2018.11.09
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腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(LapPD)の今後の展望について

メディカルサポネット 編集部からのコメント

保険適用となり、実施施設数も増加傾向にある腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(LapPD)。熟練した技能を持つ施設のみで行われていくべき手術ですが、施設基準が厳しいため、手術ができない施設があったり、基準はクリアしても手術があまり行われていない現状があります。また、専門の固定チームが重要とされているので、今後LapPDの導入には、領域を超えた横断的な取り組みが重要です。なお、次世代の高難度新規手術に各施設が真剣に取り組むことは、エキスパートの外科医育成、若手外科医育成にも有用とのことです。

 

腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術は,2016年4月より「原則として脈管の合併切除およびリンパ節郭清切除を伴わないもの」に対して保険適用となり,実施施設数も増加傾向にあると思います。ただし,手術時間が開腹手術以上にかかることや,術者の教育の問題〔まず開腹膵頭十二指腸切除術pancreaticoduodenectomy:PDに習熟した者が腹腔鏡下(laparoscope:Lap)PDに進んでいくべきなのか,消化器内視鏡手術のトレーニングを積んだ後,開腹PDの経験を経ずにLapPDへと進んでいくのかなど〕など,検討すべき問題も存在するのではないかと考えます。今後LapPDはその適応を拡大し,開腹手術と同様の地位を占めるようになるのか,さらには開腹手術にはないメリットを生かして開腹手術を凌駕する可能性も秘めているのか,今後の展望に関して東京医科大学・永川裕一先生にご解説をお願いします。

 【質問者】

青木 琢 獨協医科大学第二外科学内教授

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【回答】

【導入に真剣に取り組むことが,エキスパートおよび若手外科医育成に有用である】

 

(1)LapPDとは

LapPDは,わが国で腹腔鏡下胆囊摘出術が始まり出した1994年にGagnerらが世界1例目を行いましたが,当時のデバイスは良くはなく,とても勧められない手技として報告され,しばらく報告例はありませんでした。その後,様々な臓器で内視鏡外科手術が普及していく中,2010年近くになってインドのPalanivelu,米国のKendrick,韓国のKimらがLapPDの良好な手術成績を報告し,その後,多くのエキスパートからlearning curve後のLapPDの手術成績は良好で手術時間も大幅に短縮されることが報告されています。

 

当科でも現在の平均手術時間は6時間前後で導入時より大幅に短縮しつつあり,安定した技術が得られれば小さな創ですみます。拡大視効果で得られる繊細な手術を可能とするLapPDは,ロボット手術の普及も考えると,熟練した外科医が取り組んでいかなくてはいけない大切な術式と考えています。一方で,高い手術技術が必要とされるため,手術件数の少ない施設でのLapPDのmortalityが高くなる報告がされています。このため現在では,どこの施設でもLapPDを行っていくのではなく,熟練した技能を持つ施設のみで行われていくべき手術と考えられています。

 

(2)わが国の施設基準

わが国でのLapPDは,高難度新規手術導入における重大な問題が浮き彫りとなり,世界から遅れながら2016年にリンパ節郭清を伴わないLapPDが保険収載されました。一方で厳しい施設基準が設けられ,その基準を満たす施設はごく一部の超ハイボリュームセンターに限られる,また厚生労働省から病院へ,保険収載されても自施設で初めて行う術式は,他施設の指導者を招いて行うよう指導されていると聞いています。加えて高難度新規医療技術導入プロセスにおけるシステム構築は諸学会を中心に確立され,LapPDでは全例,術前にNational Clinical Database(NCD)への登録が義務づけられており,手術適応においては関連学会と連携していく必要があるとされています。また,膵臓内視鏡外科研究会・日本肝胆膵外科学会・日本内視鏡外科学会では,合同で腹腔鏡下膵切除術の安全性評価のための前向き症例登録システムが構築されています。

 

(3)現状の問題点と今後の課題

一方で,高度な内視鏡外科手術や膵臓外科手術の技能を持っている外科医がいるにもかかわらず,あまりにも厳しい施設基準で,開腹PDの年間必要症例数に達することができずLapPDを行うことができない施設があるという問題や,施設基準をクリアした超ハイボリュームセンターではLapPDはあまり行われていない現状があります。

 

もう1つの問題として,高難度新規手術導入時に安定的な手術手技を確立させる上での具体的な取り組みは各施設で様々ということがあります。導入時は術者のみならず助手,カメラ助手を含めた専門の固定チームが重要とされていますが,内視鏡外科手術に精通した膵臓外科医は少なく,現在の消化器外科領域では,上部消化管,肝胆膵外科,下部消化管手術でグループがわかれている施設が多く,既に安定した術式を確立した上部消化管,下部消化管領域からの内視鏡外科手術の技術が膵臓外科領域に応用できていないことも普及の遅れに関係していると思われます。領域を超えた何らかの横断的な取り組みが,安全確実なLapPDを導入していく上で重要と思われます。

 

(4)当科の取り組み

当科ではLapPD導入の際,チームミーティングを何度も繰り返し,術式の定型化を図ってきました。そうすることで,チーム内で手術の定型化が安定した手術を行う上で重要であることを再認識し,結果として開腹も含めたあらゆる術式においても同一術式で行うことが好ましいとの考えに達し,その後,すべての術式をチーム内で定型化した結果,開腹手術の手術成績を飛躍的に向上させることに成功するに至りました。チーム内で定型化した手術は,若手の育成にも有効であると感じています。

 

多くの患者が外科医に求めていることは,高度なテクニックを持った手術であり,LapPDやrobotic PDなど次世代の高難度新規手術において,各施設で,その導入プロセスの構築に真剣に取り組むことは,エキスパートの外科医育成のみならず,若手外科医育成にも有用になると心から感じています。

 

【回答者】

永川裕一 東京医科大学消化器・小児外科学分野准教授

 

執筆:

青木 琢 (獨協医科大学第二外科学内教授)

永川裕一 (東京医科大学消化器・小児外科学分野准教授)

       

 出典:Web医事新報

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