2018.11.29
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【他科への手紙】外科→消化器内視鏡科

メディカルサポネット 編集部からのコメント

20代社員が上司にタメ口をきいてしまう背景に、人間関係を『上下』ではなく、親しいか疎遠かの『親疎』で見る傾向があるそうです。年代によって言葉の解釈や重みが違います。さまざまな年代の方を担当する医療現場では、患者に聞こえる発言はオフィシャルなものと意識し「そういうつもりじゃなかった」とならないよう「うかつな説明になってはいないか?」を常に意識する必要がありそうです。

 

先生方には日頃より手術適応の患者をご紹介頂きまして有難うございます。胃癌については近年、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)により胃を温存できる患者が増えていることは、大変に喜ばしいことと思っております。一方で、ESDの適応外として当科にご紹介を頂く患者に高齢の方が増えてきているようにも感じています。

 

現在、胃癌治療ガイドラインでは、ESD適応外の方は年齢に関係なく胃切除が適応とされており、貴科でも患者に「内視鏡治療では治らないので外科で手術をするのがよいでしょう」という説明をして頂いているかと思います。このような患者の中には、深達度がわずかに深い、組織型が未分化型、脈管侵襲のみが認められるなど、適応病変をわずかに超えるだけの方がおられると思います。ご存知のことと思いますが、このようなわずかにESD適応外の方々は、ESDだけでも90%程度の治癒が見込め、胃切除の追加で期待できる治癒の上乗せ効果は5~10%かと思われます。

 

我々外科医は、わずかな確率であっても手術で根治を追求するのはもちろんですが、同時に手術に伴う合併症・術後のADLの低下も考慮して手術適応を考えることが、特に高齢者の方には重要だと考えています。たとえば、85歳男性、糖尿病内服薬を使用、ADLは部分介助という患者に胃全摘術を行った場合、日本の95%以上の手術症例をカバーしているNational Clinical Database(NCD)のデータからは、手術関連死亡割合が2.5%程度と算出されます。また、米国外科学会のデータベースでは、40%以上の割合でリハビリ転院が必要になると算出されます。これらのリスクは決して低いとは言えず、患者の中には、根治の可能性をわずかに犠牲にしてでも、ESDを選択される方もおられるのではないかと思っています。

 

つきましては、ご高齢であったり、手術リスクが高かったりする方で、わずかにESD適応外となるような場合には、「ESDは適応外です」というご説明よりは、「再発の可能性は少し上がると思われるが、手術のリスクも合わせて外科と相談した結果、ESDを行う可能性もある」旨ご説明を頂けると、「一度無理と言われた治療をするのですか?」というような患者の心配も減り、当科での説明もよりスムーズに聞いて頂けるのではないかと思っております。

 

今後はさらに高齢者・併存疾患の多い患者が増えてくると思われますので、標準治療を外れる部分においても、今まで以上に緊密な連携を取りながらより良い選択を行っていければと思っております。引き続きどうぞよろしくお願い致します。

  

結び

高齢者の胃癌治療では、再発と手術・術後のリスクを比較した上で、外科的・内視鏡的な治療選択についてご相談させて下さい。

  執筆:瀬良 誠 (福井県立病院救命救急センター医長)

 

 出典:Web医事新報

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