メディカルサポネット 編集部からのコメント糖尿病食事療法のひとつとして低炭水化物食が挙げられているものの、高蛋白質・高脂質食になること、そして継続の難しさが懸念されています。一方、SGLT2阻害薬は血糖のみならず,血圧,脂質,尿酸値も改善し,心血管イベント・腎イベントを抑制してくれる可能性があります。とはいえ、食事・運動療法の継続も不可欠です。 |
炭水化物制限食とNa依存性グルコース共輸送体(sodium-dependent glucose transporter:SGLT)2阻害薬治療の違いについてご教示下さい。京都府立医科大学・福井道明先生にご回答をお願いします。
【質問者】
岡田洋右 産業医科大学第1内科学准教授
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【回答】
【SGLT2阻害薬は多面的な作用があり,幅広い症例に有効性が期待できる】 |
日本糖尿病学会が推奨する食品交換表に基づくカロリー調整とは,糖尿病治療の原則である個人のライフスタイルを尊重しながら,適正なエネルギー量で,栄養バランスが良く,規則正しい食事を実践し,糖尿病合併症の発症または進展の抑制を図れる食事であり,炭水化物の摂取比率は50~60%としています。
低炭水化物食が,糖尿病食事療法のひとつのオプションとして提案されています。低炭水化物食の利点としては,①体重減少効果があること,②食後高血糖(血糖変動)や中性脂肪を低下させること,③内臓脂肪を減少させ,インスリン抵抗性を改善すること,が報告されています。
一方,合併症に対する長期的な効果を考えることが重要であり,低炭水化物食には以下の危険性があります。
①蛋白質摂取過多になり糖尿病腎症を進行させる。
②脂質摂取過多により(特に飽和脂肪酸)高LDLコレステロール血症をきたし,動脈硬化を進行させる。
③蛋白質,脂質など酸性食品摂取過多によりインスリン抵抗性,腎障害をきたす。
④サルコペニアをきたす。
以上,低炭水化物食の有効性と危険性を考えた上で,実施することが望まれます。その際は食物繊維・ビタミン・ミネラルが不足しないよう野菜を十分に摂取する,また炭水化物・脂質・蛋白質の質も考慮した食事療法を実施する必要があります。
SGLT2阻害薬は尿糖の排泄を増やすことにより血糖値を低下させますが,その際内臓脂肪が減少することによりインスリン抵抗性が改善し,1剤で,血糖のみならず,血圧,脂質,尿酸値も改善し,心血管イベント・腎イベントを抑制してくれる可能性があります。体重やHbA1cが低下することにより,糖尿病治療に対するモチベーションが向上し,行動変容のきっかけとなる症例もあります。しかし,投与初期の脱水や尿路・性器感染症など副作用に注意する必要があります。
低炭水化物食とSGLT2阻害薬の相違点としては,低炭水化物食では高蛋白質・高脂質食になることによるリスクがあること,また継続が困難であることです。一方,SGLT2阻害薬ではそのようなことはありません。低炭水化物食の最も良い適応は,肥満で腎機能障害を認めない症例になりますが,SGLT2阻害薬は肥満,腎機能障害の有無にかかわらず,臓器保護作用をはじめとする多面的な作用があり,幅広い症例に有効性が期待できます。しかし,SGLT2阻害薬を投与する場合も食事・運動療法を継続して行うことが重要です。
【回答者】
福井道明 京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学教授
執筆:
岡田洋右 (産業医科大学第1内科学准教授)
福井道明 (京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学教授)
出典:Web医事新報