クリニックの定着率を上げる            

編集部より

自分のクリニックを立ち上げるのは、そこまでに大変な努力の積み上げが必要です。しかしそこで終わりではなく、開業した後は速やかに地域の信頼を勝ち得て経営を軌道に乗せる必要があります。

 

本記事ではこいけ診療所所長で医師の小池雅美さんに、クリニックが抱える大きな課題の一つである、スタッフの定着率の低さについて、解決のポイントを解説していただきました。スタッフの定着率があがり、働きやすい職場になれば、それはクリニックの利益率アップにもつながります。ぜひ、自院の経営の参考にしてください。

 

監修/小池雅美 医師 こいけ診療所院長

文/ 美濃佳奈子 薬事ライター

          

 

男性患者に笑顔で対応する女性看護師   

クリニック経営において課題の一つとなるのが、スタッフの定着率の低さです。スタッフが頻繁に入れ替わると、採用や教育にかかるコストがふくらみ、利益が減少する可能性があります。また、医療の質を維持し、患者さんに信頼されるクリニックを運営するためにも、スタッフとの協力は不可欠です。今回は、クリニック経営の観点からスタッフの定着率を上げるための施策について解説します。

 

 

1.スタッフが定着しにくいクリニックの特徴

窓越しに外を見る女性看護師の後ろ姿

 

医療業界では、長年にわたり人材不足が問題視されています。その一方で、スタッフの定着率が高く、安定した雇用を維持するクリニックもあります。では、スタッフの定着率が高いクリニックと、そうでないクリニックでは、どのような違いがあるのでしょうか。まずは、スタッフが定着しにくいクリニックの特徴を見てみましょう。

 

そもそものスタッフ数が少ない

適切なスタッフ数を雇用できておらず、1人当たりの業務負担が大きいクリニックでは、定着率が下がる傾向にあります。求人しているのに応募が少なく採用が間に合わないというケースだけでなく、利益率を考えて人件費削減を進めているクリニックも同様です

 

適切なスタッフ数を考えずに、雇用を打ち切ってしまう、そもそも採用しないという選択をするといった状況では、残ったスタッフに大きな負担がかかります。交代要員が不足しているため、急な休みをとりにくく、残業が発生しやすいといった労働環境面での問題も生じやすくなります。その結果、スタッフは心身の余裕を保てず、退職に至ると考えられます。退職に至らなくても、接遇や医療の質が低下してしまう可能性もあります。

 

人材不足が続く医療業界において、特に看護師の需要は高く、転職も容易です。待遇面で、よほどの好条件でもない限り、肉体的・精神的に大きな負担を強いられる職場環境で働き続けるメリットは少ないと考えるのも当然かもしれません

 

他の医療施設と比べて、待遇が悪い

給料が低かったり、休日が少なかったりすることも、スタッフの定着率を下げる要因になります。

上述した「スタッフ数が少ない」という状況に加えて、待遇面にも問題があれば、スタッフに定着を求めるのはかなり厳しいでしょう。

 

こうしたケースでは、新規採用にも大きな影響が出ます。医療スタッフ間で勤務先の評判が共有されることも多く、新規でスタッフを補充したいと思っても、応募自体が減ってしまい、新たなスタッフを確保できないという悪循環を招きます。場合によっては、採用にかけるコストが増大し、かえって利益率が下がることもあります。

 

スタッフの気持ちが尊重されない

近年は、男性看護師も増えているものの、依然として医療スタッフは女性の割合が高い状況にあります。一方で、経営者の多くが男性であり、お互いの価値観のすれ違いにより、退職につながってしまうことがあります。

女性の多くは「感情面での安全性」を求める傾向にあり、その職場で自分が必要とされているか、気持ちや言動を尊重してもらえるかといった信頼度がスタッフの定着に影響します。経済効率(コスパなど)や、好待遇(労働条件など)のみを重視した雇用では、共感を得られません。

クリニックでのスタッフ定着を考えるうえで、スタッフの気持ちを理解し、尊重する姿勢がとても重要です

2.病院看護師の離職率の現状と要因

あごに手を置き、書類を書く女性看護師 

スタッフの定着を考えるにあたり、まずは自クリニックの離職率を把握しておきましょう。クリニック内にはさまざまなスタッフが雇用されますが、目安となるのが看護師の離職状況です。

 

「2022年病院看護・助産実態調査報告書(日本看護協会調査研究報告 No.99 2023)」によると、病院規模別の看護師の離職率において、新卒・既卒ともに、99床以下(クリニック・診療所を含む)での離職率が最も高いと報告されています

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