2018.03.12
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被災地の医療提供体制、地域内での自己完結が鍵
研究グループが調査・検証

メディカルサポネット 編集部からのコメント

2万2000人以上が犠牲になった東日本大震災から今年で7年を迎えました。住居や道路、鉄路などは整備されつつありますが、現在も約7万人以上の人が避難生活を余儀なくされています。被害にあった宮城県名取市は、災害関連死の件数は人口比では他の沿岸部の自治体よりも少ないとみられています。災害による被害を食い止めるカギは、『災害時の医療提供体制を地域内で完結させること』。日頃からの地域の医療連携や身体的弱者の対策を充実させておくことが大事です。



被災地の巡回診療について説明する名取市医師会の丹野尚昭会長=写真右=(3日、東北大災害科学国際研究所)


東日本大震災から11日で7年を迎える中、医学・公衆衛生研究者らによる調査・研究が進んでいる。3日には東北大の災害科学国際研究所で、東北大と順天堂大の研究グループが避難所の医療提供体制などを検証する会議を開催し、宮城県の名取市医師会の丹野尚昭会長から避難所の巡回診療などの状況や課題に関する説明を受けた。東北メディカル・メガバンク機構も2月、自宅が全壊した人について、「メタボリック症候と有意な関連が認められた」との調査結果を発表。抑うつや不眠などに関しても「震災の影響は強い」と考察している。【新井哉】

名取市医師会、近隣病院と連携して医療提供体制を維持

名取市では、2011年3月11日の東日本大震災の発生後、同市医師会と医療機関が連携し、DMAT(災害派遣医療チーム)やJMAT(日本医師会災害医療チーム)などの支援を受けず、市内の医療提供体制を維持した。外部の支援に頼らず、なぜ避難所の巡回診療を継続できたのか。

同市の記録などによると、震度6の地震と津波に見舞われた同市の死者・行方不明者は900人超。市の全面積のうち約3割が津波で浸水し、避難所には多数の被災者が詰め掛けた。

医師会の会員の中には診療所が被災して市外に転出したり、亡くなった医師もいたりして、万全の状態で避難所の巡回診療を行えたとは言い難かった。それでも、医師会の医師や看護師らは、市民と一緒にガソリンスタンドに長時間並び、車の燃料を手に入れ、地道に避難所を回った。

発災当初から休日夜間急患センターで診療も

医師会が運営する休日夜間急患センターが被災せず、活動拠点にできたことも大きい。震災当初は電話の不通状態が続き、医師同士の連絡が取れず、口頭で指示や情報交換をする場所が必要だった。診療所が被災した医師の中には、発災当初から同センターで被災者の診療に当たったケースもあったという。

災害関連死は40人超となったが、人口比では他の沿岸部の自治体よりも少ないとみられる。丹野会長は「市内にある県立がんセンター、近隣の宮城社会保険病院(現在の地域医療機能推進機構仙台南病院)の医師や看護師、薬剤師が積極的に巡回診療に加わってくれたことが大きい」と振り返る。避難所の被災者は、市外から応援に来た医師よりも、地域の顔見知りの医師に安心感を抱き、慢性疾患の症状や体調の良しあしを打ち明けるケースが少なくないからだ。

こうした被災地の教訓は生かせるのか。首都直下地震に備え、避難所の運営や医療提供に関する研究を行っている順天堂大研究基盤センターの坪内暁子助教は「被災後に外部から支援を得られないことも十分考えられる。それに備え、医師だけでなく、歯科医師、薬剤師、リタイアした看護師などの医療関係者を活用することが求められる。日ごろから地域の医療連携や身体的弱者の対策を充実させておくことが大事だ」と話している。

自宅全壊の人、メタボリック症候群で高リスク

東日本大震災からの復興事業となっている東北メディカル・メガバンク計画も研究の成果を出しつつある。この事業を担う東北大と岩手医科大の東北メディカル・メガバンク機構は、15万人の参加を目標とした長期健康調査(地域住民コホート調査=8万人、三世代コホート調査=7万人)を実施している。

今回は13―15年度に宮城、岩手の両県の特定健康診査などに参加した6万3002人の調査結果を分析。メタボリック症候群に該当する人の割合は、男性が24.8%、女性が8.2%だった。男性に関しては、自宅が全壊した人の方が自宅の被害がなかった人よりもリスクが高くなったという。

こうした状況を踏まえ、同機構は「自宅の被害の程度は、喫煙・飲酒・身体活動量・心理的苦痛・抑うつ症状を考慮してもなお、統計学的に有意なリスク上昇と関連していた」などと指摘。住居被害を被った人について、「メタボリック症候群と関連するメカニズムについて検討していく必要がある」としている。今後、参加した人に対する追跡調査を実施し、健康状態の推移を把握する方針だ。

出典:医療介護CBニュース

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