診療で持つ意味は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

リットマンやウェルチアレンなど、ブランドにこだわって聴診器を選ばれている方も多いのではないでしょうか。フランスで聴診器が発明されたのは1816年。その後200年にわたって改良を続けてきました。現在使われている聴診器は1967年にドイツで開発されたものがベースとなっています。医療機器や技術が発達しても無くなることのないのが聴診です。近年は電子聴診器の開発も盛んです。近い将来、聴診も「デジタルが当たり前」の時代が来るかもしれませんね。

 

肺聴診が現在の診療でどのような意味を持つかを,結核予防会・工藤翔二先生にお聞きしたいと思います。

【質問者】

長坂行雄 洛和会音羽病院 洛和会京都呼吸器センター所長

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【回答】

【聴診器を通じて医師と患者の信頼関係をつくる重要な役割を果たしている】

  

ヒポクラテスの時代から続く「身体の中の出来事を知りたい」という医師の願望は,1761年のアウエンブルガー(Auenbrugger,オーストリア)による打診法の発明で幕を開ける。肺聴診はラエンネック(Laennec,フランス)による1816年の聴診器の発明と,その3年後の「間接聴診法」に始まる。次のエポックは,1895年のレントゲン(Röntgen,ドイツ)によるX線の発見であった。さらに,1972年のハウンスフィールド(Hounsfield,英国)とコーマック(Cormack,米国)によるコンピューター断層撮影(computed tomography:CT)の発明とその後の高分解能CT,さらに1966年の池田(日本)による気管支ファイバースコープの開発とそれを用いた気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL),経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy:TBLB)など,様々な技術的進歩に支えられて,現在の呼吸器診断は行われている。

 

ラエンネックの聴診器発明から200年経った今,現在の呼吸器診断の中で,肺聴診はどのような意味を持っているのだろうか。肺聴診に科学の光を与えたのは,1978年,フォジャクス(Forgacs,英国)による「lung Sounds」であった。その2年前,1976年には,米国の2人の教授,マーフィー(Murphy)とラウドン(Laudon)によって,国際肺音学会(International Lung Sounds Association:ILSA)が設立された。1985年に日本で開催された第10回ILSAカンファランスでは,日,米,英,独,仏の5カ国によって聴診用語の統一が図られ,2018年には第42回ILSAカンファランスが開催された。ILSA設立後今日まで,1000編を超える論文が発表され,肺聴診音の発生機序,肺内の音の伝達機構など,多くのことが明らかにされた。これは,コンピューター技術と音響科学の進歩を背景に,肺聴診音を客観的に記録し,分析が可能になったことによる。

 

肺聴診では,病的状態の存在診断が確認できる,病変の局在診断ができる,病態特異性があるといった特徴がある。とりわけ,画像診断では難しい気道系疾患での有用性は高い。また,間質性肺疾患でも胸部X線所見の異常出現前に,捻髪音(fine crackles)を認める報告もある。そして,何よりも,肺聴診は非侵襲的であり,聴診器を通じて医師と患者の信頼関係をつくる重要な役割を果たしている。

 

最後に今から82年前の1936年,第32回合衆国結核学会のJames J. Waringによる会長講演「聴診の変遷」の結びの言葉を記したい。「数え切れない観察者によって組み立てられた数世紀にわたるベッドサイドの経験は,光と影の非現実世界を通してX線の幻影を追い求める中で,忘れ去られるべきだろうか? その答えは断じて否である! 理学的診断の歴史は,優れたものは永遠に失われることはないことを,我々に教えている。聴診は打診の価値を高め,X線は両方の価値を高める。“聴いて,見て,そしてまた聴く”という聴診器を使う者たちの合い言葉を掲げよう」

   

【回答者】

工藤翔二 結核予防会理事長

 

執筆:

長坂行雄 (洛和会音羽病院 洛和会京都呼吸器センター所長)

工藤翔二 (結核予防会理事長)

    

 出典:Web医事新報

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