在宅医療をはじめ、チーム医療を円滑に進めるために、多職種連携は欠かせないものとなっています。しかし、「連携」と一言で言っても、職場も職種も対象者への視点も異なる人たちがどのように連携をはかり、ケア実践へとつなげているかはケースによって様々です。日々開催される多種多様な会議の中で、各医療職者および利用者・家族との間でどのようなやりとりが繰り広げられているのか、また会議の雰囲気、その後の連携方法について、詳細を知る機会は多くありません。本連載では、多職種連携の実情について、さまざまなケースを紹介し、リアルな姿に迫ります。

取材・撮影・編集/高山 真由子(看護師・保健師・看護ジャーナリスト)

多職種連携ものがたり vol.3 多職種が集う勉強会 <大野北は・あ・とネットワーク>【後編】

  

 前編に続き、「大野北は・あ・とネットワーク」での勉強会の様子をお届けします。株式会社サンドラッグファーマシーズ サンドラッグ相模原淵野辺薬局の管理薬剤師、新宮利夫(にいみや・としお)さん、株式会社サンドラッグファーマシーズ調剤マネジャーの斎藤健太(さいとう・けんた)さんが、「薬局が関わる在宅の流れ」というタイトルで配布された資料をもとにプレゼンテーションを行い、活発なディスカッションが行われています。在宅分野で薬剤師に求められる役割とは?!

医療費削減のキーマン、訪問薬剤師

   

ケアマネジャー訪問導入時における質問です。最初にお話いただいた3つをはじめ、いろいろな提案方法があると思いますが、基本的に「訪問で」という主治医の指示は処方箋に記載されるのでしょうか?

斎藤さん(以下、斎藤):はい。処方箋の備考欄に「訪問の指示」という文言が必要になります。

ケアマネジャーそれは必ず必要ですか。

斎藤:そうです。ただ、抜けていても、こちらから疑義照会して訪問の確認がとれれば、薬局側は「確認しました」という記録をつけていますから、訪問可能です。

ケアマネジャー最終的には「訪問が必要だ」ということを記載してもらう必要があるということですね。他科受診もしていて、クリニックに複数通院している方は、必ずすべての医療機関からの訪問指示が必要ですか。

新宮:基本的に薬剤師の訪問は介護保険が大前提となります。基礎疾患があり、それに対するケアプランがあって、さらにその薬に対して「訪問の指示」が出ているわけです。他に処方されたものが基礎疾患に関連するかによっても違ってきますね。例えば、心臓病の方が眼科で白内障の目薬をもらった場合は、私どもの薬局でお渡しすることはもちろん可能ですが、訪問指示の処方箋ではなく医療保険の処方箋の1つとして出す、ということになります。

ケアマネジャーその目薬のセッティングはできるんですか?

新宮「外来服薬支援料」を活用し、患者様からの相談で、医師の了承を得てから他の病院などのお薬をまとめてセットするなどを行うことができます。細かい話になりますが「訪問の指示」のあった処方箋とは別の扱いになります。

ケアマネジャー複数のクリニックにかかっていても、主となる主治医の先生が訪問が必要と認めてくれれば基本的には行けるということですか?

斎藤:実際は行っているという状況ですね。

医療連携室看護師長:違う薬局で処方されていたら、それを把握する手段は現場に行くしかないということですか?

斎藤:そうですね。お薬手帳を複数持っていたり、薬名ラベルを貼り忘れたりしているということもありますから、自宅に行って初めて他にも薬が出ていることがわかるケースも多いです。みなさん自宅や病院から近いところで薬をもらうことが多いので、我々が把握するためにもその方にはお話しして、「なるべくここの薬局に来てください」とお伝えしています。そうしないと次に来た時に、副作用や他院での処方状況が分からなくなってしまうんです。

 

多職種連携ものがたり vol.3 多職種が集う勉強会 <大野北は・あ・とネットワーク>【後編】画像1      

医療連携室看護師長:薬が見えるところに出ていたからわかりましたけど、もし引き出しにしまい込んでいたら分からない可能性はありますね。

新宮:そうなんです。たまたま引き出しにあったので「あれ?」と思いながら・・・。

ケアマネジャーそういうことはお薬手帳でチェックするんですか?

新宮:そうですね、お薬手帳でもチェックできるので、手帳に薬名ラベルが貼っていなくて「あれ?」と気付くこともありますが、正直すべてを把握できているかというと100%ではありません。

渡辺看護部長:A病院、Bクリニック、C診療所、D歯科医に通院していて多くの薬を処方されている患者さんに対して、ライフスタイルに合った飲み方を伝えたり、残薬調整したりという関わりが一番理想ですね。この患者さんにとっての在宅の薬剤師さんとしてコーディネートしていただけると。

新宮:かかりつけ薬剤師はそういった考えをもとに始まった背景があるので、今後も積極的に活用していただきたいですね。

渡辺看護部長:なるべく少ない種類で、必要な薬を選り分けてくれる、そういった部分が前面に出てくると、患者さんにも非常にメリットがあるし、それこそ医療財政にとっても薬剤師さんが活躍する意味があると思いますね。とはいっても、病院に疑義照会する際もすぐに対応してくれる医師もいれば、難しいこともありますから、職種を超えてお互いにリスペクトしながら機能していくところが今後の課題でしょうね。もう少し薬剤師会が頑張ってもいいのかなと私は思うんですけど(笑)。

一同:─笑。

新宮:わかりました。がんばります!

  

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訪問看護師との協働で実現できること

   

渡辺看護部長:訪問看護師さんからよく聞くのは、訪問看護の依頼内容が「服薬確認」が非常に多いということ。そこが一番優先度高いと、1回30分~1時間の訪問のメインが服薬状況や残薬確認になり、他のことができなくなってしまう状況があります。そういう時に薬剤師さんに依頼すれば、一緒に課題を解決できたり、訪問看護師がもっと別のことをできたりすると思うのですが・・・。

訪問看護師:そうですね、薬剤師さんが入ってくれると私たちはもっと他のことに関わることができます。現状は残薬確認に追われて、本当は生活状況を確認したいのにできないまま終わってしまうことも多いです。今関わっている薬剤師さんは、「お薬カレンダーにセットした分はしっかり内服できています」と連絡いただきますし、他のクリニック行って薬が増えたとしても、きちんと対応してお薬カレンダーに入れてくれていますね。

  

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病院副看護部長:今後在宅薬剤師がメジャーになって依頼が増えていった場合、薬剤師のコストの問題も含めて、1件にどのくらいの時間をかけて、1日1人の薬剤師が何件訪問できるのかを考えたら、薬局として「依頼がきても受け入れられません」という事態も発生してくると考えられるんですよね。

新宮:それは絶対ないとは言い切れないですけど・・・。

病院副看護部長:医師が簡単に依頼できると、あなたも行ってもらいなさい、あなたもあなたも、と次から次へと依頼が来る可能性が考えられますよね。そうなった場合にどのような対応をするのかにも関心があります。
新宮:依頼に対してはできる限り応えていくべきなので、人を増やすなどの対策をとって対応すると思います。ただ、薬局によっては訪問頻度が減る可能性が考えられます。とはいえ、私どもの訪問件数はまだ少ないですから、訪問の人数が増えていけば増えていくほど、訪問の頻度が減る可能性は考えられます。お断りするくらいに広がるのは目標ですね。

一同:─笑。

 

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新宮:それだけ多くなれば、やりがいも出てくるとは思いますが、今の外来と一緒で、人数が多いとじっくり説明することが難しくなってしまうことが予想されます。

斎藤:実際今、多いところで月200件在宅に行っている薬局もありますが、200件のうち6割~7割が施設なんです。

一同:あー(納得の相づち)

斎藤:その場合、1回の訪問で何十人にも関わることができるので、200件対応することが可能です。今後需要が増えた時には、訪問の間隔をあけたり、薬局内で効率化をはかるために新しい機械を投入したりして、訪問に行けるマンパワーや時間を確保する方向性になるはずです。事実、薬の値段はどんどん下がっています。逆に「知識を持っているなら有効に使いなさい」「しっかり患者さんに説明しなさい」という部分が評価される仕組みになってきているので、今後在宅件数が増えてもできる限り断らないようにしていくことが今の私たちの方針です。

  

PRできなくなった一包化

  

ケアマネジャー:自宅に訪問すると、心臓病や糖尿病など複数の疾患を抱えて何種類もの薬を内服しているにもかかわらず、一包化されていない高齢者がたくさんいます。「一包化してもらったらどうですか?」と聞くときょとんとした顔をするんです。「1つの袋に朝の薬が全部入っていて、袋を破って飲むだけなんですよ」と説明すると「えー?!」と驚く方が多くて・・・。例えば薬局に『一包化 便利です』という案内があるといいなといつも思います。費用負担も含めて、「一包化」という方法があることすら知らない高齢者が多いので。もちろん出来る方は自分でやっていただくのがいいと思いますが、高齢になって体が弱ってくると、お薬を準備するのも大変なことが多いので、薬局でPRしてもらえると助かります。 

斎藤:そのPRですが、国の医療費削減施策で厳しくなっていまして、一包化も昔は医師の指示があれば誰でもできましたが、今は基本的に「麻痺」「認知症」「精神障害」といった疾患上の理由が必要になっています。

  

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斎藤:家族が同居している場合は難しいですが、「独居」「手の震えがあるため内服しづらい」「認知機能低下」など、ある程度聞き取りをして一包化の必要性が高いと判断した場合は、医師に一包化の依頼をすることはあります。

ケアマネジャー:気軽に「一包化してください」と言えなくなりますね。

斎藤:理由があれば大丈夫です。訪問看護が入っている場合は介護が必要だったり、周りに介護者がいないことが多いので、一包化の指示は得られやすくなります。

渡辺看護部長:患者さんやご家族への案内は難しくても、「このサービスを活用すると在宅療養の質の向上が期待できます」といった医療者向けのインフォメーションはもっとあってもいいと思いますね。医療者も結構知らないですね。ドクターも知らない人が多いんじゃないかしら。せっかくいい仕組みだから、うまく使えるようにしたいですね。こうして話していただくと、我々が知らないこともたくさんありますね。

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高齢者支援センター相談員:素人の質問で申し訳ないんですけど、疑義照会に対して医師は絶対答えなければならない義務があるんですか。

新宮:基本的にはそうですね。

高齢者支援センター相談員:疑義照会に対して、返答がないということはあり得ないわけですね?

新宮:はい、医師は答えなければならない義務があります。逆にいうと返答がないと、我々薬剤師は調剤ができず、最悪の場合処方せん受付を断らざるえないケースもあります。実際やったことはありませんが(笑)。なんとかして主治医にに確認とろうと電話するものの全然応答がなくて、病院に直接確認しに行ったこともあります。 

渡辺看護部長:薬剤師さんの責務を自覚した上でやっていただけているということがすごく伝わってきます。今後の活躍を期待したいですね。訪問に対応している薬局の一覧表などを活用しながら薬剤師さんをうまく巻き込んで今後の連携を進めていきましょう。皆さん今日はありがとうございました。

   
発表者の株式会社サンドラッグファーマシーズ/新宮利夫さん(右)と斎藤健太さん 

表者の株式会社サンドラッグファーマシーズ/新宮利夫さん(右)と斎藤健太さん 

  

<取材を終えて>

多職種が集う場は会議だけではありません。渡辺加代子看護部長の呼びかけで始まった「大野北は・あ・とネットワーク」はすでに4年間/25回以上開催されていることからも、この会が果たす役割の大きさがうかがえます。職場・職種を越えて各々の専門分野の知識・情報提供、また、参加者とのディスカッションを通して求められていることを知る(=視野を広げる)ことで、今後の活躍につなげることができます。それぞれが勤務を終えて集まり連携を深める彼らの努力によって、多職種連携は進化しています。 今後、薬剤師が在宅に関わるケースは間違いなく増えていきます。しかし、薬局という箱から飛び出して地域に根差すことはそう容易ではありません。模索しながら、また、地域・住民の特性も考慮しながら介入のタイミングを推し量り、よりよい療養環境の構築に欠かせない存在になると期待したいと思います。

 

【協力施設】

医療法人社団相和会 渕野辺総合病院


〒252-0206
神奈川県相模原市中央区淵野辺3丁目2番8号
開設:昭和29年8月
TEL 042-754-2222

院長:世良田 和幸

看護部長:渡辺 加代子

ベッド数:161床

看護基準:7対1

URL:http://www.sowa.or.jp/fuchinobe/

医療法人社団相和会 渕野辺総合病院

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