公益財団法人介護労働安定センターが、2018(平成 30)年度に実施した「事業所における介護労働実態調査」、「介護労働者の就業実態と就業意識調査」の結果から、介護サービスに従事する従業員の不足感は 67.2%(66.6%)と2013(平成 25) 年以降、5 年連続で増加していることが分かりました。不足している理由は「採用が困難である」が 89.1%を占め、その原因として「同業他社との人材獲得競争が厳しい」と56.2%が回答。離職率は低下している一方、人材の不足感は依然として強いようです。
同調査からは、介護労働者の年齢割合や賃金の推移、外国人労働者と一緒に働くことへの意識なども分かりました。調査結果をもとにメディカルサポネット編集部でまとめます。
同調査は2018年10月1~31日に実施し、全国の介護保険サービス事業を実施する18,000事業所(無作為抽出)にアンケートを依頼、17,630件を回収しました。その中から、一事業所あたり介護にかかわる労働者3名を上限に、無作為に選出した54,000人に対しアンケート調査が実施されました。有効調査労働者数52,890人で、有効回収労働者数は22,183人です。
▼目次
Ⅰ.法人・事業所について
1.労働者の賃金について
2.事業所の運営状況
Ⅱ.労働者の雇用管理
1 労働者の介護に関する理由
2.事業所の取り組み
Ⅰ. 法人・事業所について
1.労働者の賃金について
■労働者の所定内賃金は年々増加
正規職員については、訪問介護員の月給は211,732円で、昨年より7,097円増加している。介護職員の月給は217,465円で昨年より2614円増加し、賃金は年々増えている。月給は介護職員が訪問介護員を5,733円上回った。
非正規職員の時間給については、月給では最も安かった訪問介護員が2番目に高く1,293円となっている。一方、介護職員は最も安く989円だった。訪問介護員の時間給は介護職員の時間給を304円上回った。
■約7割の事業所が正規職員へ賞与を定期的に支給
定期的に賞与を支給している事業所は正規職員へは69.6%、非正規職員へは40.4%だった。
制度の有無にかかわらず、経営状況に応じて賞与を支給している事業所を含めると、正規職員へは91.2%、非正規職員へは74.1%だった。
正規職員かつ月給の者への支給賞与額は、訪問介護員で400,003円、介護職員で576,014円だった。ともに前年度より増加している。
■介護職員処遇改善加算の取得、対応状況
介護職員処遇改善加算の取得状況は、取得した事業所は77.3%、取得してない事業所は9.6%、加算対象外の事業所が11.9%だった。
取得した事業所の介護職員処遇改善加算の対応については、一時金の支給が62.2%と最も多く、ついで、諸手当の導入・引き上げが60.2%、基本給の引き上げが41.9%と、給与系の項目が上位である。
2.事業所の運営状況
運営する上での問題点は人材や財源の確保
事業所を運営する上での問題点は、「良質な人材の確保が難しい」が56.3%、「今の介護報酬では、人材の確保・定着のために十分な賃金を払えない」が48.0%と人材確保および財源の確保が浮かび上がった。
■離職率は減少傾向
訪問介護員と介護職員の一年間の採用率は18.7%、離職率は15.4%。採用率が改善され、離職率は減少傾向が見られる。
事業所の労働環境が改善され、人材の定着が図られてきている。
■他産業比較にみる介護労働者の採用率と離職率
産業計の採用率は16.0%で、介護労働実態調査の採用率は18.7%である。
宿泊業・飲食サービス業が33.5%、生活関連サービス業・娯楽業が21.4%と上回っている。
一方、離職率については、産業計の採用率は14.9%で、介護労働実態調査の採用率は15.4%である。
宿泊業・飲食サービス業が22.1%、生活関連サービス業・娯楽業が30.0%と上回り、介護職の離職率が高くないことが見て取れる。
■勤続3年未満の離職者が全体の約6割
勤続3年未満の離職者は、訪問介護員正規職員が66.6%、非正規職員が57.3%、介護職員正規職員が58.8%、非正規職員73.7%といずれも高い数値だった。
勤続3年未満の職員へのフォローが必要である。
■増加する介護人材の不足感と不足理由
従業員の不足感は5年連続で上昇し、平成30年度は67.2%もの事業所で不足感を持っている。
不足している理由は89.1%が「採用が困難である」をあげている。
■増加する高年齢労働者
65歳以上の介護労働者は全体の12.2%、60歳以上では21.6%と高齢労働者の割合が高い。
なお、年代別では40代は25.1%、50代は22.2%である。
60代以上の介護労働者の割合は年々増加し、4年間で1.2倍となっている。
Ⅱ.労働者の雇用管理
1.労働者の介護に関する理由
■労働者が現在の仕事(介護)を選んだ理由
志望理由は多い順に「働きがいのある仕事だと思ったから」が49.3%、「資格・技能が活かせるから」35.5%、「人や社会の役に立ちたいから」29.5%と続く。
介護に対する社会的な印象ややりがいが挙げられているが、勤続1年未満での離職者が4割近くという現状で理想と現実のギャップが見て取れる。
■今の勤務先の継続意向
「今の勤務先で働き続けたい」と回答する人が訪問介護員では65.7%、介護職員で54.2%である。
一方、「わからない」と不安が見られるのは、訪問介護員で20.3%、介護職員で24.8%で、対応が求められる。
■労働者が現在の法人(職場)に就職した理由
就業の決めてとなった理由として「通勤が便利だから」「資格・技能が活かせるから」「やりたい職種・仕事内容だから」「働き甲斐のある仕事だと思ったから」など、労働者自信のやりがいになる項目が挙げられそれぞれ35%以上を占めている。
一方、「賃金の水準が適当だから」「法人の方針や理念に共感したから」「経営が健全で将来に安定しているから」「福利厚生が充実しているから」「子育て支援が充実しているから」「教育研修等が充実しているから」といった項目は10%未満ではあるが、これらは配慮を怠ると不満を抱え離職する要素ともなりうるため注意が必要である。
■労働者が思う「今の仕事や職場にあてはまること」
今の仕事や職場に対する考え方については、「利用者の援助・支援や生活改善につながる」「専門性が発揮できる」「仕事が楽しい」「福祉に貢献できる」など、現在の仕事のモチベーションともいえる項目を選ぶ労働者が多い。
一方、キャリアアップの機会や働きぶりへの評価など、仕事の明確化や評価については労働者が求める水準に達している事業所は多くない。
■労働条件・仕事の負担に関する悩みの上位は「人手が足りない」
訪問系、施設系(入所型)、施設系(通所型)を比較したところ、「人手が足りない」「夜間や深夜時間帯に何か起きるのではないかと不安がある」については、施設系(入所型)に大きなさが見られ、「労働条件・仕事の負担について特に悩み、不安、不満等は感じていない」についても、施設系(入所型)のポイントのみ低い傾向が見られた。
■労働者が抱える「職場の人間関係」等の悩み
職場の人間関係等の悩みについては「部下の指導が難しい」が最もたかかった。教育スタイルの違いをはじめジェネレーションギャップが大きい項目である。
また「職場での人間関係について徳に悩み、不安、不満等は感じていない」と答えてはいるものの、退職理由では「職場の人間関係」を挙げる人が多く、ギャップが見られる。数値に関わらず注意が必要である。
2.事業所の取り組み
■従業員の早期離職防止や定着促進のための取り組み
当期離職を防止し、定着を即しhンするための取り組みとして、訪問介護員と介護職員を比較したところ、「残業を少なくする、有給休暇を取りやすくする等の労働条件の改善に取り組んでいる」「新人の指導担当・アドバイザーを置いている」については介護職員が訪問介護員を上回る傾向が見られる。
■人材育成の取組について
人材育成のための方策について訪問介護員と介護職員を比較したところ、「教育・研修計画を立てている」は拮抗していたが、その他の項目については介護職員が上回る傾向が見られる。