2019.01.28
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高齢者喘息に対する治療のポイントは?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

近畿大学の岩永賢司先生が、「中年期で発症する喘息は稀」という偏見は危険と注意喚起を促されてます。患者側にも医療者からのアドバイスを守ることができない傾向が見られますので、治療だけでなく、医師は患者とのコミュニケーション力も試されるところです。

 

人口の高齢化に伴い,長期罹患の高齢喘息患者だけでなく,高齢発症の喘息患者も増加しており,喘息死患者における高齢者の占める割合が高いことも注目されています。高齢者では喫煙の関与により慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併や他臓器疾患の合併率も高く,認知症の問題も指摘されています。高齢者の喘息患者に対して注意すべきこと,また治療法について検討されるべき点,そして適切な治療法についてご教示下さい。近畿大学・岩永賢司先生にご回答をお願いします。

【質問者】

多賀谷悦子 東京女子医科大学呼吸器内科学教授/講座主任

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【回答】

【服薬アドヒアランスの維持が要】

高齢者喘息では,若年期に発症して持続するタイプと中年期以降に発症するタイプとに分類され,60%以上は50歳以降に発症します。若年発症では,環境と遺伝子,アレルギー,Th2炎症などが関わりますが,中年発症ではエピジェネティクス(酸化ストレスや長年にわたる環境中の粉塵や紫煙の曝露),加齢による自然免疫の変化などにより,Th1や好中球性炎症などが関わってくるようになります。また,病状の面では発症年齢が高いほど重症化する傾向も認められます。

 

高齢者では,喘息と適切に診断されない場合があることに注意しなければなりません。夜間や日中の呼吸困難,喘鳴,咳嗽などの症状を,高齢者は加齢によるものと思い込んでいることがあります。また,日常活動の自己制限,社会的孤立,うつなども影響したり,自覚症状が併存する慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)やうっ血性心不全などによるものと誤認していることもあります。医療者側の問題点としては,「中年期で発症する喘息は稀」という誤った概念があったり,重症度が過小評価されたりすることです。さらに,COPD,うっ血性心不全,肺癌,逆流性食道炎,気管支拡張症,上気道閉塞,誤嚥,気道異物,過換気症候群,パニック障害,血管炎などとの鑑別も重要です。特にCOPDに関してはオーバーラップすることがあるために,診療の手引きが発行されました。

 

高齢者喘息の治療においては,併存症治療薬の喘息への影響に注意します。高血圧症に対するβ遮断薬・アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬や,緑内障に対する局所β遮断薬,関節炎に対する非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)などです。逆に抗喘息薬が併存症を悪化させる場合もあり,β刺激薬による不整脈,振戦,高血圧,低カリウム血症や,テオフィリン薬による胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD),振戦,不眠,さらにステロイド薬による骨粗鬆症の悪化などに要注意です。

 

高齢者では病識の乏しさや薬剤の副作用を心配することで治療を中断してしまい,結果的に治療レジメンの複雑化をまねいてしまう可能性があります。さらに,視聴覚や筋力,認知機能などの低下によって医療者からのアドバイスを守ることができず,服薬アドヒアランスの低下をまねいてしまうことに注意します。

 

高齢者喘息においても吸入ステロイド薬は長期管理薬の要です。長期に正しく使用してもらうためには,吸入薬デバイス選択は鍵になります。吸気流速が十分でない場合はエアゾール製剤(pressurized metered dose inhaler:pMDI)を選択し,手指筋力の低下があればpMDIに専用補助具をセットします。噴霧と吸気が同調できなければドライパウダー製剤(dry powder inhaler:DPI)を選択するか,pMDIにスペイサーを併用することなどが勧められます。DPIとpMDIいずれの製剤も使用困難な場合は,介助のもとでブデソニド吸入懸濁液をネブライザーで吸入する方法が選択できます。もちろん,繰り返し吸入指導を行って,高齢患者の吸入手技やアドヒアランスの維持を得るように,医療者はできる限り努力しなければなりません

 

【回答者】

岩永賢司 近畿大学医学部内科学教室 呼吸器・アレルギー内科部門准教授

 

執筆:

多賀谷悦子 (東京女子医科大学呼吸器内科学教授/講座主任)

岩永賢司 (近畿大学医学部内科学教室呼吸器・アレルギー内科部門准教授)

    

 出典:Web医事新報

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