2020.11.20
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医療材料の調達の極意!【調達編】
マスク不足に陥らないために医療機関ができること

国立国際医療研究センター総務課調達企画室長、斎藤知二さんに聞く

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が深刻化した春先、医療現場ではサージカルマスクをはじめとする医療材料が大きく不足し、大混乱に陥りました。国立国際医療研究センター(NCGM)総務課の斎藤知二調達企画室長は、混乱の原因の一つとして前近代的な物流システムの問題点を指摘し、「医療材料の物流情報の見える化が急務」と話します。斎藤氏にコロナ禍で浮き彫りになった物流の課題や医療現場が今後取るべき対応策について聞きました。
 
取材・文/横井かずえ
写真/山本 未紗子(株式会社ブライトンフォト)
編集/メディカルサポネット編集部

問題は物流情報を把握する仕組みがないこと

そもそも戦後の日本の医療は、医薬品や医療材料を製造するメーカーと使用する病院、そしてその間をつなぐ卸売業の存在があって成り立ってきました。今のようにインターネットやICTによるシステムのない時代、それは極めて現実的な仕組みだったのです。そのため物流のシステム化が進まないまま、ある意味で人情味あふれる、ある意味では非効率的な仕組みが70年以上、続いてきました。

  

しかし今回のような想定外の医療材料不足が起こると、物流情報を把握する仕組みがないことが裏目に出てしまいました。医療材料の流通が国全体でどのような状況になっているか把握する術がなく、医療現場に大混乱が起きたのです。

 

大規模な医療材料の不足が起きたのは、物流情報がないこと以外にも原因があります。例えば、日本におけるマスクの大半を主に中国からの輸入に頼っていることも原因のひとつです。多くの病院が経営上の理由から安価な海外製のマスクに1本化し、在庫の縮小に努めてきたことは、マスク不足に拍車をかけました。

  

取材に応じる国立国際医療研究センター調達企画室長の斎藤知二さん  

  

■各国がマスクの輸出を制限、しかし日本では・・・?

 

このほか行政の対応にも課題があります。報道によれば台湾や韓国、アメリカをはじめとする多くの国が、コロナ禍において何らかの医療材料の輸出制限を行いました。一方で日本が輸出制限をしたという話は聞きません。

 

実はマスク不足が報道されるようになって以降、私のところにはいくつかの業者から「日本製マスクを買いませんか」というメールがありました。メールには「すでに●●万枚は海外へ輸出済みです」「今、在庫がある日本製マスクは、海外輸出も国内販売も可能です」とあったのです。

 

これらのメールの真偽は分かりません。価格も高額でしたし、事前の入金を求めるなど信頼性に欠ける点があったため、実際の取引には至らなかったからです。しかし、もしかしたら一部、実際に海外へ輸出した業者もあったかもしれません。こうした実態を行政が把握していないこと、また法規制が皆無であることは、今後の医療材料の調達を考えた際に、大きな不安材料になると感じています。

 

■使用量の実態は「1日当たり」「箱数」で把握

 

課題を整理した上で、改めて国立国際医療研究センター(NCGM)がコロナ禍で行った対応をご紹介したいと思います。

 

医療材料の安定供給のためには、まず使用量の実態を把握することが大切です。NCGMの場合、サージカルマスクの使用量はコロナ前には1日約2500枚、コロナ後は約3100枚で、使用量は約25%増加しました。

 

もしも普段の使用量を正確に把握できていない場合は、目安として7月の使用量を把握するのがお勧めです。特に急性期病院であれば、7月の使用量を見ればおおよその年間平均値に近い数量を把握することができるでしょう。

 

使用量の把握は「1日当たり」「払い出しの最小単位(箱)」で把握することが重要です。払い出しの最小単位で把握しなければ、枚数では足りていると思っても現場に足りなくなることが発生するからです。

 

使用量の変化については、病棟はもともと定数配置が十分にされていたので、大きく変わりませんでした。一方で、外来およびバックヤードでの使用量が増える傾向がありました。外来やバックヤードなどは使用量が把握しにくい部門でありながら全体量に与える影響が大きいため、そうした部門での使用量を正確に把握することが重要になります。

 

また、医療現場に提供するマスクの量が極端に少ない場合は、院内感染管理室などと相談の上で行う必要がありますが、バックヤードは自前の布マスクで対応する、マスク以外の医療材料は一部、リユースを採用するなどの工夫も必要になるかもしれません。

 

 「(正確に把握していない場合は)マスクは7月の使用量を目安に把握するのがお勧め」と話す斎藤室長

   

■サージカルマスクの値段はコロナ前より2~5倍にアップ

 

在庫管理にも注意を払う必要があります。NCGMでは通常在庫は現場に3日分、中央倉庫に4日分で合計7日分を備蓄しています。コロナ禍では一時、7日以上の積み増しをしましたが、通常の在庫を積み増す場合は7日分を1単位として検討してはいかがでしょうか。

 

また、今後は購入方法にも工夫が必要です。医療材料の大規模不足時にメーカーが行う出荷調整は、日頃の購入状況に左右されます。そのため平時から複数のメーカー品を採用する、製造国を別にするなどの視点も大切です。

 

なおサージカルマスクの価格についても触れたいと思います。これまでNCGMでは1枚あたり2.5円で購入していました。これがコロナ禍では最大で1枚57円、平時の約22.8倍となり、現在では複数メーカーからの購入で1枚当たり5.6円~13.8円、コロナ前と比べて2.2倍~5.5倍になっています。

 

■国産品を購入することは大切なリスクヘッジ

 

ここでひとつ、医療材料の購入について私たち皆が考えなければならないことがあります。最初に、マスクの大半が安価な輸入製品に頼っているとお話しました。これは経営面から仕方のないことでしたが、そのことが今回、大きなリスクとなると肌で感じたと思います。

 

つまり、個人防護具の生産の大半を他国に依存することは、国家安全保障の上で大きな問題となり得るのです。

 

マスク不足をきっかけに、製紙メーカーの大王製紙がマスクの生産を始めました。報道によれば7月には月当たり2600万枚の生産を目指すとされていて、これは医療用マスクの国内生産量の4分の1に相当し、大変、期待されるところです。

 

当然のことながら国内生産品は中国製などと比べて価格は上がります。しかし、医療材料の輸入依存が今回の混乱を招いたとすれば、万が一の「リスクヘッジ」として一部、国産品の購入に切り替えることを検討する必要があると考えています。

 

 「リスクヘッジとして国産品の購入を検討する必要がある」と話す斎藤室長

  

■医療材料の物流情報「見える化」が急務

 

最後に再度お伝えしたいのは、今回、マスクを始めとする医療材料不足で大きな混乱を招いたのは、ひとえに「医療材料の物流に関する情報」が不足していたことだと言っても過言ではありません。現在はインターネットで商品を購入すると追跡番号で今、商品がどこにあるのかすぐに確認できますよね。

 

ところが、医療においては、いまだに電話やメール、FAXでやり取りしているのが現状です。医療現場に欠かせない資源の流通状況が不透明で、まったくわからない状況はあまりにリスクが高いと言わざるを得ません。流通情報の管理は、技術的にはすでに整備されているものの、十分に活用されていない状況が続いています。

 

NCGMでは2017年から、バーコードやRF-ID(電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステム)を活用した医療材料の物流の効率化や医療安全の向上を有志で検討してきました。2019年にはNCGMの美代賢吾医療情報基盤センター長を代表とする「医療材料統合流通研究会」として発展させて検討と検証を進めています。流通情報の見える化は急務である一方で、厚生労働省やメーカー任せでは状況は改善しません。今後、二度と同じような混乱を起こさないためにも、物流情報の見える化の普及にご協力をいただきたいと願っています。

 

プロフィール

斎藤知二(さいとう・ともじ)
1991年、国立病院医療センター(現国立国際医療研究センター)に入局し、95年に同センターで関東信越地域初のSPD導入を主導した。99年に国立横浜病院への異動を始め複数の国立病院で実務を経験。07年、国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)へ異動し、11年には同センター一括調達型SPDの導入を主導した。NHO栃木病院(現NHO栃木医療センター)、NHO久里浜医療センターを経て、2019年から現職。

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