2019.02.05
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マイコプラズマのマクロライド耐性は臨床上どの程度気をつける必要があるのか?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

膵癌の治療における外科的切除は「膵癌に対する唯一の根治的治療」から「集学的治療の一環として膵癌に対する唯一の根治的治療」へと変化していると関西医科大学・里井壯平先生は述べられてます。日々進化している医療の世界。治療方法についても「絶対」ではなく「今の時点でのベスト」と捉え、医師の一人一人がどの方法を採るかが問われる時代になりました。

 

近年,マクロライド耐性マイコプラズマについての報告を多く見かけます。臨床現場でどの程度気をつける必要があるのでしょうか。抗菌薬選択について,マクロライド系抗菌薬,テトラサイクリン系抗菌薬,キノロン系抗菌薬の使いわけはどのようにすべきなのでしょうか。また,in vitroのマクロライド耐性とその臨床効果の相関については知見が蓄積されているのでしょうか。杏林大学・倉井大輔先生にご回答をお願いします。

【質問者】

荒岡秀樹 虎の門病院臨床感染症科医長

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【回答】

【48~72時間以内に臨床的な改善がない場合に耐性を疑う】

  

肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae:Mp)は,上・下気道感染を起こし,小児~若年成人では市中肺炎の主要原因となります。Mp肺炎の病態機序は,Mpが産生する過酸化水素などによる直接的な気道上皮障害と,ホストの過剰な免疫応答による間接的な反応の両者が影響しています。

  

マクロライド系抗菌薬がMp肺炎の標準的な抗菌薬で,細胞壁を有しないMpには,βラクタム系抗菌薬は無効です。マクロライド系抗菌薬は,細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合し,蛋白合成を阻害し抗菌効果を示します。このリボソーム50Sサブユニット中の23S rRNA遺伝子内の一部の点変異が起こると立体構造が変化し,マクロライド耐性Mpとなります。

  

近年,アジア地域でマクロライド耐性Mpが検出され,その頻度はきわめて高い状況です。わが国の小児におけるマクロライド耐性Mpの検出率は低下傾向ですが,2015年でも依然として約40%と報告されています。Mpの培養検査は特殊な培地が必要で培養期間も長いため,臨床現場では病原体診断や耐性検査にはほとんど用いられていません。咽頭ぬぐい液を用いたMp遺伝子を検出する方法の中には,Mp診断と同時にマクロライド耐性の遺伝子変異も検出する体外診断法も開発されてきています。しかし,これらのマクロライド耐性検査は日常臨床では一般的ではありません。

 

マクロライド耐性Mpが高頻度に検出されている状況下,2017年に改訂された日本呼吸器学会のガイドラインでも,Mp肺炎にはマクロライド系抗菌薬が第一選択でした。その理由は,Mp肺炎は,マクロライド耐性菌であってもマクロライド系抗菌薬が臨床的に有用な場合が存在し,重症化する患者も少ないためだと思われます。

 

わが国の観察研究では,入院した成人Mp肺炎に,マクロライド・テトラサイクリン・キノロン系薬剤のいずれで治療を開始しても,入院期間や30日死亡率に有意な差は認められなかったとの報告があります。そのため,軽症Mp肺炎では初期抗菌薬の失敗が悪影響を及ぼす可能性は少ないです。マクロライド感受性Mpの場合にマクロライド系抗菌薬を投与すると48~72時間以内に解熱することが多いため,治療開始後48~72時間以内に解熱しない場合にマクロライド耐性Mpを疑い,テトラサイクリン・キノロン系抗菌薬に変更することが現実的な対応と考えられます。

 

結論として,軽症Mp肺炎ならマクロライドを投与し,48~72時間以内に臨床的な改善がない場合に耐性菌を疑い,抗菌薬の変更を検討します。

   

【回答者】

倉井大輔 杏林大学医学部付属病院感染症科准教授

 

執筆:

荒岡秀樹 (虎の門病院臨床感染症科医長)

倉井大輔 (杏林大学医学部付属病院感染症科准教授)

    

 出典:Web医事新報

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