──竹の葉薬局三鷹新川店は、隣に病院がなく、郵便局とコンビニに挟まれたような場所にありますが、なぜここに店舗を構えたんでしょうか?
朴紘慶さん(以下、朴):開局時から在宅医療でやっていくことは決めていたので、立地よりどちらかというと交通利便性と訪問可能な範囲の絞り込みを重要視しました。ケアマネージャーや訪問看護師の方からも、「どの辺まで来ていただけるんですか?」とエリアで聞かれることが多いです。
──採算性に不安は感じませんでしたか?
朴:振り返ってみると、地域との関係性もなく、採算の基礎となる施設担当の話も一切ない中で、本当によく出したと思いますよ(笑)。同業者の人に話すと、「無理だからやめておけ」とか、「できるわけない」とか口をそろえて言われました。そう言われるたびに、「本当によかったのかな」ってちょっとは落ち込むわけですよ(笑)。だから立ち上げ当初は、薬局関係者にはできるだけ会わないようにしていました。
さまざまな勉強会で講師を務めている朴さん
──地域との関係性がない中で、どうしてやろうと思ったんですか?
朴:在宅の必要性に関しては、疑う余地はありませんでした。それと、薬剤師の仕事で矛盾を感じていたことがありまして。病院の隣で処方箋を受けて対応する薬局だと、患者さんの希望と医師の治療方針が食い違った際に、薬剤師として正しいと考えたことを医師に強く言えないということが起こるんです。「薬剤師が患者に余計なことを吹き込んで、けしからん」とか、「医師の治療方針と違う」とった理由で「あそこの薬局に行くな」なんて言われたら、経営的に生き残れません。薬剤師の専門性を発揮するために、1つの医療機関に依存せず、処方箋のシェア率を分散させるビジネスモデルを実現させたいと思ったことも大きいです。果たしてそういった薬局が成り立つのか、挑戦してみたかったんです。
──薬剤師としての職能を発揮するために、在宅を選んだんですね。立ち上げから地域に根付くまでの過程で大変だったのは、どんなことですか?
朴:軌道に乗るまでの採算性ですね(笑)。はじめの頃は地域の勉強会に参加すると、ケアマネージャーや訪問看護師の方から、薬剤師の悪口をいろいろ言われました。「なんか上から目線で言ってきてムカつく」とか、「『先生に確認しておきます』と一応お伺い立てるけど、本気で伝えてないでしょ」とか。そういう負の遺産が僕にぶつけられました(笑)。そこで、薬剤師と連携する中で経験された嫌な思いを1つずつ拾い集めて、「薬剤師は実はこういうことをしてるんです」と舞台裏を伝えるようにしました。「先生に電話して資料も送ったけど、『経験上こっちがいい』の一言であっさり片付けれた」とか話すんです。すると、看護師も同じような経験をしているので同じ苦しみを共にした感じで仲間になれるんですよね。
電話は必需品。訪問看護師やケアマネージャーらと頻繁に電話で話す
地域連携の鍵は、できることを明確にすること
──そんな中、地域で連携していくために、どんなステップを踏んだんですか?
朴:地域のケアマネージャーやヘルパー向けの勉強会には「テーブルシェア」という時間があるので、まずは参加して薬剤師の専門性を発揮したアセスメント(評価)をお伝えしました。その後は、名刺交換した事業所にフォローアップとして、社内研修を請け負うようにしています。スキルアップのために定期的に研修を企画している事業所が多いので、講師として呼んでもらえるような働きかけをしました。
──講師になるのはハードルが高そうですが、勉強会はどんな内容で進めるんですか?
朴:それが見つかるまではかなり大変でした(笑)。簡単に取り組めるのは、薬で困っていることをアンケートに書いてもらう方法です。それに答える形だと、研修会と言っても普段の業務の延長線上にあるので、準備の労力も精神的な負担も少なくて済みます。あとは、自社で提供できる患者説明用パンフレットを一式渡す方法もあります。「在宅医療の知恵袋」と呼んでいるんですが、それを渡して薬局ができることを知ってもらいます。みんな難しいことができるとアピールすれば依頼が来ると誤解しているんですよね。実は、薬局が提供できるサービス内容を明確にして伝えることの方が大事なんです。
在宅の方が薬の傾向があり在庫管理はしやすいという
──そんな患者さんの願いを叶えるために、薬剤師さんはどんなことをするんですか?
朴:これは一例ですが、医療用麻薬と24時間持続の点滴をしているがん末期の患者さんで、「孫の演奏会にどうしても行きたい」という希望のある方がいました。ケアマネージャーは「重症な人でも対応してくれる介護タクシーを手配します」とか「点滴を乗せられる車椅子を手配します」、看護師は「演奏会の間座っていられるようなリハビリをしましょう」といった提案をしていました。薬剤師としては、その時間だけは点滴を外せないか検討したり、もし外せない場合には機械がピーピーならないようにエラー内容のチェックをする。あと、医療用麻薬のベース用量を増やすと眠気が出ることがあるので、痛みが出た時にだけ飲む頓服で調節できないかなどを検討しました。そういったことを医師への提案も含めて、チームで共有していきます。このような医療に対する思いを共有できるメンバーは地域でも限られているので、患者さんのニーズに応えようとする中で自然に集められる感じになってきました。
店舗にいることよりも患者宅へ出かけている方が多いという
言葉の奥の思いをくみ取る
──お看取りも多いと思いますが、何か心がけていることはありますか?
朴:患者さんにとって人生は一度きりで、死は初めての経験です。提供する側もやり直しがきかない緊張感があります。ベテランの方に聞いたら、「普段と変わらないように接して下さい」って言われました。まあ、それができないから苦労しているんですけどね(笑)。よくある質問の1つが「あとどれくらいですか?」。この質問には、「あとどれだけの期間を生きられるのか」と「最期を迎えるまでにどのような過程があるのか」という2つの意味があると思っていて、分けて考えるようにしています。前者の場合には、家族と話すきっかけを促したり、最期に思いを伝えるために会いたい人を呼ぶよう提案したりします。後者の場合には、本人や介護者に看取りへ向かう前によく起きる発熱やせん妄などの身体的な症状を伝えます。これを事前に理解しておくと、本人も介護している側も正常な身体的症状なんだと心の準備ができているので、安心されます。患者さんの言葉の意味を整理して、奥にある思いを探ることも専門職の役割だと心がけて接しています。
──在宅医療は24時間の夜間対応や土日の緊急出動など、薬剤師さんにとっては大変な部分もありますが、実際どうですか?
朴:まず、在宅は1人では無理ですね。当番制にして1人で抱え込みすぎない体制を作る必要があります。休日当番の頻度だけではなく業務効率などを考慮して継続可能な人員を考えると、薬剤師が3人、事務が2人くらいの体制で収益を上げられる基本モデルを明確にすることが大切だと思います。
──どんな薬剤師、薬局を目指されていますか?
朴:地域で活躍できる薬局、薬剤師を目指しています。その役割には大きく分けて3つの要素があると考えています。1つ目は、薬物治療の専門性を発揮すること。2つ目は、医療チームの一員としての機能すること。3つ目が、地域から信頼されるパートナーとして認められること。薬剤師は単に薬の説明をする人ではなく、本来、薬物治療の専門家です。患者さんのニーズを聞き出すためには、服薬指導というより「服薬ヒアリング」という表現のがイメージしやすいと思います。例えば、食後の薬を飲むために知らず知らずの内にご飯の量を減らすなど、患者さんが無意識にしている行動を拾いだします。医療チームの一員として、リハビリや治療の動機付けの部分を患者さんから聞き出します。仕事を「薬剤」の周辺まで広げていき、チームのメンバーにも積極的に取り組んでもらえるよう働きかけるような感じ方です。熱心な訪問看護師らに現場で教えてもらうことが多いです。
「在宅の7つ道具」が入っているというマイバッグを手に患者宅へ向かう
はじめの一歩は、はじめの一件を受けることから
──在宅に取り組んでいない薬局さんが「在宅を始めたい!」と思ったら、まずどんなことをしたらいいでしょうか?
朴:はじめの一歩は、はじめの一件を受けること。薬局へ薬を取りに来ている方の中から、在宅医療が必要な方をあぶり出します。「認知症の薬を飲んでいる」とか「いつも家族やヘルパーが取りに来ている」とか訪問を必要としている方に気づいていないだけで、実は結構います。あと、連携しているクリニックに「介護保険を利用している患者さんで、お困りの方はいませんか?」と聞いてみる方法もあります。
そうやって見込みリストを作るところから始めてはどうでしょうか。
無意識にしている行動も把握できるよう細やかな対話を心がけている
竹の葉薬局 三鷹新川店
住所:東京都三鷹市新川6丁目3-10-101号室
URL:http://takenoha.jp/ TEL:0422-24-8346
在宅医療に特化した保険薬局。無菌調剤対応、医療用麻薬取り扱い。朴さんの他、薬剤師が2人在籍している。