2019.12.16
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コンニャク製の模擬臓器で手術トレーニングをもっと身近に

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コンニャク製の模擬臓器で手術トレーニングをもっと身近に

 

編集部より

感触はまるで本物の臓器そっくり、剥離も縫合も自在にできる―。そんな手術トレーニング用の模擬臓器が、コンニャクからできていると聞いたら驚きませんか? 衛生面やコスト面からも高い期待が寄せられている手術トレーニング用模擬臓器を開発したKOTOBUKI Medical株式会社。高度化する医療技術を支えるべく、商品開発に情熱を注ぐ高山成一郎氏(代表取締役)に開発秘話と今後の展望を伺いました。

 

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/東京写真工芸株式会社

編集・構成/メディカルサポネット編集部

腹腔鏡トレーニング機器の「手作りと数十万円の中間」を埋める

私の父が立ち上げた株式会社寿技研は、ラジコンタイヤの製造や機械加工などを手掛けるいわゆる町工場です。畑違いとも言える医療分野に進出し、別会社としてKOTOBUKI Medical株式会社を立ち上げた理由には、いくつかの「思いがけない出来事」がありました。

 

最初に作ったのは腹腔鏡トレーニングBOX。「大反響がありました」と振り返る高山成一郎代表

最初に作ったのは腹腔鏡トレーニングBOX。「大反響がありました」と振り返る高山成一郎代表

  

最初のきっかけは、2008年のリーマンショック。強烈な不景気のあおりを受け、下請けに専念していた寿技研の仕事量は半減しました。これからはただ依頼を待つのではなく、オリジナルの技術や製品を提案できなければ厳しいと考え、試行錯誤を始めました。なかなかいいテーマが見つからず苦しい時期が続きましたが、あるとき大手医療機器メーカーに勤める友人から「ちょうどいい腹腔鏡手術の練習道具が欲しいのだけれど、工場で作れない?」と聞かれました。

 

どのような道具か聞いてみると、アルミやプラスチックの板を加工すれば簡単に製造できるものでした。ところが、医療機器メーカーが販売している本格的なトレーニング機器は数十万円もする上、基本的に病院のトレーニング室などでしか使用できない。個人で所有して日常的に練習したいなら、講習会や動画配信サイトを参考にして、医師自ら手作りしなければならない状況だというのです。

 

「手作り」と「数十万円」があって中間が存在しないなら、そこにニーズがあるはず。そう考えて、2~3万円で購入できるシンプルな腹腔鏡トレーニングBOXを販売したところ、これが大反響でした。ある学会に出展したら、1日中ブースから出られないくらいに医師が殺到。その後、要望に応えてバインダータイプの腹腔鏡トレーニング機器(折りたたんで本棚などに収納できるタイプ)も開発しました。毎年のように売り上げが伸びていき、一つの事業として十分に成り立つと確信しました。

 

KOTOBUKI Medicalの開発した手術トレーニング模擬臓器は5種類あり、開発中のものも多数。模擬心臓の試作品も(写真右)コンニャク製模擬心臓の写真

KOTOBUKI Medicalの開発した手術トレーニング模擬臓器は5種類あり、開発中のものも多数。模擬心臓の試作品も(写真右)

 

赤いコンニャクは内臓に似ている? 2年の開発期間を経て「本物そっくり」に

それから数年後、新製品の開発を考えていたとき、お付き合いのあった千葉大学フロンティア医工学センターの先生から助言をいただきました。「手術のトレーニングをするときに樹脂製のモデルや豚の内臓を使っているけれど、一長一短がある。それぞれのデメリットをクリアできる模擬臓器があれば、需要は大きいと思うよ」。

  

レバ刺し代わりのコンニャクにヒントを得て手術トレーニング用模擬臓器をコンニャク粉で試作したという

レバ刺し代わりのコンニャクにヒントを得て手術トレーニング用模擬臓器をコンニャク粉で試作したという 

 

面白いテーマだと思って調べてみると、当時の人工模擬臓器は安くても数万円、高いと数十万円もして、あくまでも研究用という位置付け。腹腔鏡トレーニング機器と同じように、10分の1くらいまで価格を落とした製品が求められていると感じました。でも、低価格で手術の練習に耐えられるような素材は本当にあるのか…。さまざまなアプローチを考えましたが、ピンとこないまま数カ月が過ぎていきました。

 

転機となったのが、2011年に焼き肉店で起こった食中毒事件。その影響で牛レバ刺しの販売が禁止され、一部の焼き肉店で代替品として赤いコンニャクのスライスを提供しているのを見ました。「赤いコンニャクは内臓に似ているな」と感じました。ちょうどその頃、腹腔鏡トレーニングBOXが埼玉県の「第4回渋沢栄一ビジネス大賞」で特別賞(ベンチャースピリット部門)を受賞して表彰式に行くと、大賞を受賞されていたのが地元のコンニャク屋さんだったんです。「これだ!」と直感が走り、コンニャクの作り方をさっそく習いに行きました。

 

ところが、実際にコンニャクを赤くしてみても、感触がまるで内臓と違うのです。電気メスや超音波メスで切ることはできても、つまんで引っ張ったり、縫ったりすることができない。何とか改良したいと、手作りコンニャクの粉を大量購入して、工場のキッチンに立ち続けました。試作したコンニャクを積み上げていたら、その干からびたコンニャクに独特な強さがあると気づき、幾多の加工を施して「ちぎれず、しなやかな素材」を作り出しました。スタートからおよそ2年が経っていました。

 

電気メスで切ると新たな層が表れる。どの層もコンニャク粉で作る

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