2018.10.31
5

東京五輪の熱中症対策、午前5時半にマラソン開始を
日医が要望「救急出動増えれば、医療機関に影響」

メディカルサポネット 編集部からのコメント

2020年の夏は「警戒レベル」の猛暑の中で過酷なレースが繰り広げられることが懸念されています。日本ならではの蒸し暑さは汗をかきにくい体質の選手・観客には大敵です。現在、熱中症対策として早朝のレースも検討されていますが、LCC飛行機のチェックインのように「始発に乗ってもスタートに間に合わなくなる」こともあり、対策は一筋縄ではいきません。日本気象協会はウェブサイト「熱中症ゼロへ」を通して熱中症の啓蒙活動を行っています。

 

 日本医師会の長島公之常任理事は31日の定例記者会見で、2020年に開催される東京五輪・パラリンピックでの熱中症対策に関する要望書を、大会組織委員会の森喜朗会長らに提出したことを明らかにした。要望書では、午前7時に始まる予定のマラソン競技について、熱中症リスクが極めて高いとされる10時ごろまで競技が続くことになるため、「対策として十分とはいえない」と指摘。選手や関係者、観客の熱中症リスクを軽減するため、競技開始時刻を予定よりも1時間半繰り上げるよう求めている。【松村秀士】

 

研究データを用いてマラソン競技での熱中症リスクについて説明する長島常任理事(31日、日医会館)

 

 要望書は、中京大スポーツ科学部の松本孝朗教授らによる研究結果を踏まえたもので、横倉義武・日医会長と東京都医師会の尾崎治夫会長が29日、大会組織委員会を訪問して森会長と河野一郎副会長に手渡した。

 

 松本教授らの研究結果によると、17年7月29―31日、8月7―9日、18年8月2―10日の計15日間、五輪のマラソンコースの1キロメートルごとの地点(地表の高さ0.8―1.2メートル)に暑さ指数を計測する装置を置き、1分ごとの暑さ指数や気温、相対湿度などを記録した。

 

 その結果、マラソン競技の開始を午前7時とした場合、「熱中症予防のための運動指針」で積極的に休息を取って適宜、水分や塩分を補給することを求めている「警戒」レベルや、激しい運動や持久走を避けることを求めている「厳重警戒」レベル、さらには「運動は原則中止」のレベルの中を、ランナーは走ることが想定されるとした。

 

 また、開始時刻を繰り上げた場合の効果を分析したところ、30分ごとでは午前5時から8時までが「警戒」レベル、8時半から9時半までが「厳重警戒」レベルであることが分かった。そのため、選手や観客、関係者らの熱中症リスクを考慮し、「スタート時間を5時半まで繰り上げると8時半までに競技がおよそ終了し、警戒レベルで実施できる」と結論付けた。

 

 さらに、競歩についても熱中症リスクを検証したところ、午前6時に開始予定の50キロメートル競歩、7時に開始予定の20キロメートル競歩では、コース上に日差しを遮る樹木などがほとんどなく、「厳重警戒」または「運動は原則中止」のレベルの中で競技することも判明。競歩の開始時刻を午後6時半にするか、予定通りの時間に開始するがコース上に天幕を設置することなどを提案している。

 

 31日の会見で長島常任理事は、選手や関係者、観客らが熱中症になる危険性が高くなれば、救急出動が増加することで医療機関や一般の患者にも影響が及ぶことになり、「多大な危惧の念を抱いている」と強調。また、櫻田義孝五輪担当相や、小池百合子東京都知事にも要望書を提出する方針を示した。

 

 長島常任理事によると、森会長は、きちんとした研究に基づく医学的な熱中症リスクに関する研究データは非常に貴重だと指摘。さらに、研究データを国際オリンピック委員会や国際陸上競技連盟に提示する考えも示したという。

 出典:医療介護CBニュース

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP