2019.02.03
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心筋障害に注意すべき筋疾患は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

奈良県立医科大学の杉江和馬先生によると、筋疾患の中でも,心筋障害の程度や出現様式は様々な上に、問題となることも少なくないそうです。さらに、現時点では、発症機序や治療法が未確立なものも多い中、不安にかられている患者にどう説明するか、医療最前線の医師に肩にかかってきます。健康(心身ともに健やかな状態であること)のプロフェッショナルとして、心のケアにもご留意いただければ幸いです。

 

心筋障害に注意すべき筋疾患にはどのようなものがありますか。奈良県立医科大学・杉江和馬先生にご教示をお願いします。

【質問者】

山下 賢 熊本大学大学院生命科学研究部脳神経内科学准教授

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【回答】

【筋ジストロフィーや代謝性ミオパチーでは,骨格筋より心筋の障害が顕著で早期治療を要する場合がある】

 

筋疾患において,心筋障害が問題となることは少なくありません。どのような筋疾患に心筋障害を合併しやすいかを知ることはきわめて重要です。中には,骨格筋障害よりも心筋障害が主症状となり,早期に治療を要して予後を決定する場合があります。心筋障害の存在が筋疾患の診断の大きな手掛かりになることもあります。一方で,確定診断がなされないまま,心筋障害を他の内科で経過観察されている患者も存在すると思われます。心筋障害に注意すべき筋疾患として,筋ジストロフィーや代謝性ミオパチー(Pompe病,Danon病)が挙げられます。

 

(1)筋ジストロフィー

筋ジストロフィーは,骨格筋の壊死・再生を主病変とする進行性の筋力低下を呈する遺伝性筋疾患の総称です。

 

最も頻度の高いDuchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)とその軽症型のBecker型筋ジストロフィー(Becker muscular dystrophy:BMD)は,細胞骨格蛋白であるジストロフィンをコードするジストロフィン遺伝子変異によるX連鎖劣性遺伝病です。DMDは5歳以下で下肢筋力低下を発症し,10歳までに車椅子生活,20歳前後で心不全や呼吸不全で死亡します。BMDは通常30歳頃に発症し,緩徐進行性です。いずれも拡張型心筋症を合併することがあり1),BMDでは心筋障害が先行することがあります。また,保因者である女性では,筋力低下はなく心筋症だけを呈することがあります。心筋障害にアンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬やβ遮断薬が有効とされています。

 

このほかに,肢帯型や福山型先天性筋ジストロフィー,筋強直性ジストロフィーでも心筋障害をきたします。

 

(2)Pompe病

Pompe病(糖原病2型)は,酸性αグルコシダーゼ(acid alpha-glucosidase:GAA)をコードするGAA遺伝子変異による常染色体劣性遺伝病です。解糖系酵素であるGAA欠損により,骨格筋や心筋,呼吸筋にグリコーゲンが蓄積して障害を起こします2)。

 

乳児型は乳児早期にフロッピーインファントで発症し,肥大型心筋症や心不全を呈します。遅発型は小児~成人期に筋力低下で発症し,成人では心不全症状は目立ちません。診断には濾紙血でのGAA活性測定が有用です。現在,治療として酵素補充療法が開発され,心筋障害に強い効果を示します。

 

(3)Danon病

Danon病は自己貪食空胞性ミオパチーの一型で,ライソゾーム膜蛋白LAMP2をコードするLA MP2遺伝子変異によるX連鎖優性遺伝病です3)。LAMP2はオートファゴソームとの融合に関与し,オートファジー機能不全が推測されます。男性では心筋症,ミオパチー,精神遅滞を,女性では心筋症を呈し,男性は10歳前後で発症し20歳頃死亡,女性は30歳までに発症し40歳頃死亡します。肥大型心筋症やウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome:WPW症候群)が特徴で,死因は心不全や突然死です。筋線維内に筋細胞膜の性質を有する特異な自己貪食空胞(autophagic vacuoles with sarcolemmal features:AVSF)を認めます。Danon病の心筋症は致死性であり,根本治療は現在,心臓移植のみであるため,心不全発症後2年以内の移植が望まれます4)。また,カテーテルアブレーションや植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)埋込み術などを早期に考慮する必要があります。

 

以上のように,筋疾患の中でも,心筋障害の程度や出現様式は様々です。現時点では,発症機序や治療法が未確立なものも多く,今後の研究の発展が大いに期待されます。

 

【文献】

1) Verhaert D, et al:Circ Cardiovasc Imaging. 2011;4(1):67-76.

2) Kishnani PS, et al:J Pediatr. 2006;148(5):671-6.

3) Sugie K, et al:Neurology. 2002;58(12):1773-8.

4) Sugie K, et al:Int J Mol Sci. 2018;19(11). [Epub ahead of print]

 

【回答者】

杉江和馬 奈良県立医科大学脳神経内科学講座教授

 

執筆:

山下 賢 (熊本大学大学院生命科学研究部脳神経内科学准教授)

杉江和馬 (奈良県立医科大学脳神経内科学講座教授)

    

 出典:Web医事新報

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