2021.02.02
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杉浦 佳子さん(薬剤師+パラアスリート)

+αで活躍する医療従事者 vol.9

 

+αで活躍する医療従事者 vol.4 久保 さやかさん(看護師・保健師+人材育成・組織開発コンサルタント)

  

編集部より

医療従事者の中には「+α」の技能を生かしながら病院以外の多彩なフィールドで活躍する人も少なくありません。こうした人たちは、どのような経緯で「+α」を学び、仕事に生かしているのでしょうか。今回は、薬剤師・スポーツファーマシストであり、パラリンピックの自転車競技で金メダル候補と期待される杉浦佳子さんを取材しました。子育てをしながらの薬剤師免許取得、薬剤師として仕事の絶頂期に事故で高次脳機能障害の後遺症を負うなど、医療者であり同時に患者でもある杉浦さんだからこそ伝えたい「患者の気持ち」や「逆境の乗り越え方」などを伺いました。

 

取材・文/横井 かずえ(医療ライター)

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

写真提供/山中 光

編集/メディカルサポネット編集部

 

+αで活躍する医療従事者 vol.9

プロフィール

杉浦 佳子(すぎうら けいこ)
静岡県出身。薬剤師・スポーツファーマシスト。
北里大学薬学部卒業後北野調剤薬局入社。2016年、くも膜下出血、頭蓋骨・鎖骨・肋骨・肩甲骨骨折等により高次脳機能障害となり、北野調剤薬局退職。

2017年 パラサイクリング世界選手権WC3 タイムトライアル金メダル獲得
2018年 パラサイクリング世界選手権WC2 ロードレース金メダル獲得、UCIアワード賞受賞
2019年 パラサイクリング世界選手権WC3 トラック500mTT銀メダル獲得 ロードタイムトライアル銀メダル獲得 ロードレース銀メダル獲得
2020年 パラサイクリング世界選手権WC3 トラック500mTT 銅メダル獲得

◆薬種商の家に生まれ、子育てしながら薬剤師免許を取得

――ご実家は代々、薬種商で薬店を営んでいたとうかがっています。薬剤師を目指したのはやはりご実家の影響が大きかったのでしょうか?

 

実家は静岡県の掛川にあり、曾祖母の代から薬種商で、薬店を営んでいました。実家の薬店は、今でいう健康サポート薬局のような役割を地域で果たしていました。子どもに熱が出たといってお客さんが来れば夜中に店を開けたり、地域の人がふらっと立ち寄って血圧を測り、おしゃべりして帰ったり。子どもながらに「祖母や母の仕事は、みんなの役に立っているな」と感じていました。そのような環境で育ったため、私自身も周囲から、いずれは薬剤師になることを期待されて育ちました。

   

ただし、自分の意志ではっきりと「薬剤師になりたい」と感じたのには、きっかけがあります。高校を卒業後に東北薬科大学へ入学したのですが、すぐに妊娠して退学しました。薬剤師になるという周囲の期待を裏切り、資格もなく、高卒で子どもを育てていく中で、自分の将来を想像した時に、「母のように誰かの役に立ちたい。そのためにどうしても薬剤師になりたい」と心の底から思ったのです。そこからは子どもが寝ている時間を使って猛勉強し、北里大学薬学部に入学しなおしました。

 

――子育てをしながら大学に通い、薬剤師の免許を取得するのは大変だったと思います。

 

私の場合は、時間がない方がかえって集中力が発揮できましたね。子どもが寝ている間にレポートを書くのですが「いつ、起きるかわからない」と思うと必死になって、1分でも早く終わらせようと集中できます。実習も保育園のお迎え時間までに終わらせないといけないので、昼ご飯を食べたらすぐに予習を始めて、いつもクラスで1番に終わらせていました。周囲からは「ペアを組みたくない相手」と嫌がられてしまいましたが……。

  

+αで活躍する医療従事者 vol.9

同級生と比べて異色な存在になることを懸念し、子どもがいることを伝えなかったという

◆薬学的知識を生かしてアスリートを支えるスポーツファーマシスト

――大学卒業後は北野調剤薬局に入職し、当時は珍しかった訪問薬剤管理指導などにも取り組んだそうですね。

 

訪問薬剤管理指導を始めたきっかけは、近隣で訪問診療を行っていた医師が、薬を配達する薬局を探していたことです。ちょうど2000年から介護保険制度がスタートする前後の時期でした。周囲で訪問をしている薬局はほとんどなく、手探りでの挑戦でもありました。しかし、患者宅に行くと、外来では決して知ることができない「在宅だからこその情報」を得ることができて、本当に実りの多い経験になりました。

 

例えば、「この人は薬が全然飲めていないのにこんなに元気。ならば薬を減らしてもいいのでは?」という情報は、在宅だからこそ初めて知ることができます。こうした情報を医師にフィードバックして処方量を調節し、10種類の薬剤が6種類にまで減薬できたケースもありました。ここでの経験を生かして高齢者の服薬状況について、論文にまとめることができたのもよい経験です。 

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