2020.11.26
5

事前準備で“年末調整大改正”を乗り越える

~医療介護施設経営者・管理者だからこそ知っておきたいこと~

毎年大変な「年末調整」。この時期になると経営者の方、経理担当の方は年末調整の準備に追われていることと思います。特に今年は大幅な改正が行われ、例年以上にざわついていることでしょう。
計算自体は年末調整ソフトが行うので難しくはありませんが、その手前の事前準備(各種書類・情報収集)の段階で迷うケースが多発する可能性があります。言い換えれば、この事前準備がスムーズにいけば年末調整もスムーズに終わる、とも言えます。
ここでは、年末調整の仕組みや所得税の全体像を簡単に説明し、気になる改正点について説明していきます。

執筆:和田 公彦(税理士/税理士法人ロールスパートナーズ神奈川事務所所長)
編集:メディカルサポネット編集部


| 目次

 

改めて考える、年末調整とは?なぜ必要なのか?

 

所得税の計算の全体像

 

「大改正」の詳細とは?/改正点
1.基礎控除額10万円アップと所得制限の設定
2.給与所得控除の引下げ
3.扶養親族等の合計所得金額要件等の改正
4.ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正
  └おさえておきたい5つのポイント   
  └注意点
5.所得金額調整控除の新設

 

年末調整をスムーズに行うために
1.申告書には「書くべきところだけ」に「漏れなく」書いてもらう
2.「給与収入」、「給与所得」、「合計所得」の違いを理解する


 

改めて考える「年末調整とは?」「なぜ必要なのか?」 

社員の正しい「年税額」を確定させて、その確定した「年税額」と「概算額」との差額を精算する手続きを「年末調整」といいます。「概算額」とは毎月の給与や賞与から控除される源泉所得税額の合計になります。簡単に言えば「天引きされている所得税の1月~12月までの合計」です。この毎月の源泉所得税はあくまで概算額なので、確定した年税額と一致しないのが通常です。この不一致を精算するシステムが「年末調整」です(図表1)。

この精算システムがないと全社員が確定申告をしなければならないため、会社での年末調整作業はとても重要な業務であると言えるでしょう。

所得税の計算の全体像

年末調整では社員の所得税(年税額)を計算します。給与収入から所得税を計算するまでの道のりは以下のとおりで、これが年末調整の所得税計算の全体像となります。どの部分の控除なのか把握しましょう。なお、「合計所得金額」は各種控除での判定で使用しますので、図表2を見ながらどの部分を指すのか理解しましょう。

CHECK!

次からの改正点の説明では、この図のどの部分の話なのかを確認しながら読み進めてください。

特に、「給与収入」と「合計所得金額」とが別物であることを頭に入れておきましょう。

 

「大改正」の詳細とは?

今回の改正点は、申告書が新たに2つ追加されていたり、収入や所得判定を要する論点が増えるなど従業員の情報収集に支障があると懸念される点が多いことが特徴です。どのような改正が行われるか具体的に確認してみましょう。

 

 

1.基礎控除額10万円アップと所得制限の設定


「基礎控除」とは全ての納税者の所得から一定の金額を無条件で控除することができる制度です。この「基礎控除」額が今までの一律38万円から48万円にアップします。ただし、合計所得金額が2,400万円超から控除額が減り、2,500万円を超える人は基礎控除を適用できないことになりました(図表3)。

 

(図表3)「昨年から変わった点-2(1)基礎控除の改正」国税庁サイトより引用 

 

また、この改正に伴い「基礎控除申告書」が新設されました。この申告書の提出対象者は「全員」です。

ここでは「基礎控除額」を決定します。本人の「合計所得金額」の見積りを記入しますので、その会社の給与所得以外の所得も把握する必要があります。「収入」と「所得」の違いに注意しながら漏れなく記入してください。

 

 

2.給与所得控除の引下げ


給与所得者に必要経費の概念はありません。「給与所得控除」とは、給与収入から一定額を概算的な経費として差し引く制度で、個人事業者に置き換えると必要経費に相当する役割を持っています。今回の改正で、その金額が次のとおりに引き下げられることになりました(図表4)。

 

(図表4)「昨年から変わった点-1.給与所得控除に関する改正」国税庁サイトより引用

 

一見、給与所得控除が10万円引き下げられたことで増税だと感じますが、実際は、基礎控除額が10万円引き上げられたため大半の社員は影響を受けません。

 

 
3.扶養親族等の合計所得金額要件等の改正

給与所等控除の引下げに伴い、各種控除を受けるための扶養親族等の合計所得要件が以下のとおりに改正されました。

扶養親族等に該当するのかで各種控除が変わってきます。重要な判定基準になりますのでしっかりと抑えましょう。(図表5)

 

(図表5)「昨年から変わった点-3.各種所得控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の改正」国税庁サイトより引用

 

4.ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正


今回の改正の中で最も複雑な論点ではないでしょうか。これまでは、同じひとり親であっても離婚・死別であれば寡婦(寡夫)控除が適用されるのに対し、未婚の場合は適用されず、婚姻歴の有無によって控除の適用が異なっていました。また、「男性のひとり親」と「女性のひとり親」で寡婦(寡夫)控除の額が違うなど、男女間でも扱いが異なっていたのです。

 

そこで、すべてのひとり親家庭に対して公平な税制支援を行う観点から今回の改正が行われました。下の表で見比べながら確認してください。

おさえておきたい4つのポイント

①「(男女関係なく)本人所得が500万円超」→子や扶養親族の有無に関わらず、控除なし
②「(男女関係なく)本人所得が500万円以下」「配偶者と死別・離別・未婚」「生計を一にする子がいる」の3つを満たす場合→ひとり親控除
③「(女性)本人所得が500万円以下」「配偶者と死別・離別」「子以外の扶養親族がいる」の3つを満たす場合→寡婦控除
④「(女性)本人所得が500万円以下」「配偶者と死別」の2つを満たす場合→寡婦控除
 ※所得500万円=収入ベースで678万円
 ※子や扶養親族には所得要件制限があります

「令和2年度版 税制改正のポイント」<確定版>19項(税務研究会出版)をもとに筆者が作成

 

注意!

・前述の②「ひとり親控除」が今回から新設されたため、「未婚のひとり親(男女問わず)」の対象者が例年通り自分が控除の対象外であると思い込んでその旨を記入してこない可能性があります。管理者は昨年の資料を見返すなどして漏らさないよう本人に確認しましょう。対象者であることさえわかれば、改正後の表に要件を冷静に当てはめることで金額を間違えることは少なくなるでしょう。

・「寡婦」、「ひとり親」について「事実婚」は除かれます。本人に住民票で「事実婚※」の記載のないことを確認してもらってください。

※実際の記載は夫(未届)、妻(未届)となっています

・この改正に伴い、扶養控除等申告書に「ひとり親」である旨を記入することになりますが、令和2年分の申告書には「ひとり親」欄が無いので下のように訂正するか、令和3年分の申告書を令和2年分と訂正するなど、適宜の方法で記入するようにしてください。

 

「ひとり親控除及び寡婦控除に関するFAQ」国税庁サイトより引用

 

 

 

5.所得金額調整控除の新設 


その年の給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者で、次のいずれかに該当する場合は、給与等の収入金額から一定額を控除することとされました。

 ① 本人が特別障害者に該当する者

 ② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者

 ③ 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する者

 

少々わかりづらい制度ですが、これは給与所得控除の所得金額からさらに一定額を控除する制度です。

理由は、上記(2)の給与所得控除の引き下げに伴い、給与所得控除額の上限が引き下げられた(220万→195万)ことで、給与収入が 850 万円を超える人が大きな負担を強いられるためです。そこで子育て等の負担がある人については経済的余裕が十分であるとは考えられないことから、給与所得控除の減少を補填するための仕組みになっています。

また、この改正に伴い「所得金額調整控除申告書」が新設されました。記入が必要な人は対象者のみです。

つまり、給与収入850万以下である場合又は扶養親族等が要件に該当しない場合は記入不要です。

 

スムーズな年末調整のために

1.申告書には「書くべきところだけ」に「漏れなく」書いてもらう


最も複雑な申告書は「基礎控除申告書・配偶者控除申告書・所得金額調整控除申告書」ですが、全員が記入しなければならないのは基礎控除申告書のみです。それ以外の申告書は控除を適用する場合だけ記入します。

何でもかんでも書かれてしまうと、管理者(社長や経理担当者など)が本人にその都度確認しなればならず余計な手間が生じます。確認せずにそのまま素通りしてミスに繋がるかもしれません。

各社員に「何のために、何の情報を記入する申告書か」を正しく理解してもらい、漏れなく記入してもらうことが大切です。 

 

2.「給与収入」、「給与所得金額」、「合計所得金額」の違いを理解する 


近年の改正では、本人又は扶養親族等の収入に関する論点が多くなっています。収入で判定するのか、所得で判定するのかで判定結果が分かります。それぞれ別物なのでしっかりと区別しなければなりません。

  

① 給与収入

いわゆる「年収」です。源泉所得税や社会保険料を控除する前の金額を指します。今回の改正では給与所得控除、所得金額調整控除の判定で使用します。

② 給与所得金額

上記①「給与収入」から、概算的経費である「給与所得控除」額を差し引いたあとの金額になります。いわゆる給与所得者の「儲け」部分になります。

③ 合計所得金額

上記②「給与所得」を含めた各種所得(事業所得、不動産所得、一時所得、雑所得など給与以外の所得など)の合計額になります。今回の改正では基礎控除、ひとり親控除、寡婦控除、配偶者(特別)控除の判定で使用します。(給与収入のみの場合は、上記②と③はイコールになります。)

  

近年、ダブルワークによる収入の複数化、仮想通貨の運用、不動産投資などにより所得が多様化しているため本人でも所得の把握が難しくなっています。控除対象かと思って処理したら実際には所得が多くて控除対象ではなかった、というケースがよくあります。給与以外の所得の見積りには時間を要すため、各社員に前もって周知し早めに集計をしてもらうようにしましょう。

なお、「所得」欄に各社員が金額を記入してくる際は、経験上、「給与収入(年収)」であるケースが多いので、管理者はその都度確認するようにしましょう。

  

以上のように、年末調整をスムーズに行うためには、スピーディな情報収集と正確な判定知識がすべてです。準備次第で年末調整作業の8割9割が終わっているといっても過言ではありません。そのためには管理者や各社員の正確な理解が不可欠です。

管理者は、年末調整の用紙を渡して終わり、ではなく、簡単でいいので年末調整の仕組みや改正点などを職員に説明する機会を設けると、年末調整作業がよりスムーズになります。

 

プロフィール

和田公彦(わだ・きみひこ)
税理士法人ロールスパートナーズ神奈川事務所所長。税理士。
1975年7月 神奈川県横浜市生まれ 中央大学商学部卒。大学卒業後、金融機関のシステム会社(現:㈱みずほ情報総研)で約SEとして3年間従事した後、大学時代に学んだ会計の道を志し会計事務所に転職。以後、現在まで15年以上、税務・会計業務に従事する。東京都町田市の公認会計士事務所、神奈川県厚木市の税理士事務所を経て、2016年に現在の税理士法人ロールスパートナーズ(本店:九段下)に入社。2020年9月海老名市に同法人の神奈川事務所を開設、所長に就任、現在に至る。顧客の業務の効率化(クラウド導入支援)や資金の安定化(経営財務コンサル)を主眼に置いており、経営者が安心して目標に迎えるような体制づくりに注力している。

 

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事一覧

TOP