2020.09.01
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驚きのコストパフォーマンスで薬局のピッキング作業を支援
調剤業務の効率を上げる「シルバコンパス」とは?

まるでカーナビのようにスタッフを誘導し、必要な薬剤のところまで最短ルートで導いてくれるPickingCompass(以下、ピッキングコンパス)。調剤業務を効率化するこの画期的なシステムを開発したのは、株式会社シルバコンパスの井本健太郎氏(代表取締役)と安田晴彦氏(取締役)です。「ピッキングコンパス」は特許権を取得し、9月1日から販売が始まります。ピッキング支援システムがこれからの薬局業務をどう変えるのか、両氏に伺いました。

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)
写真/山本 未紗子(株式会社ブライトンフォト)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

ピッキングコンパスの前で笑顔を見せる株式会社シルバコンパスの安田晴彦さん(左)と井本健太郎さん

 

■「0402通知」に対応したピッキング支援システム

 

――まずはピッキングコンパスの開発に取り組んだ経緯を教えてください。

 

安田晴彦(以下、安田)開発のきっかけは、薬局内の決して広くないスペースの中で、薬剤師の方々が行きつ戻りつしながらピッキングしている姿を見て、「調剤業務をナビゲーションする仕組みが作れないだろうか」と発想したことです。医療については門外漢でしたが、調査を進めている間に「0402通知」※が出され、今後必要になる技術に違いないと確信して開発をスタートしました。私はもともと映像ディスプレイのソフト・コンテンツ開発に携わっていたので、その技術を応用しようと考えたのです。

※0402通知:2019年4月2日、厚生労働省が通知した「調剤業務のあり方について」と題された文書で、ピッキングや一包化した薬剤の数量確認などについて、一定の要件を満たせば非薬剤師による補助を認めることとしたもの。

映像ディスプレイのソフト・コンテンツ開発に携わり、ピッキングコンパスを開発した安田さん 

 

井本健太郎(以下、井本)私は「薬局のあり方を変えたい」という安田の熱意に打たれ、外資系の計測器メーカーから当社に移ってきました。開発の目標としたのは、薬剤師免許を持たない調剤補助員でもピッキング作業ができるよう、「判断を加える余地に乏しい機械的な作業であること」という0402通知の条件を満たすシステム。それがかたちになったところで、2019年10月に開催された「第2回地域包括ケアEXPO」内の薬局フェアへ出展しました。薬剤師や関係者の皆さんにご覧いただいたところ非常に反応が良く、自分たちのコンセプトは間違っていなかったと実感できました。

 

安田:開発においては「もし、自分がピッキングするとしたら……」という視点も意識しました。専門知識に乏しい人が、呪文のように長い薬剤の名前を正確に把握することは困難です。むしろ、場所だけを正確に案内してもらい、写真と現物を見比べるほうが、ずっと効率的だと考えたわけです。

 

――まずはピッキングコンパスの開発に取り組んだ経緯を教えてください。

 

井本:まず、処方箋のバーコードなどを読み取ると、患者さんや薬剤の情報が当社オリジナルのシステムに取り込まれ、PC端末に一覧で表示されます。そして、ピッキングを行うスタッフがリングマウスを装着してシステムを起動すると、薬棚の上に設置されたディスプレイの表示で「何色の棚から、どの薬剤を、いくつ取ればいいか」を教えてくれるのです。1つの棚から薬剤を取るたびに、リングマウスをクリック。すると、次の動きが指示されます。

 

リングマウスを装着し、実際にピッキングコンパスを操作する井本さん 

 

安田:リングマウスは最大で10個まで使用可能(2020年7月時点)。つまり、10人までのスタッフが同時にピッキング作業を行えるということです。各リングマウスをその日のスタッフに割り付けると、「Aさんは青」「Bさんはオレンジ」というようにマイカラーが決まるので、自分の色が表示されたディスプレイの指示に従う仕組みです。処方箋を手に持って、五十音順などに並べられた特定の薬剤を探していく従来の方法と比べると、非常にシンプルで分かりやすいはずです。

 

井本:ディスプレイには薬剤の名称と写真、ピッキングすべき個数だけでなく、必要に応じて注意喚起のメッセージも表示されます。また、システムですべての薬剤の位置を把握しているので、どのルートをたどれば無駄がないかも自動で判断されます。いわば、調剤室のカーナビですね。たとえ知識がゼロのスタッフでも、業務に入った当日から最短経路でミスなくピッキングできることをめざしました。

 

リングマウスを押すと次に取る薬剤が表示される。最大10人まで同時にピッキングが可能。 

 

薬剤師が本来業務に集中できる環境へ

 

――ピッキング支援システムは、現場の薬剤師にどんな影響をもたらすでしょうか。

 

安田:最大のメリットは、調剤補助員に薬剤の位置を説明したり、一緒に探したりする時間を削減できることでしょう。また、極めて正確なピッキングが実現できるので、監査を担当する薬剤師の負担を減らすことができます。もちろん、ピッキングに慣れているからこその思い込みによるミスも予防できますし、他店舗のヘルプに入ったときにもスムーズに業務に入っていくことができます。取り扱う薬剤の種類や収納場所は、そのエリアのニーズや店舗のレイアウトなどに応じて、全く異なりますからね。処方箋の小さい文字が読みづらく、何度も見返していた方や老眼などで苦労されていた方にも好評です。

 

井本:データが蓄積されれば、「棚位置最適機能」を使うこともできます。五十音順や種類別といった従来の整理法に縛られず、最も効率的かつミスの起こりづらい薬剤の配置を実現できるわけです。また、「在庫管理機能」も備えており、薬剤の残数が少なくなったときにアラートを出すことも可能。さらに、「薬棚の外」にある使用頻度の低い薬剤もしっかりと管理できます。ジェネリック医薬品も含めて、国内で使用されている薬剤の情報はすべてシステム内で網羅されています。

 

安田:薬剤師が高度な専門性を発揮し、疑義照会や患者さんとの対話といった本来業務に集中してもらうためにも、ピッキングコンパスを上手に活用していただきたいです。

 

 ピッキングコンパスのディスプレイに該当する薬剤の名称と写真、ピッキング個数が表示される

 

■より低コストで薬局業務の改善を図る

 

――ピッキングコンパスを導入するには、どのくらいの手間と費用がかかりますか。

 

井本:基本的には、その薬局で使用している既存の薬棚の上部に、厚さ2cm程度のディスプレイを設置するだけです。あとは、当社のソフトウェアが稼働する専用PCを設置すること、薬棚を色分けするシールを貼ることですね。10台のディスプレイ代を含む導入費用は約250万円(税別)で、一般的な自動調剤機と比較して初期コストを4分の1程度に抑えることができます。ランニングコストは月額数万円程度と想定し、消費電力も非常にわずか。大がかりな設備投資が難しい中小規模の調剤薬局でも、比較的導入しやすいのではないでしょうか。

 

安田:開発に協力していただいた埼玉県の颯薬局からは、「ディスプレイがきれいで直感的に理解できる」「ヘルプに入った人でもすぐに使用頻度の低い薬剤も見つけられ、時短につながる」といった声が届いています。業務効率の改善による人件費削減が、経営にとってプラスになることは間違いないでしょう。当社の計算では、最短10か月で初期コストを回収できます。2020年9月に販売を開始するので、ご興味のある方は、まずは無料モニターとして体験してみてください。

 

井本:現在、無人で患者さんの体温チェックや案内ができる「サーモコンパス」(特許出願中)という製品も開発・販売しています。「発熱している患者さんだけを別の窓口に誘導する」といった設定が簡単にでき、他の患者さんやスタッフを感染のリスクから守ることもできます。当社は今後も医療機関の業務支援システムの開発に精力的に取り組んでいくので、ぜひ期待していただければ幸いです。

 

 同社が開発中の「サーモコンパス」は検温とディスプレイ案内が可能。発熱患者を別室に誘導するなどの利用を想定

株式会社シルバコンパス

本社:静岡県浜松市中区西伊場町6
東京事務所:東京都港区浜松町1-1-2 汐留MKタワー3F
TEL:03-6809-1072
FAX:03-6809-1073

映像ディスプレイのソフト・コンテンツ開発に携わっていた安田晴彦氏(取締役)が薬局向けピッキング支援システム「ピッキングコンパス」を開発・販売するため、小学校時代からの友人である井本健太郎氏(代表取締役)を誘い、2019年9月に会社を設立した。現在は、ピッキングコンパスを中心に、医療・介護分野の業務支援システム事業を展開している。

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