2020.12.01
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感染症専門医 岸田直樹医師に聞く、今後を見据えた新型コロナ対策

~病院・薬局・介護施設ですべきこと~

新型コロナウイルス感染症の拡大がきっかけとなり、病院や薬局、介護施設でも感染対策の根本的な見直しが迫られました。第2波・第3波の到来も懸念されている今、現場ではどのような対策を講じるべきなのでしょうか。感染症専門医で、感染症コンサルタントとしても活躍する岸田直樹先生に、withコロナ時代の感染対策について伺いました。

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
編集/メディカルサポネット編集部

岸田直樹(きしだ・なおき)
北海道科学大学薬学部客員教授
総合診療医、感染症専門医、感染症コンサルタント
Master of Public Health(北海道大学大学院医学院修士課程公衆衛生学コース)
一般社団法人Sapporo Medical Academy代表理事

  

 

新型コロナにおける感染対策は「急性期病院レベル」が基本

 

一般的な感染対策を考えるときに重要なのは、「感染した場合に致死率の高い人がどのくらいいるか」という観点から、その場におけるリスクを正しく把握することです。例えば、免疫抑制状態の患者さんがほとんどのがんセンターと、病状が落ち着いている患者さんが入院する慢性期病院では、求められる感染対策のレベルは異なる場合があります。

 

ところが、新型コロナウイルス感染症の場合は、心疾患や呼吸器疾患を抱える人、そして高齢者全般の死亡率がかなり高いという特徴があります。そのため、医療機関の規模や特性に応じて対策を変えるというよりも、「ハイリスク患者がいる場所では基本的にどこであっても急性期病院レベルの感染対策が求められる」と考えましょう。高齢者が利用するデイサービスや老人ホームなどの介護施設も、極めてハイリスクな環境であることに変わりありません。ここでも、できるだけ急性期病院に近い感染対策を講じるべきとなります。

 

薬局については、来局者の層はそれぞれ違うでしょうが、やはり高齢者の利用率が高い店舗が多いのではないでしょうか。そもそも薬局は、これまでにも感染対策における「抜け穴」になってしまうケースが多かったように思います。例えば、病院では徹底的に隔離されていたインフルエンザの患者さんが、薬局の待合室では高齢者や妊婦の隣に座っている……というシーンは珍しくありません。これは医薬分業の弊害の一つで、患者情報が適切に薬局に伝わっていないというコロナ禍をきっかけに顕在化した課題だといえます。今後は、病院と薬局の連携をさらに深めたり、薬剤の宅配サービスを導入したりして、感染症の患者さんが直接薬局を訪れなくて済むシステムを整えるべきでしょう。

 

取材は札幌の病院と東京をつなぎオンラインで行われた 

 

「発熱している人」が自施設にやって来たら……

 

医療機関や介護施設で使用するマスクは、より効果の高い医療用のサージカルマスクである必要があります。医療機関では可能な限り布マスクなどで妥協するのは避けたいところです。自施設で必要な枚数を把握し、安定的に確保できるようにしてください。

 

マスクの使用目的の一番は、仮に自身が感染していた場合に「他者にうつさないこと」です。最近では、口元を透明のシートで覆ったマウスシールドも見かけるようになりましたが、顔全体が見えやすいというメリットはあるものの、すき間が大きいため一部の飛沫しか捕捉できず、効果は限定的であることを覚えておきましょう。一方、顔全体を覆うフェイスシールドは「自分を守る」ためのもので、口や鼻はもちろん、目からの飛沫感染を防ぐ目的で使用されます。患者さんがマスクを着用できないケースでは役立つでしょう。

 

感染対策としては、換気も重要です。特に狭い場所では十分に空気を入れ替えることが大切ですが、冬になるにつれて寒さ対策も求められます。暖房器具を活用することはもちろんですが、気温低下が避けられない環境なら、厚着での来院を促すことも必要かもしれません。新しい建物では換気システムが整っていることも多いでしょうが、排気口にホコリがたまるなどして、十分に機能を発揮できないケースも散見されます。定期的な確認と掃除を怠るべきではありません。最近では、紫外線照射やオゾンによる室内環境改善も注目されています。必要十分な効果が期待できるかどうかは議論の余地が残るものの、どうしても換気が難しい部屋などでは、導入を検討してもいいかもしれません。

 

発熱などの症状がみられる人について、多くの医療機関では入り口や待合室を分けるといった対策をすでに行っているでしょう。問題は、介護施設や薬局です。デイサービスなどの来所型の介護施設では、発熱や風邪症状がある場合は利用不可であることを事前に説明しておくこと。そして、送迎時に体温チェックを行い、基準値を超えたら来所を断ることを徹底しましょう。万が一、来所してから体調不良に気付いたなら、すぐにマスク着用と手洗いを促し、一刻も早く帰宅してもらえるよう調整しなければなりません。

 

薬局についても、そうした患者さんが訪れないで済むシステム作りが第一ですが、すぐには難しいかもしれません。まずは、感染症疑いの患者さんとそうでない患者さんの居場所をできるだけ離したり、仕切ったりしてみましょう。もちろん、マスクを着用してもらうことは必須です。車で来局しているようなら、「〇〇さんのお車までお持ちしますから、そちらでお待ちください」といった声かけをすることも一案です。

  

 

「院内感染」だけでなく「市中感染」にこそ要注意 高い自施設外での感染リスク

  

「職場で感染しそうで怖い」「家族にうつしたらどうしよう」といった不安を抱えるスタッフもいると思います。しかし、医療崩壊が起こっていない現在の日本において、急性期病院レベルの感染対策を徹底できてさえいれば、むしろ自施設外での感染リスクのほうが高いといえます。コントロールが難しい市中や自宅にいるときこそ、感染を予防できるよう個々人が感染対策を徹底することが求められます。

 

また、2020年7月にGo Toトラベルキャンペーンが始まり、その是非について多くの議論がなされたのは記憶に新しいところです。旅行に伴う行為の多くは、「食事」「会話」「移動」など日常生活でも必ず行うもので、それらの場面ごとに適切な感染対策を講じることが大切です。しかし、旅行中にはつい気が緩んでしまい、人込みでマスクを外したり、食事中に大声で話してしまったりすることがあり得ます。一概に旅行を「悪」ととらえるのではなく、「いかに感染しないように旅行できるか」という視点を持つべきだと思います。

 

   

 

「持続可能な新型コロナ対策」を模索しよう

 

多くの感染症と同様、新型コロナウイルスは冬季に流行しやすい傾向があると考えられています。今後も感染が拡大する可能性は十分にあり、感染症専門医として「この冬が本当の勝負」だと感じています。インフルエンザの同時流行も懸念されているので、手洗いやマスクの着用を徹底するほか、できるだけ予防接種を受けるようにしましょう。

 

新型コロナウイルス感染症が完全に終息する目途は立っておらず、今後も長期的な視点での対策が必要です。ここで想像してほしいのが「振り子」です。非常事態宣言が出された当初は、厳しい対策を実施する方向へグッと振り子が動きました。しかし、現在は過剰だった感染対策をうまく「引き算」する段階に入っており、振り子が逆サイドに振れつつあります。こうして少しずつ調整を図りながら、次第に対策の精度が上がっていき、1点に収束していくイメージです。こうした流れを踏まえつつ、自施設や地域の状況を把握し、最適な感染対策を模索していくことが、「持続可能な新型コロナ対策」につながるのではないでしょうか。

 

まとめ

■医療資材調達
・サージカルマスク等は自施設で必要な枚数を把握し、安定的に確保
■各施設における感染対策
・換気を継続するため暖房器具の用意や厚着での来院を促す
・排気口の定期的な確認と掃除
・来所型の介護施設では、発熱がある場合は利用不可であることを事前に説明
・車で待つ仕組みや薬剤の宅配サービス導入などの検討 ・施設内のゾーニング
■目的に合った適切な医療資材の着用
・フェイスシールドは「自分を守る」ためのもの
・マスクは「他者にうつさない」ためのもの
■持続可能な感染対策のために
・コントロールが難しい市中や自宅にいるときこそ、積極的な感染予防行動を
・一概に旅行を「悪」ととらえるのではなく、「いかに感染しないように旅行できるか」という視点を持つべき
・インフルエンザとの同時流行に備えてインフルエンザ予防接種を受ける

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