2019.01.24
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若年(AYA)世代がん患者に対する妊孕性温存療法について

メディカルサポネット 編集部からのコメント

晩婚化に伴い、第1子出産平均年齢は上がり続け、現在は30歳を超えています。なお、30歳代後半から40歳代にかけては女性のがん患者が増加する傾向が見られます。いざ、出産しようと思っている矢先に卵巣がんや子宮がんを告知されるケース……ありえることです。しかし、がんのできた部位や進行の状況によっては、子宮・卵巣の機能不全や喪失に対する配慮で妊孕能温存が期待できる様々な治療が実施されています。妊孕能を残す治療について古井辰郎先生が紹介されています。妊婦およびご家族の方の不安に寄り添えるよう、ぜひご一読ください。

 

若年(adolescent and young adult:AYA)世代がん患者に対する妊孕性温存療法は,どのような場合に勧められますか。岐阜大学・古井辰郎先生にご回答をお願いします。

【質問者】

桑原 章 徳島大学大学院医歯薬学研究部産科婦人科学分野准教授

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【回答】

【情報提供や,がん診療と生殖医療の連携が重要】

(1)生殖臓器に対する手術,性腺毒性を伴う薬物治療,骨盤放射線照射等によりがん治療後の妊孕性低下が生じる場合

妊孕性温存治療には,婦人科がんに対する温存手術,骨盤放射線照射に対する卵巣遮蔽・移動術,化学療法等による性腺機能低下に対する生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)を用いた配偶子や胚の凍結保存などがあります。

ARTの発展・普及や国内外の各種ガイドライン,第3期がん対策推進基本計画(以下,第3期基本計画)などにより,がん診療における生殖医療へのニーズが増加しています。しかし,すべての若年がん患者が,ARTによる妊孕性温存療法の対象となるわけではありません。

 

(2)がん治療を最優先とし,治療や再発リスクに悪影響が少ない場合

2017年に日本癌治療学会により発刊された「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン」(以下,日本癌治療学会GL)では,総論の冒頭に「1. がん治療医は,何よりもがん治療を最優先とする」と記載されています。これは,妊孕性温存療法の実施が,がん治療の予後に影響を与える可能性が考えられるためです。具体的には,原疾患に対する治療の遅れ,卵巣刺激や採卵などが原疾患に与える影響についてなど,原疾患の主治医と生殖医療専門医が十分に情報を共有し,患者にも正確に伝えてその適応を判断する必要があります。

 

(3)がんの予後が良好である場合

日本癌治療学会GLでも,原疾患の予後が妊孕性温存療法の適応の大きなポイントとして記載されています。このことは,単なる死後生殖や子の福祉の問題など倫理的側面による理由だけでなく,予後不良症例では,妊孕性温存療法を行うための十分な時間的余裕がない場合が多いこと,がん治療が長期間にわたり継続する可能性が高く実際に妊娠をめざすに至る可能性が低いこと,治療の奏効によりいったん治療が終了したとしても厳重な経過観察を必要とするため,妊娠によって検査方法などに制限が加わることが望ましくないことなどの理由が考えられます。

 

(4)がん治療後の妊娠の可能性や周産期リスクなどから合理性を検討

治療後の経過が良好で妊娠が許可されるまで,2~5年程度を要することが一般的です。この時点での患者の年齢,内科合併症等による周産期リスクなども,患者の意思決定支援を行う上での重要なポイントと思われます。

National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインには「すべてのがん患者に対してがん治療開始前に妊孕性温存療法の情報が提供されるべき」と記載されており,わが国でも日本癌治療学会GLや第3期基本計画でも,情報提供やがん診療と生殖医療の連携の重要性が述べられています。この実践には,上記に加え,ARTの医学的限界や経済的側面なども加味した総合的な情報を医師間の連携だけでなく,看護,心理,薬剤などのチームによって共有し,妊孕性温存の実施を慎重に検討し,時には納得した非選択,特別養子縁組制度の利用などまで含めた自己決定を支援する体制構築が重要と考えられます。

 

【回答者】

古井辰郎 岐阜大学大学院医学系研究科 産科婦人科学分野臨床教授

 

執筆:

桑原 章 (徳島大学大学院医歯薬学研究部産科婦人科学分野准教授)

古井辰郎 (岐阜大学大学院医学系研究科 産科婦人科学分野臨床教授)

    

 出典:Web医事新報

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