2020.10.30
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地域の同業者連携とICTの活用が重要になる

【介護事業所編】コロナ禍で変化にさらされた介護事業の今とこれから

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、医療・介護業界に重大なインパクトをもたらしました。それに伴い、介護施設も大きな変化を余儀なくされた今、経営という視点からどんな対応が考えられるのでしょうか。株式会社日本経営の介護福祉コンサルティング部で参事を務める大日方光明さんにお話を伺いました。
 
取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
写真/山本 未紗子(株式会社ブライトンフォト) 
編集・構成/メディカルサポネット編集部

■事業所にも利用者にも大きなダメージが

 

クラスター発生の有無を問わず、新型コロナウイルスは介護施設に大きな影響を及ぼしました。業態別に比較したとき、特に大きなダメージを受けたのがショートステイと通所介護です。2020年2月と4月の売上変化割合を比べたとき、-10%以上の減収となった事業所は、ショートステイで81%、通所介護で62.3%に上りました。3密の回避が呼びかけられる中、これらのサービスの利用を自主的に控える利用者やご家族が増え、利用控えが多発したことの表れだといえます。また、特別養護老人ホームや有料老人ホームといった入所系サービスでも、病院等からの新規受け入れが困難になったり、施設見学ができず新規利用者の獲得が難しくなったりして、売上が落ちたケースが少なくありませんでした。

  

出所:全国介護事業者連盟「新型コロナウイルス感染症に係る 経営状況への影響について『緊急調査』第二次分 集計結果」(2020)

 

訪問介護など居宅系サービスについても利用控えによる減収がみられましたが、一方で、通所系サービスからの切り替えにより逆にニーズが高まるケースも少なからず確認できました。しかし、訪問介護員などの人数をいきなり増やすことは難しく、対応に苦慮した事業所が多かったようです。子育て中の方も多く働いている職場なので、学校や幼稚園、保育園などが休業したことで、育児中のスタッフが出勤できなかったことも追い打ちをかけました。

 

ここまでは事業所についての話ですが、当然、これまで受けていたサービスがストップしてしまった利用者にも影響が及びました。例えば、機能訓練を受けられずADL(日常生活動作)が低下する、レクリエーションや交流などの社会参加の機会が減少するといったことです。施設に入居していた方の場合は、家族との面会が制限されてしまい、メンタル面でストレスがかかったり、終末期の場合は、家族に会えないまま最期を迎えるようなつらいケースもあったようです。

 

経営改善コンサルティングが専門の日本経営介護福祉コンサルティング部参事の大日方光明さん 

 

残念ながら、新型コロナウイルス感染症が完全に収束する見込みはいまだに立っていません。今のような状況が今後数年は続くという前提で、継続可能な感染対策に取り組む必要があります。再び感染者が増えていく可能性も加味して、マスクや手袋、防護服といった医療資材については、年単位で確保しておくことをお勧めします。感染拡大と自然災害が同時に発生する「複合災害」も予想されるので、必要物品の購入や管理にはしっかり手間とお金をかけておくべきです。そのための費用は「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(介護分)」で補助されるので、受付期間内に対応できると良いでしょう。

 

また、直近の課題として意識したいのが冬季賞与です。支払いが滞るようなことがあれば、スタッフの心が離れるきっかけになりかねず、そこから離職や事業休止につながる可能性も考えられます。福祉医療機構などのコロナ関連融資や補助金をうまく活用して、先を見越した資金計画を立ててください

 

■新設された「社会福祉連携推進法人」に注目!

 

誰も予想できなかった昨今の状況ですが、厳しい見方をすれば、本当に必要なサービスが選別される試金石になったとも考えられます。利用者や家族にとって目的がはっきりした必要不可欠なサービスであれば、地域の感染状況が落ち着いた時点で利用が再開されるはずです。しかし、サービスが一時的にストップしたとき「このサービスがなくても特に問題ない」と感じる人が多ければ、そのまま利用が再開されない可能性もあるでしょう。地域のニーズに即したサービスを提供していたか、利用者に選ばれるサービスとなっていたかといった点が、今回の件で浮き彫りになったかたちです。

 

「地域のニーズに即したサービスを提供できていたか、コロナ禍で浮き彫りになった」と話す大日方さん 

 

また、単独事業・小規模の事業者にとっては、厳しい環境変化に対応しづらい側面があることが明らかになりました。複数のサービスを展開している事業者であれば、「デイサービスを訪問介護に切り替える」といったことにも柔軟な対応ができますが、単独事業の場合は選択肢が限定されます。また、複数事業所を展開している場合、他施設からのカバーも期待されます。「小規模の事業所」や「1本足打法」の事業所では選択肢が限定されてしまい、環境変化に適応できなくなるかもしれません。こうした環境が、業界内でのM&Aや事業統合を後押ししていくと予想されます。

 

さらに注目したいのが、2020年6月に公布された改正社会福祉法に基づいて設置される「社会福祉連携推進法人制度」です。複数の社会福祉法人をグループ化するもので、柔軟に資金を融通できるほか、スタッフの確保や育成、物品の購入などを共同で行うことができます。人材が限られている地方部などでは、特にこうした制度を積極的に活用すべきではないでしょうか。

 

「大規模化・協働化を通じた効率的な事業経営・運営を促進する仕組み」より(平和2年2月、厚生労働省)

 

なお、新型コロナウイルス対策により2020年度に介護報酬の補完措置が図られた影響もあり、2021年の介護報酬改定では大幅な改定率アップは難しいのが現実でしょう重点評価される可能性があるのは、「感染対策」と「テクノロジー活用」に関する項目。また、「自立支援」も重要なトピックですが、現時点では評価指標が検証段階にあるため望ましい取り組みに対して多少のボーナスが付く程度ではないかと考えています。

  

■厳しい状況でもニーズにこたえられる仕組みづくりを

 

最後に、介護施設における今後の戦略を練る上で、経営者が意識しておきたい2つの視点をお伝えします。

 

第1に、「地域の同業者連携」です。連携といえば「デイサービスと訪問介護と訪問看護」のように異業種間の協力を指すことが多いですが、同じサービスを提供する他の事業所とのつながりも極めて重要です。いざという時にサポートし合える関係を築いておきましょう

 

具体的には、A訪問介護事業所でPCR検査の陽性者が発生してしまったとき、利用者へのサービスを途切れさせないように、B訪問介護事業所のスタッフが代わりにケアを提供する、といった具合です。利用者や家族の同意を要することはもちろん、ケアマネジャーや行政などと事前に話を通しておくことも必須ですから、できるだけ事態が落ち着いているうちに連携を進めておきたいものです。自事業所の運営継続から、地域全体に視野を広げて広義でのサービス継続計画を作り上げるイメージです。

 

第2に、「実現可能なICTの活用」です。介護ロボットやセンサーなど最新機器の導入について、近年では補助金制度も充実してきました。しかし、介護業務に直接関わる機器の場合、導入するにはワークフローを根本的に見直す必要があり、思ったように活用できていないケースも多いようです。

 

ICTの導入の筆頭に挙がるのが、記録の電子化でしょう。介護業界はまだまだ「紙文化」ですが、ペーパーレスになればスタッフの負担が大幅に軽減されますし、部分的な在宅ワークの推進にもつながります。比較的スマートフォンなどの利用が浸透してきているので、思い切って記録の電子化を進めるいいタイミングなのではないでしょうか。また、体圧センサーなどを活用した見守り機器も導入が進んでいます。より少ない人手でも見守りが可能になることで、有事の際も対応しやすくなるはずです。

 

これからの日本社会では、介護が必要な高齢者が増加する一方、労働人口は確実に減少していきます。そうした状況でもニーズにこたえられるような仕組みをいかに構築するか、経営者の手腕が問われていくでしょう。

 

大日方光明(おびなた・みつあき)
株式会社日本経営介護福祉コンサルティング部参事

訪問看護ステーション運営本部兼任、在宅診療所、介護施設への出向を経て、現在は主に医療機関の介護事業展開や社会福祉法人の経営改善コンサルティングを専門とする。金融機関、地方医師会、看護協会等各種関連団体での講演、 厚生労働省・業界団体の政策調査業務等を担当。
■執筆・取材等
ケアビジョン2019年10月号「ICT&ロボットでホントの働き方改革」 、日経ヘルスケア2020年3月号「高齢者施設人気の秘密」

 

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