メディカルサポネット 編集部からのコメント

医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長である藤田哲朗氏は、自身の勤務する病院の新棟の新設に触れ、病院施設の老朽化による建て替えの重要性や、その一方で建築費等が高騰し、建て替えがなかなか進まない病院もあると解説しています。建築費やその他の物価高騰が続く中、診療報酬はほとんど変わっていない現状を踏まえ、どのように健全な経営をしていくかを考えることが、病院に求められているのではないかと語りました。

 

筆者の勤務する富山西総合病院は、2024年夏に増床を伴う新棟の建設を行いました。当院の関連病院で建物が老朽化し問題が出ていたものの、現位置での建て替えが困難だったことから、当院との合併・増築による建て替えという選択肢を取ったものです。

 

当院に限らず、この10年ほどの間に全国の様々な病院で建て替えが進められています。これはたまたま重なったわけではなく、歴史的な経緯があります。1985年の第1次医療法改正で病床数の総量規制が開始され、規制前の駆け込みで多くの病院が開設されました。1985年に建設された病院建築は、2025年には築40年が経過します。RC(鉄筋コンクリート)造の建物は法定耐用年数が39年、重量鉄骨造の場合は29年となっており、法定耐用年数と実際の建築物の寿命は必ずしも一致しませんが、築30〜40年は病院建築の寿命の目安とみてよさそうです。このような背景から、全国の多くの病院で建て替えの計画があります。

 

しかし、最近になって「建築費の高騰で着工延期」「入札にかけたが応札がない」「予算内に納めるために設計見直し」といったニュースが目立ってきました。建設物価調査会が公表している建設費指数を見てみると、たとえばRC造の病院の工事費は2015年を100とすると2024年10月暫定値が134.1(執筆時点)。10年前に100億円で建てられた建物は、今は134億円かかるという計算になります。

 

ここで病院にとって非常に苦しいのは、建築費はどんどん上がってきているのに診療報酬はほとんど変わっていないということです。2024年度改定で物価上昇分が手当てされたのは食事療養費のみ。基本診療料の引き上げはスタッフの賃上げに充てることとされており、病院に残るものはありません。一方でここ数年の光熱費の高騰は凄まじく、また、為替の影響もあって消耗品も値上げが続いています。それなのに公定価格のために医療機関はコストを価格転嫁できない。そこに建て替えの建築費で数億円から規模によっては数百億円の増嵩となると、「公定価格とはいったい何のためにあるのか」と恨み言の1つも言いたくなります。

 

今回の建築費の高騰を受けて、建て替えを検討中の医療機関の中には工事を延期し、コスト削減のための設計の見直しを行っているところも少なくないようです。ただ、よほど特殊な要因でもない限り、一度上がった物価が下がることは滅多にありません。コスト削減のために必要な機能を切り落とすような見直しをしたとしても、見直しをしているうちにさらに物価が上がって……と悪循環に陥る可能性もあります。いたずらに時間をかけてさらなるコスト増をまねくよりは、どうやって返済をしていくかの『経営』を考えたほうが健全な場合も多いです。

 

これまでは企業経営の類推として『病院“も”経営は重要だ』と言われてきましたが、むしろ『病院“こそ”経営が重要だ』という時代が到来しています。

 

藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)[病院経営][診療報酬]

   

 


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出典:Web医事新報

  

  

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