2020.12.09
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新時代の医療の価値と地域包括ケアのもたらす未来
~ポストコロナ時代の地域包括ケアはどう変わっていくのか?~

「第3回医療と介護の総合展(東京)」セミナーレポート③

新型コロナウイルス感染症は、病院経営の在り方も変えようとしています。外来患者数が減少する中で、需要が高まる在宅医療に舵を切ろうとする施設もあることが予想されます。開設から3年を迎え、小児から高齢者まで幅広く対応する訪問診療専門のクリニックを経営する医療法人社団ときわ理事長の小畑正考氏は、「サービスの価値はどこにあるのか?」をテーマに3つの切り口を挙げ、これからの医療の変化について解説しました。医療の高度化・細分化が進む一方で、病気の人だけ・介護が必要な高齢者だけを診るのではなく、健康な人や子供をも含めた健康増進・治療に関わることにこそ価値があるとし、これからの地域包括ケアシステムの在り方を私たちに問いかけました。

取材・文/河村 武志(ナレッジリング)
写真/穴沢 拓也(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

2020年10月14日(水)~16日(金)の3日間にわたり、幕張メッセにて「第3回医療と介護の総合展(東京)」(主催:リード エグジビジョン ジャパン株式会社)が開催されました。医療・介護分野におけるB to B商談展として日本有数の催しですが、併せて数多くのセミナーが企画され、コロナ禍の状況にあっても多数の参加者でにぎわいました。

 

ここでは、15日(木)のセッション「地域包括ケア時代に求められる在宅医療とは?」から、医療法人社団ときわ理事長の小畑正考氏によるセミナーの模様をレポートします。

 

 

小畑 正考

医療法人社団ときわ 理事長

昭和57年生まれ、秋田県出身。東京大学医学部医学科卒業。国際医療福祉大学三田病院で臨床研修後、東京大学公衆衛生大学院でMPHを取得。在宅支援診療所院長、在宅医療支援病院副院長などを歴任後、2016年9月に赤羽在宅クリニックを開業。2017年10月には医療法人社団ときわを立ち上げ、理事長に就任。現在、東京から埼玉にかけて訪問診療を専門とする診療所を展開する。

   

  

■3つの切り口から見る今後の医療の変化

 

私が理事長を務める医療法人社団ときわは、「人に寄り添い、未来に挑む。」というビジョンを掲げ、4件の診療所を拠点に16人の常勤医で累計3400人の患者さんを診てきた実績があります(2020年10月時点)。

 

私は在宅医療をやっている者として、COVID-19の流行をはじめとする社会情勢の変化に直面し、『これから医療がどう変わっていくか』ということについて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。具体的には、次の3つの切り口から変化の方向性をみていきます。

  

(1)「サプライベース」から「ニーズベース」へ

(2)「パソジェニック」から「サルトジェニック」へ

(3)「集中」から「分散」へ

  

これらのキーワードをきっかけとして、「今、皆さんが提供しているサービスの価値が何なのか、それは今後も求められていくものなのか」というところを考えてほしい……というのが本日のテーマです。

 

 

1.「サプライベース」から「ニーズベース」へ

COVID-19をきっかけとして、外出が難しくなって受診者が減少したり、初診時からのオンライン診療が解禁されたりといったことがありましたが、これらは表面的な変化にすぎないと私は思っています。最も本質的な変化は、患者さんが自身にとって本当に価値あるサービスを選ぶようになりつつあることではないでしょうか。つまり、COVID-19を一つの起爆剤としてサプライベースからニーズベースへ価値観が転換していく。このことをまずは押さえる必要があります。

 

これまでは既存の医療サービスに患者さん側が合わせるかたちでしたが、これからは患者さんのニーズに応じて医療サービスが変わっていかなければなりません。真にニーズがあるサービスであれば、一時的に利用が減ったとしても必ず回復していきます。そうでなければ、コロナ禍をきっかけに切り捨てられることになるかもしれません。

2.「パソジェニック」から「サルトジェニック」へ

「パソジェニック(pathogenic)」「サルトジェニック(salutogenic)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。パソジェニックは「病因論」と訳されます。病気の症状が現れたら受診して診断・治療を受け、回復したらめでたしめでたし……という、これまで多くの人が考えてきた医療モデルを支える概念です。

 

それに対して、サルトジェニックは「健康生成論」と呼ばれ、そもそも「健康な状態」という基準点を設定せず、元がどんな状態でも、それより良くなればOKという概念です。これは慢性疾患の場合にマッチする考え方ですね。

 

現在の医療保険制度は、基本的にパソジェニックモデルを前提として設計されています。制度設計された当時は、慢性疾患よりも感染症対策が主眼となっており、診断・治療を重視するモデルとして作られたものが、現在まで脈々と受け継がれてきたわけです。

 

しかし、これからはサルトジェニックモデルが大切になってくるのではないでしょうか。すでに完全に回復する見込みがない場合でも、より幸せな状態をめざすことが大事です。生活の中で自分なりの役割や生きがいを見つけたり、仲間や家族と一緒にいる感覚を味わったりすることは、その人の健康や幸福に寄与します。こうした生き方のサポートをすることもサルトジェニックな考え方であり、まさに在宅医療が貢献できる部分だと思います。

3.「集中」から「分散」へ

医療サービスの提供場所も変わっていくと思います。従来は大勢のスタッフがいて設備も充実している大規模な病院や施設に安心感を覚える人が多かったところ、これからは「在宅医療や在宅介護でも、自分にとって必要なサービスが提供されればそれでいい」という考え方が主流になっていくと考えられるからです。

 

こうした流れになったのは、エコーなどの医療機器や、クラウドカルテなどのICT(情報通信技術)の開発が進んだことで、質の高い在宅医療・介護ができるようになったことが大きいです。考えてみれば、1か所に人を集めて医療や介護を提供することは、効率性を追求したシステムだといえます。しかし、技術の発展で在宅医療・介護が不利とされてきた部分が薄れ、「在宅でサービスを受けられる」というメリットが際立つようになると思います。

 

 

「地域包括ケアの対象は介護が必要な高齢者だけ」と考えている人もいるようですが、本来はすべての人が対象になるべきですよね。地域で生活するために医療や介護を必要とする人、もっと軽いヘルスケアを必要とする人など様々ですが、その全員が対象になるということ。そして、高度な医療を利用できることよりも、利用しなくて済むことのほうが、より価値が高い。これらは当たり前のようでいて、割と忘れられていることです。これらのことを前提として、皆さんが提供するサービスの価値は何なのかということをしっかりと再定義し、突き詰めていくことが大切なのかなと思います。

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