医療法人社団相和会 渕野辺総合病院
開設:昭和29年8月
院長:世良田 和幸
看護部長:渡辺 加代子
ベッド数:161床
看護基準:7対1
病院職員数:495名(非常勤職員153名含む)
看護職員:210名(非常勤職員を44名含む)
(看護師159名、助産師12名、准看護師4名、介護福祉士11名、看護助手24名)
規模を問わず、他の病院・施設の看護実践を知る機会はそう多くありません。同じ病院に勤務していても、隣の病棟に足を踏み入れるとまったく別の世界が広がっている経験をしたことがある方も少なくないでしょう。本連載では、中小規模の病院や施設がどのような看護を提供しているのかに焦点を当て、看護師の仕事の理解をより深化させるためのヒントを探るため、看護師・保健師・看護ジャーナリストである高山 真由子が密着取材しました。
第1回目は退院調整看護師の仕事に密着。外来~入院~退院~在宅療養の流れを円滑に動かすキーパーソンである退院調整看護師は、今や病院に欠かせない職種の1つです。具体的にどのような仕事をしているのか、知られざるその役割に迫ります。
密着取材2日目、病棟・訪問看護ステーションでのやりとり、他病院との情報共有と忙しく動く伊藤さん。経験を重ねたからこそ感じる様々な想いを胸に、患者さんのよりよい療養環境を目指して、1つ1つの仕事に向き合っていました。
取材・撮影・構成・編集/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)
渕野辺総合病院メディカルサポートセンター
地域医療連携課 医療福祉相談係
退院調整看護主任
◆プロフィール◆
岩手県出身。県内の看護学校を卒業し、都内の総合病院内科病棟に6年間勤務。
転居を機に、2005年渕野辺総合病院に就職。回復期リハビリテーション病棟等での勤務を経て、2014年よりメディカルサポートセンターに異動し現職。小学生と幼稚園児の2児の母。
渕野辺総合病院は、相模原市にあり、健診、訪問診療、救急、出産等、市民の健康をトータルでサポートする総合病院です。近隣の大学病院等と連携し、地域の中核病院としてその役割を担っています。
vol.1-①に続き、伊藤小百合さんへの密着取材2日目の様子をお届けします。
8:30 勤務開始
出勤するなり早々に6階病棟に向かい、医師を見つけてコンタクトをとる。この時間は外来や手術が始まる前に医師たちと直接話せる貴重な機会だ。ここを逃すと次に話せるのは外来後や手術後となり、退院支援を送らせてしまう可能性もある。今日は3人の医師から必要な情報収集や問い合わせ事項を聞くのが目標。
入院中の患者さんの喀痰吸引について相談。退院後在宅療養となると妻に吸引手技を覚えてもらう必要があるが、現状難しい状況。それならば施設に行くのか・・・答えはみつからず検討が続くこととなった。
次に、スタッフステーションに入り、特殊なポート針を使用している入院患者さんの退院後について主治医に相談。退院後外来で対応することで了解が得られた。
日勤の病棟看護師とも情報共有。糖尿病でインスリンの自己注射を始めた患者さんが、手技をどの程度習得しているか確認。退院に向けての関わりと、外来看護師への情報提供について依頼した。
もう1人の医師を病棟内で見つけられず、ここで時間切れ。相談室に戻ることとなった。
9:00 相談室に戻る途中、外来へ来ていた患者さんとバッタリ
移動中、退院後に外来へ来ていた患者さんを見かけたので声をかける。
伊藤さん:「おはようございます。元気ですか~?」
Aさん:「なんとかかんとか生きてます。あんたいつも声かけてくれてうれしいよ」 うれしそうな患者さんの表情に、伊藤さんも笑顔で返す。
相談室に戻ると、MSW(医療ソーシャルワーカー)からの相談が。ある入院患者さんが明日のカンファレンスで退院日程が決まるが、家族に喀痰吸引の指導をするのか否か決定していない状態だ。この患者さんの担当MSWが公休で不在のため、伊藤さんは彼の担当部署の情報確認も並行して行っていく。
取材当日は火曜日。今年から、相模原市の介護保険認定審査会のメンバーとなった伊藤さん。今週金曜日に審査会が開催されるため、当日はAM休日/PM審査会(直行直帰)というスケジュールとなる。さらに前日木曜日は公休であるため、今週の勤務は実質月・火・水の3日間だ。不在となる2日間を踏まえた上で、仕事を進めていく必要がある。
9:35 大学病院医療連携室から電話
渕野辺総合病院から大学病院に転送し入院していた70歳代(田中さん/仮名)の患者さんについて情報収集。大学病院を退院したものの、再入院が決まっており、それまで渕野辺総合病院の外来or入院でフォローするのだが、大学病院入院中の情報提供書がまだ届いておらず、状況確認すると同時にFAX送付を依頼。「医師からの情報提供書が届くまでに時間がかかるので、先に入院時の記録をFAXしてもらえるとスムーズですね」。本人が来院したと受付からの連絡を受け、待合室へ。
伊藤さん:「入院になっていろいろと大変でしたね」
田中さん(仮名):「うん、疲れたね」
伊藤さんを見て安堵の表情を見せた田中さん(仮名)だった。
9:55 介護保険認定調査員から電話
入院中の患者さんに介護保険の認定調査員が来訪するため、事前連絡の電話。13:30の来訪に合わせて、伊藤さんも立ち会うことになっている。
その後、外来師長から伊藤さんに一報。昨日の夜勤で救急搬送され入院した患者さんについて、今後伊藤さんの介入が必要と考えられるため「気にかけてね」と情報共有があった。
10:05 ケアマネジャーから電話
田中さん(仮名)のケアマネから電話。田中さん(仮名)の現状を報告し、今後ケアマネへの対応項目を伝達。
10:25 病院裏にある系列の訪問看護ステーションへ
頼まれていた医療物品を所長に渡し、その後新規で訪問看護依頼をした患者さんの情報を共有。この機会に他の病院との連携状況についても情報共有。
一方で、すぐ近くにあるとはいえ、対面で会うことはそう多くない2人。「そういえばあの患者さんのあの件だけど・・・」と話がどんどん広がり、お互いの収穫が増えることも対面のメリットだ。
10:50 6階病棟で申し送り
田中さん(仮名)は外来受診の結果、入院でのフォローを行うこととなり、病棟に出向きFAXをもとに受け持ち看護師に申し送り。 田中さん(仮名)はすでに病室に案内されており、ようやく落ち着きホッとした様子だった。
スタッフステーション内に伊藤さんが担当する患者さんがいたため「今日は調子どうですか?」と声かけ。密着1日目もそうだったが、伊藤さんのこうしたさり気ない姿に看護の本質が垣間見える。
普段はMSWが対応するが、他の電話に対応しているため伊藤さんが対応。指定の用紙があり、それに沿って必要な情報を聞き取っていく。基本情報・疾患・既往歴・ADL・食事・介護保険・家族環境・居住環境・今後の回復の目処等、多くの項目を手書きで埋めていくのは、なかなかのエネルギーが求められる。
11:20 退院調整看護師とMSWで話し合い
田中さん(仮名)の次回大学病院受診について、医療福祉相談係のメンバーで話し合いが持たれた。1人での通院・受診行動が難しいため、どのようなサポートを活用するか、意見交換を行った。
12:00 ランチ
この日は職員食堂へ。お手頃価格で定食から麺類までそろっており、なんともうらやましい限りだ。今日は「茄子と香草の冷やしそば¥300」を選択。同僚や他部署の仲間たちと歓談しながら、体と心をゆるめる時間だ。
13:30 介護保険認定調査の立ち合い・情報提供
午後の始まりは認定調査の立ち合いだ。病室に調査員が訪問し、金子さん(80歳代/仮名)・妻(キーパーソン)・息子・娘同席のもと始まった。この間、伊藤さんの観察眼は家族に注がれる。これまで妻と会うことはあっても、面会時に座っている状態であり、入院こそしていなくとも高齢であることから、今後夫婦2人での生活が維持できるのか、伊藤さんには不安があった。認定調査前に妻がトイレに歩く姿を「たまたま」目撃し、膝をかばいながら廊下の手すりにつかまりながら歩く様子を見て、伊藤さんの不安は的中する。膝が痛くて整形外科に通院中ということだったが、本人退院後に妻がケアできるのだろうか?また、今後何かしらの意思決定を2人でできるのだろうか?妻・娘と話しながら、伊藤さんの頭の中では「キーパーソンは娘に変更した方がよいのではないか」という考えが浮かんだ。
「外泊中困ったことは何でしたか?」という調査員の質問に「トイレとお風呂だね」と答えた本人。横で妻もうなずいていた。
13:40 調査員と病棟受け持ち看護師・伊藤さんの3人で情報提供
認定調査で金子さん(仮名)が話していたことの裏付けをしたり、夜間の様子について病棟看護師に尋ねたりして、客観的視点も含めて調査票を完成させていく。
13:50 認定調査員と伊藤さんの2人でさらに詳細の話を進める
介護保険導入となった経緯、今後の利用サービスの予定(今すぐではない旨)が認定調査員と共有された。
ここ、渕野辺総合病院では、院内で少なくとも月1回は介護保険認定調査が行われているという。入院前は自立していたものの、入院によって何らかの支援が必要になる高齢者は少なくない。また、すでに介護保険の認定を受けていても、退院までの間に介護度が上がるケースもある。サービスが整わないことが理由で退院延期とならないよう、入院中からのフォローが重要となるため、伊藤さんが担う役割は大きい。
「家族全員集合」という貴重なこの機会を逃す手はない。パンフレットを用いながら、退院後受けられる支援について、伊藤さんから直接本人・家族全員に説明が行われた。
伊藤さん(以下伊藤):「今回外泊されてみて困ったことはありませんでしたか?」 |
その後、別の病室を訪れたところ、何か話したそうな雰囲気を察知した伊藤さんが、面会フロアのテーブルに案内すると堰を切ったように役所での福祉手続きに関する対応について不満を話し始めた。電車とバスを乗り継いで赴いたものの、解決に至らず「病院に行って伊藤さんに聞けばいいんだわ」と思い直し役所を後にしたという。退院調整看護師の存在は、家族にとっての拠り所にもなっている。
―「帰りたい」と「ムリだよ」のはざまで抱くジレンマ |
15:10 「たまたま」ベッドサイドリハビリテーションに遭遇し、患者さんの様子を確認
普段は患者さんの横になった姿しか見ていないが、この日はリハビリで端座位になるところに立ち会えた。理学療法士がバイタルサインを確認しながら進めていく。
「ラウンドしているとこういう場面にも遭遇できるので、いいことがたくさんあるんです」。明日は車いす乗車にトライしてみるとのこと。少しずつADLが上がっていく姿は伊藤さんのモチベーションも上げてくれる。
何時に来るかわからない家族の面会のタイミングと、伊藤さんが病棟にいるタイミングが合致することは稀だ。この日は入院から1ヵ月たった患者さんの家族に初めて会うことができた。明日ケアマネジャーと訪問看護師が来院し退院後の方向性について話し合う旨を確認。伝達事項のある・なしに関わらず、家族と実際に対面することは、家族との関係性や退院に向けての家族の意向確認等の情報にもなるため、伊藤さんは常にアンテナを高く張り続けている。
ケアマネジャーと訪問看護師が患者さん・家族の「帰りたい」を全力でサポートしてくれるところと、残念ながら必ずしもすべてがそうではない。時には困難ケースもあるが、「どんなに困難なケースでも、医療者側があきらめたらそれまで」という伊藤さんの言葉は、おそらく退院調整に携わる人なら誰もが抱く想いではないだろうか。
金子さん(仮名)が退院後すぐに対応してもらえるよう、支援の必要性があると判断した時点で情報提供。
・患者さん概要
・今後の方針(認定調査は実施済み
・環境確認(手すり設置を希望している)とサービス説明の依頼
上記について先方に伝え、今後の対応を依頼した。
上司である日髙課長は伊藤さんをどう見ているのだろうか? 「入院前支援のシステム作りを構築する時から一緒に仕事をしてきました。他職種にどう伝えれば理解を得られるか、言葉を選びながら取り組む姿勢は非常に評価しています。また、イヤなこと・面倒なことから逃げずにしっかり向き合う人でもあります。病棟看護師との情報共有は時に難しさを感じることもあります。
以前と比べれば、病棟と相談室が関係性を深め、お互いのすみわけができるようになりました。病棟や外来の看護主任たちが、より退院調整看護師を理解し、どこまでを病棟・外来が担い、どこから伊藤さんに依頼するのか、考える段階にきています」と話す。 「この仕事はもちろん知識や情報量も大切ですが、センスが最も問われるものだと感じています。彼女はそのセンスを持っているので、非常に期待しています」。
「ポケットがパンパン」が「ナースあるある」の1つであることには誰も異論はないだろう。しかし、伊藤さんのポケットに目をやると、病棟看護師のそれとは異なりゆとりがあるように見える。いったいどのようなお仕事グッズが入っているのだろうか?出てきたのは名刺入れ・院内PHS・スケジュール帳(写真右から)。仕事の特性上シリンジやアルコール綿を使うことはない。「病棟時代は名刺入れを持つことはなかったので、最初の頃は名刺交換もぎこちなかったですね」。活躍場所が変わると持ち物も変わる。
17:30 会議「5領域連絡会」に参加
2ヵ月に1回開催されるこの会議では、院内でスペシャリストとして活躍する看護師5名と看護部長がそれぞれの活動報告、今後の研修予定、課題共有をする場となっている。伊藤さんいわく「1人っ子部署のメンバーが集まった会議」だそうだ。
参加職種は下記の通り。
・化学療法認定看護師
・NST専門療法士
・感染管理認定看護師
・医療安全対策室副室長
・退院調整看護師
・看護部長
伊藤さんは、主任会を通して病棟に退院超調整の普及活動に関する報告、退院調整に関わったケース(成功事例・困難事例)の振り返り・共有について発表した。
「看護師になった当初は、自分がこのフィールドに来るとは思っていませんでした。たくさんの職種の方たちと関わって、1人の患者さんのゴールに向けて動いていくことに大きなやりがいを感じています。中心にいる患者さんとご家族に寄り添い、想いに近づいて自宅に帰ってもらえたらと思います。スッキリしないこともあるけれど、在宅の人たちから『私たちに任せといて!』と言ってほしいですし、病院の人たちには『自宅に帰せない人はいない!』と思ってもらえたら」。
退院支援のフィールドに足を踏み入れ6年、着実に歩を進める伊藤さん。強みである“センス”を磨きながらこれからも進化が続くことだろう。今後の課題をACP(アドバンス・ケア・プランニング/意思決定支援)だと語る。「健康な時から関わる必要性があると理解しつつも、その想いを形にする難しさをこれまでの関わりを通して感じています。医師の治療方針を患者さん本人がどう受け止めてどうしていきたいのか、考えを引き出しながらその人らしさを支援していきたいです」と話してくれた。 「人生の在り方」に思いを寄せ、「その人を支える」退院調整看護師の仕事。急変対応も点滴交換もないが、その仕事は看護の真髄そのものだった。
医療法人社団相和会 渕野辺総合病院
開設:昭和29年8月
院長:世良田 和幸
看護部長:渡辺 加代子
ベッド数:161床
看護基準:7対1
病院職員数:495名(非常勤職員153名含む)
看護職員:210名(非常勤職員を44名含む)
(看護師159名、助産師12名、准看護師4名、介護福祉士11名、看護助手24名)