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2021.06.09
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【識者の眼】「漢方薬のポリファーマシーとは─漢方薬での治療の新たな問題点」並木隆雄

メディカルサポネット 編集部からのコメント

コロナ禍でも漢方薬は多岐に渡って使用されているが、複数の症状に対して1つの漢方を処方する伝統的な使用法ではなく、症状や病名ごとに1つずつ漢方薬が使われる「病名漢方」が増えているとして、千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授の並木隆雄氏は、本来漢方治療はポリファーマシーの対処法の一つになるはずが、それ自体がポリファーマシーにならないように対策を考えないといけない時期に来ていると考えを述べています。

 

2021年のコロナ禍のなかで、漢方薬は多岐の病状に使用されているということを小耳にはさんでいます。ある調査では、漢方薬を9割の医師が使ったことがあるそうです(https://www.qlife-kampo.jp/news/story606.html ただし、現在使用中という意味ではない)。広く一般の医師にも、漢方薬が広まっている点は評価できますが、それに伴って、困った事象も生じています。それは漢方薬が伝統的な使われ方とは異なる使われ方をされているためと考えられています。

 

伝統的使用法は、体質や現在の状態を考慮した“証”(漢方薬の適応)での処方となります。この「証」を使った治療(隋証治療)は、原則、複数の症状を包括した“現時点”の病態に対応した処方を言います。「証」を治療する漢方薬の候補として、1つか2つの漢方薬でその病態をなるべく網羅するものを選びます。つまり、理想的には複数の症状を1つの処方で治療するわけです(例外として、あくまで屯用的に1つの症状に1つの漢方薬ということはある)。この使い方ではなく、症状や病名に1対1対応で漢方薬を出せば、3つ以上の処方になる場合が出てきます。本来は、複数の症状をひとまとめに捉えるので、薬の品目数としては減らす処方体系なのに、そのメリットが失われた処方方法とも言えます。漢方の専門家の間では「病名漢方」と称しています。

 

保険収載されている葛根湯を例に挙げると、葛根湯は、慢性病に用いるときは肩こりや蕁麻疹に有用です。肩こりと蕁麻疹に困っている患者がいた場合、肩こりに葛根湯、蕁麻疹に他の処方ではなく、葛根湯単独で対処するわけです。漢方薬の現在の主流はエキス製剤であるため、複数処方すると漢方製剤に含まれていることの多い甘草成分が重複となり、偽アルドステロン症になりやすくなります(甘草1〜2gに比べ、6gで10倍発症する)1)。

 

西洋薬で近年問題になっているポリファーマシーは、単に薬の数が多いという意味ではなく、薬物有害事象の増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等のつながる点が問題視されています。日本では5〜6錠以上を指すことが多いようです2)。本来、ポリファーマシーの対処法の一つになるはずの漢方治療ですが、それ自体がポリファーマシーにならないようにする対策を考えないといけない時期に来ていると考えています3)。

 

【文献】

1)萬谷直樹, 他:日本東洋医学雑誌. 2015;66(3):197-202.

2)高野静子, 他:日本東洋医学雑誌. 2018;69(4):328-35.

3)地野充時, 他:日本東洋医学雑誌. 2019;70(1):72-6.

 

並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[漢方]

 

 

 

出典:Web医事新報

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