
プロフィール
森田 夏代(看護師)
大学病院にて、主にクリティカル領域で一般職から看護管理者(病棟師長・教育専任師長)として約20年間勤務した後、一般企業や医療法人総合病院で副看護部長(看護部長代行)として勤務する。その後、大学院に進学し、看護管理の研究に取り組む傍ら、認定看護師教育センター・大学看護学科の教員として基礎看護教育と研究に従事している。看護が好きな看護管理者の育成を目指し、「キャリア中期看護師の転職支援と組織定着」を研究テーマに博士論文を進めている。
看護管理者がどのような思いでスタッフをまとめ、組織を運営しているのか、管理職以外の看護師からはなかなか見えにくい面もあります。大きな責任を背負う一方で、やりがいも大きい看護管理者という仕事にどのように向き合っていけばいいのでしょうか。
本コラムでは、看護管理者として複数の病院を経験し、現在は大学院博士課程で転職者教育の研究を進める森田夏代さんに、自身の経験を踏まえ、皆さんの看護管理の「知りたかった」に応えます。
コラム第3回目は、院内で開催する勉強会についてです。職員定着にもつながるきっかけにもなったという勉強会にこめられた森田さんの想いとは?
執筆・写真/森田 夏代
編集・構成/メディカルサポネット編集部
早いもので11月も終盤となりました。早い組織では、来年の計画を立案しだす頃でしょうか?
それとも、今年度もまた、こんなに看護師の退職者がいると頭を悩ませ始める時期でしょうか?
皆さんの病院では院内の看護部勉強会はどのように企画運営していますか?もちろん強制参加?参加できる人や興味ある人が参加する形でしょうか?忙しいから企画倒れでしょうか?
看護師が参加する院内研修会には、診療報酬上や組織規程で医療安全や接遇研修など年1回の開催や参加が義務付けられているものがあります。その他に、看護部独自で勉強会・研修会という名前で、日中に必須の研修を行ったり、夜間の時間外に研修を行っていると思います。今回は、この夜間や時間外で行う看護部勉強会が看護師の定着に結び付くヒントとなった例をご紹介します。
私が200床規模の病院で人事・教育を担当していた時のことです。病院自体は看護師200名ほどの顔のみえる人数で、病棟数も4病棟プラス手術部門と外来部門という環境なのに・・・看護師同士の雰囲気が・・・気になりました。
「あの病棟に来た新人さん」「この前入職した夜勤しない人」「あの病棟、こんなこと起きたらしいよ」などの噂レベルの共有はあっても、看護について病棟の垣根を越えられない雰囲気を感じていました。
このため、10月の時点で、1年間の看護部勉強会の予定をすべて中止としました。その代わりに、病棟企画・看護師主催の勉強会を月1回ペースで開催することを提案しました。
12月は内科病棟・1月は手術室・2月は外来・・・という形で開催月を決めました。
私が提案した勉強会の条件は、以下のものでした。
テーマ:自由
講師:看護職なら誰でも自由 所要時間:60分 資料:自由(配布資料があってもなくてもOK・演技でも朗読でもOK) その他:年間スケジュールなので中止は認めない (病棟が忙しいなら、管理者が調整して講師は勉強会に出るよう管理) 看護師以外の講師を活用するなら30分は医師が担当し後半30分は看護師が担当 例えば医師が疾患の講義をしたら、最後に医師から「看護師に望むこと」を必ず話してもらう |
看護管理者には、「1年に1回しか順番は回ってこないので・・・看護師と十分に企画を検討して下さい」と伝えました。
また、「一般職の看護師に担当や講師を依頼できないなら、管理者が講師をして手本を見せて下さい」とも伝えました。
開催月が決まっていれば、準備の時間は沢山あると思いませんか?
勉強会参加条件も、夜間の時間外の勉強会なので、参加自由・欠席してもレポートなどは課さないこととし、興味のある月に参加を呼びかけました。
趣味のお菓子教室で作ったアップルパイ。満足のいく仕上がりとなりました。
病棟企画・看護師主催の勉強会でどのようなことが行われていたか、少し紹介します。
整形外科の病棟は「大腿骨頚部骨折について」というテーマで、30分は医師から病態と治療の講義プラス緊急入院を受け入れた看護師さんに望むことの講義でした。その後、病棟看護師は「骨折時のマットレスの選択とけん引機材の組み立てをやってみよう」というテーマで、ベッドと機材を持ち込んで、参加者とともにけん引機材を組み立てました。
手術室は「手術室看護師は怖い?私たち、こんな看護をしています」というテーマで、帝王切開術を受ける妊婦さんに手術室でママと赤ちゃんの写真を撮り、色紙に写真と手術室看護師と麻酔科医師からの寄せ書きを書いて、術後訪問時にプレゼントするという手術室看護師の行う看護を発表しました。
勉強会開催によって、うれしい変化が起こりました。各病棟の看護師が「自分たちはどのような看護をしているか?」「こんなことを考えています」と伝えることができるようになったのです。また、勉強会で講師となった医師は、以前は緊急入院などで慣れない病棟に行くと緊張して口調が冷たくなったり、指示の出し方が異なり看護師とトラブルになることもありましたが「看護師さんに望むこと」を一言伝えることで、お互いの見方や雰囲気が少しずつ変わったようでした。
勉強会が4回ほど進んだ時期から看護師から「緊急入院が入っても、いつもうちの病棟だけと思わなくなりました。今日は手術も多いからお互い様ですよね」「当該診療科以外の患者さんでも困れば、講師をしていたあの看護師さんに電話できるし・・・患者さんのこと考えれば、短い入院期間なら、うちの病棟で看ます。病棟移動は患者さんもストレスですよね」「怖いと思っていたあの看護師さん、優しかったんです」などの声が聞かれるようになり、それまで越えることができなかった壁を1つクリアしたことで、私の感じていた看護師同士の雰囲気~病棟間のライバル意識のようなもの~が少し和らいだようでした。
そして1年2年と病棟企画の勉強会を繰り返すうちに、看護師から「今年は私の病棟が1番最初に開催したいです」「今年のテーマは、決まっています」と声が上がるようになりました。医師からも「今年は僕には、出番ないんだよね」とか「今年は僕ももっと話がしたい」等と協力してくれるようになりました。
勉強会や研修というと経験豊かな人や職位のある人・特別な研修を受けた人・医師しか講師になれないという先入観や、強制参加・講師を指名されたという「やらされ感」が強くなります。
しかし、自分たちの看護を周囲に伝えることの楽しさ・強制ではない自発的な参加で効果を発揮すること等を看護師自らが経験し実感しました。
そうすることで、以前コラムでお伝えした「職場風土」が良い方向に変化するという副産物が生れました。
看護師の定着には、お互い(看護師同士・病棟同士)がどのような看護をしているかを知る・理解すること、看護を共有することからスタートするのかもしれません。
病棟主催の勉強会を行うことで「私たちの看護=看護部の看護=病院の看護」が明らかになり、働くのが楽しい?もう少し働いてみようかな?に繋がり、退職率低下の誘因となりました。
皆さんの病院でも、来年度の勉強会・院内教育の参考にいかがでしょうか?
アップルパイが焼けたあとは、テーブルコーディネートも楽しみながらのティータイムです。
プロフィール
森田 夏代(看護師)
大学病院にて、主にクリティカル領域で一般職から看護管理者(病棟師長・教育専任師長)として約20年間勤務した後、一般企業や医療法人総合病院で副看護部長(看護部長代行)として勤務する。その後、大学院に進学し、看護管理の研究に取り組む傍ら、認定看護師教育センター・大学看護学科の教員として基礎看護教育と研究に従事している。看護が好きな看護管理者の育成を目指し、「キャリア中期看護師の転職支援と組織定着」を研究テーマに博士論文を進めている。