2019.04.08
5

"第3回 〜活動における印象的なエピソードと今後の展望〜
一般の人たちが理解を深め行動に移すために"

NPO法人Being ALIVE Japan/北野華子理事長インタビュー

2016年、スポーツを通じて病気や障害のため長期療養中の子どもたちをサポートすることを目指して設立されたのがNPO法人「Being ALIVE Japan」。自身も学童期に病気による長期療養生活を送った経験がある北野華子理事長に、同団体の活動のなかで印象に残っている子どものエピソード、そして、現状の課題や今後の展望を語ってもらいました。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世

北野華子さんの紹介

プロフィール

理事長

北野 華子(きたの はなこ)

1987年生まれ、兵庫県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒業、京都大学大学院医学研究科社会健康医学専攻修了後、慶應義塾大学SFC研究所の研究員として勤務。2013年に、医療環境にある子どもや家族に対して心理社会的支援を提供する専門職の資格取得を目指して渡米。留学中、病気や障害のある子ども向けのスポーツ・レクレーション活動の企画・運営も学ぶ。米国アトランタパラリンピックレガシー団体・「Blaze Sport America」に携わり、障害のある子どもに対してパラリンピックスポーツや身体条件に合わせたスポーツ活動(アダプテッド・スポーツ)の企画・運営を担当。その後、シンシナティ小児医療研究センターでのインターンを経て、認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト及び認定セラピューティック・レクレーションスペシャリストの専門資格を取得して帰国。埼玉県立小児医療センターにてチャイルド・ライフ・スペシャリストとしての勤務を経て、2017年にNPO法人Being ALIVE Japanの理事長に就任。2018年12月、社会のためにスポーツマンシップを発揮したアスリートや団体を表象する「HEROs AWARD 2018」において最優秀賞にあたる「HEROs OF THE YEAR」を受賞した。

「TEAMMATES活動」で応援されるだけでなく、応援することを学ぶ! 
キャプション
新たな経験は大人が思っていた以上に子どもたちに変化を促します。

活動を通じて特に印象に残っているのが、病気や障害のある子どもたちが、4~6ヶ月にわたってスポーツチームの一員となって実際の練習や試合に参加する、「TEAMMATES活動」(詳しくはインタビュー第1回参照)におけるエピソードです。男子プロバスケットボールリーグ  「Bリーグ」の大阪エヴェッサの一員となった、男の子の例を紹介します。

  

その男の子は「自分が頑張っている姿を発信することで、同じ病気の子どもたちに元気になってもらいたい」と、入団する時、自分の病気などの話をしてくれました。チームの一員になって一番楽しかったことは「選手たちとハイタッチすること」「入院中の友だちにもさせてあげたい」というのです。もっともやりがいのある仕事に挙げたのは、選手たちのユニフォームをたたむこと。プレーする選手たちにとってユニフォームがどれほど大切なものかわかったことで、それはもう、丁寧にたたむのです。いつしか、仲間を応援する立場に成長していました。

  

そんな彼が自分で選んだ背番号は「99」。99番はバスケットボールの背番号としては一番後ろですが、「一番後ろから支える、チームに欠かせない存在になりたい」という思いから選びました。そのような発言が子どもから出るなんて、本当にすごいことですよね。

  

現在も、彼はチームを支えています。ちなみに……家では一度も服をたたんだことがなかったそうです(笑)。でも、チームメイトや裏方のスタッフがきちんとユニフォームをたたんで大事にしている姿を目の当たりにしたことで、「自分もそうしよう!」という気になったというのです。

7週間のあいだに気弱な子どもが積極的に成長する「病院の中でスポーツ活動」
キャプション
「できない」を克服して、たくましく成長していく子どもたちの姿は感動的です。

積極性の芽生えという点では、「病院の中でスポーツ活動」(詳しくはインタビュー第1回参照)で出会った子も印象に残っています。

 

東京・世田谷区にある国立成育医療研究センターで、春と秋にそれぞれ7週間連続で土曜日にスポーツ活動を実施しています。会場に来たにもかかわらず参加しない子がいたので、お母さんに理由を聞いてみると、「病気で体が小さくて、スポーツでは負けた経験しかないから」ということでした。

  

その子は翌週も会場に足を運んでくれたので「きっと興味がある!」と思い声をかけたら、参加してくれたのです。しばらくは、ちょっと失敗すると「できない!できない!」と泣くことの繰り返しでした。やがて、率先して作戦を練り、友だちに「こうしたらいいよ」とアドバイスをするなどたくましく成長しました。最終回には「今日で終わってしまうのが悲しい」「今度はいつ来ますか?」とメッセージをいただきました。

 

継続的にスポーツをすることが子どもたちの心に変化をもたらしているのだと思います。その活動方針の効果を実感しています。

 
求められるPRと健常者への働きかけ
キャプション
私たちの活動をより多くの方に知ってもらいたいです。

2015年から活動をはじめ、大きな手ごたえを感じていますが、まだまだ課題もあります。一つは、「アダプテッド・スポーツ」が先進国であるアメリカでは、その活動が医療現場や地域生活に根付いていますが、まだまだ日本の病院の中では、スポーツをする機会や環境が整っていないこと。もう一つは、スポーツやレクレーションプログラムを計画する「セラピューティック・レクレーション・スペシャリスト」が少ないことです。

 

一般の人たちだけでなく、医療関係者や教育関係者にもスポーツが長期療養中の子どもに支援できる活動であることが、ほとんど知られていません。

 

「アダプテッド・スポーツ」が医療現場や地域生活に根付いた環境を日本で構築していくためにも、現地での活動はもちろん、PRにも力を入れていかなければなりません。少しずつですが、私たちの活動の場が増えているため、アスリートや医療関係者、教育関係者の協力を増やしていければと考えております。「HEROs OF THE YEAR」(※1)を受賞できたことも大変励みになりました。より多くのアスリートと一緒に活動できるきっかけにつながる賞をいただけたことに感謝しています。今後も、病気や障害のある人への理解を深め、関わる機会を作っていきたいと思っています。

 

(注釈)

※1:2018年12月に、社会のためにスポーツマンシップを発揮したアスリートや団体を表象する「HEROs AWARD 2018」において最優秀賞にあたる「HEROs OF THE YEAR」を北野華子理事長が受賞。

バレーボールに挑戦! まずは渾身のレシーブから!

活躍中のお兄さん・お姉さんから直接受ける指導は、刺激がいっぱいです。

お姉さんたちと一緒にチアダンス! みんなに元気を届けられました。

試合だけでなく、日ごろの練習にも参加。熱い円陣はチームの結束力を高めます!

チームメイトとして、喜びも悔しさも分かち合います。誰よりも強い気持ちで応援中。

取材日:2018年12月19日

メディカルサポネット編集部

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP